20141011

私達の戦争 50: 未来に向かって4、最終稿




    

「隣国との融和」を取り上げ、この連載の最後とします。
長らくお読み頂きありがとうございました。

戦争と融和
攻守共、戦争には軍事力と、戦争に同意する国民の存在が不可欠でした。
この国民の同意は、相手国への恐怖や歴史的な遺恨が根になり、無知や無理解、先入感が相互に災いし、やがて雪だるま式に膨らんでいきます。
この悪循環を断ち切ることはなかなか困難なようです。

人類はここ数千年の間、身近な紛争を調停し予防する為に素晴らしい法体系(正義と罰則)を発展させて来ました。
さらには憲法を創始し、国家権力を制御することにも手をつけるようになりました。
しかし国家間の紛争の解決や予防には、二度の国際連合創設をもってしても不備な面が目立ちます。
世界は国家を越える紛争の解決と予防のシナリオや法体系を今だ模索中なのです。

さらに日本は他国から侵略された経験がなく、侵略後も反省を実感することなしに経済発展を成し遂げることが出来た。
後者は、一つには朝鮮戦争が起こったことにより、米国(GHQ)はそれまでの日本復活阻止と非武装路線から、反転して日本を赤軍への防波堤に育成することにしたからでした。
これは不幸中の幸いとも言えるが、大戦後のドイツとフランスとの融和、さらにEUへの統合を考えればチャンスを逃してしまった。

結局、融和が苦手な隣国と日本も、自ら融和を図らなければ戦争の危機は深まるばかりです。


融和を阻むもの: 無知・誤解・先入観・扇情



< 2.日中で、互いの印象の推移。言論NPO。 >
*紫線: 中国での、日本への好意的でない世論の割合
*赤線: 日本での、中国への好意的でない世論の割合

日本では、2006年まで嫌中感情は40%を切っていたが、2007年に急に悪化した。
中国では、2005年に高かった反日感情が2007年には低下し、2009年にはまた急増し、2013年には日中共に90%まで上昇した。
この期間、尖閣諸島を巡り台湾、中国、日本がつばぜりあいを行っていた。
2005年、日本は尖閣諸島の灯台を国有化した。
2007年、中国は尖閣諸島付近で海洋調査を始め、領有権を主張した。
2009年、日本は周辺海域に巡視船を派遣した。
2010年から12年にかけて、東京都知事の発言が切っ掛けとなり、日本は国有化を決定した。
ここで重要なことは、小さな島を巡る対立だが、互いに報復措置を繰り返している間に、両国民の嫌悪感が相乗して高まっていったことです。
この手の事例は、日露戦争後、日中間で幾度も繰り替えされて来た。



< 3.日中で、互いに軍事脅威を感じている割合。言論NPO2013年。 >

日本にとっての脅威は北朝鮮が一番であり、次いで中国となる。
中国にとっての脅威は米国が一番であり、次いで日本、私達が恐れる北朝鮮と韓国にはほとんどない。
これは、日米軍事同盟の強化が中国を非常に刺激する事を意味する。
さらに深読みすれば、北朝鮮は中国の懐にあるので中国次第で脅威が薄らぐこと示唆している。



< 4.日中で、「将来、日中間で戦争があるか?」との質問に対する回答。言論NPO2013年。 >
*左円が日本、右円が中国の世論。
*濃い青が数年以内、薄い青が将来に戦争勃発を予想している。
*赤と黄色は戦争が無いと予想している。

中国では、日本の軍事脅威53.9%相応に戦争勃発の可能性52.7%を感じているが、日本では脅威61.8%に比べ戦争の恐れを感じていない(23.7%)。
日本人は戦争勃発を甘く見ているが、中国人は切実なものと感じている。
この温度差を日本側が理解しておかないと、不用意に虎の尾を踏むことになる。
太平洋戦争開始時、日本の首脳が米国を甘く見ていたように・・。


< 5.世界のGDPシェアの推移。楽天証券。 >
今後、アジアの東部から南部一帯が世界経済の中心になることでしょう。



< 6.16年後、46年後の世界のGDPシェア。OECD。 >

日本国内で、長年、中国は経済破綻すると言われながらも、ついに日本を抜き米国に迫っています。
そして16年後、中国の経済力は米国の1.6倍になりそうです。
2013年の中国の軍事費は米国の1/5に過ぎませんでしたが、米国と同率の軍事費を使うとして逆に1.6倍の軍事費を持つことになります。
確実に中国の影響力は増しており、世界を牽引するアジアにあって中国とインドが中心になっていくことでしょう。


< 7.「世界に与える影響が良いか悪いか」を聞いた結果。BBC,2013年。 >
*世界22ヵ国で16ヵ国についての世論調査。

良い影響を与える国と世界が評価している順位は日本4位、中国9位、韓国10位でした。
嫌中・嫌韓でおとしめる風潮が強いが、世界は日本と同様に隣国も評価している。
ちなみに前年は日本が1位、中国が5位だった。

皆さんに質問があります―日本の常識と世界の常識の差
1.       中国に進出している外国資本で最大の国は何処でしょうか? 
2.       日本の貿易相手国で最大の国は何処でしょうか?

答え: 1.日本。2.中国。
日本と中国は経済的に最重要のパートナになっている。

3.       地球幸福度指数ランキングで中国??位、韓国68位、日本75位、米国114位。
     2009年度、英国の環境保護団体発表。持続可能性を考慮し、環境負荷と国民の満足度を評価。2006年度でも似たようなランキングでした。
4.       幸福度ランキングで米国6位、日本21位、韓国??位。 
     2013年度、OECD発表。中国は非加盟で無し。2011年度、米国2位、日本22位、韓国24位。
5.       人間開発指数ランキングで米国5位、韓国15位、日本??位。
     2014年度、国連発表。中国記載なし。2009年度、日本9位、米国13位、韓国26位。

答え: 3.20位。4.27位。5.20位。
評価方法と年度によりバラツキはあるが、大半の人が抱いている隣国のイメージとは異なるはずです。
それにしても韓国と日本は似た水準にあります。

6.       民主主義指数ランキングで米国17位、韓国??位、日本22位、中国136位。 
     2010年度、英国の研究所発表。
7.       世界報道自由ランキングで、米国46位、韓国57位、日本??位、中国175位。
     2014年度、国境なき記者団発表。

答え: 6.20位。7.59位。
この二つは戦争へと暴走させない為に、国民にとって重要な指標です。
中国は独裁国家に近いのですが、それでも遅ればせながら民主化への改革は進んでいます。
韓国も以前は軍事独裁の後遺症で民主度は低かったが、急改善し日本を追い抜きつつあります。

世界報道自由ランキングが2010年から2014年にかけて大きく後退しました。
この悪化は福島原発事故での民主党政権の対応のせいだと噂されています。
ここに日本が再び暴走しかねない深刻な理由が隠れているのです。
それは、日本の政治(官僚と政権)に都合の悪い情報を隠すことが良しとする体質があり、この悪弊は染みついたものです。
この報道ランキングの日本の順位は2002年から2010年まで26,44,42,37,51,37,29,17,11位、2012年から22,53,59位でした。
元々、日本の報道は先進国の中でレベルと自由度が低い上に、震災後、益々悪化しています。
これは機密保護法、NHK経営委員などの問題に呼応しています。
これは内部告発が出来ない日本の組織文化に由来し、原発の安全神話やかつての戦争推進に加担することになりました。

最後に
私達は、隣国の情報を残念ながら直接入手することが出来ません。
多くは隣国と言葉が通じず、友人もいないでしょう。
どうしてもマスコミなどのフィルターを通して知ることになります。
しかし政府や優勢な報道機関は、どうしても現状を支えている米国寄りになってしまいます。

私達は、疑いを持って、自ら広い範囲に情報と友人を求めて、隣国を正しく評価しなければ、将来の道を誤ることになるでしょう。

三ヶ月にわたる長期連載にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
少しブログを休ませて頂きますが、また始めますのでよろしくお願いします。




20141009

私達の戦争 49: 未来に向かって 3

     

前回、起きるかもしれない戦争を想定しました。
今回は、その予防策を検討します。


    

対処法
前回、戦争毎に日本が取るべき対処案A,B,Cを記しました。
Aは自国の軍備増強で、Bは日米同盟強化で、共に既定路線の強化策です。
Cは、それぞれに応じた理想的な策ですが既定路線から外れています。

従来の対処法の是非
Aの軍備増強案 : 即、防衛と抑止効果を実感出来るのだが万全ではない。むしろ遅れて軍拡競争と敵意(警戒感)を生み、紛争の起爆剤になりやすい。

説明
如何なる敵と核兵器をも撃退する軍事力を所有することは無理です。
世界1位の米国の軍事費70兆円に対して6位の日本は5兆円で到底追い越すことは出来ないし、また軍拡競争に陥ります。
既に見てきたように、軍事力強化と仮想敵国想定自体が互いに疑心暗鬼に走らせ、多くの敵意を生みだしました。
また不用意な境界線などの作戦配備は、中ソ国境のダマンスキー島事件のように紛争勃発の引き金になりやすい。

軍事力は必要ですが、歴史が示すように軍事依存体質は紛争の火種を大きくしていきます。

    

Bの日米同盟強化: 軍事同盟は一国の軍事力不足を補え、抑止力を高めるのだが、これも問題を含み、個別の日米同盟には別の問題がある。

説明
集団的自衛権で見たように、通常、仮想敵国を含む同盟と対立することなり、これもまた軍拡競争と敵意(警戒感)を生むことになる。
大規模な同盟対決は、冷戦下のように頻発する代理戦争と、開戦の頻度こそ低いが、一度起きれば途方もない大きな戦争に発展することになる。

同盟を何処と結ぶかは、戦史が示すように国の命運を分けます。
中立の選択肢もあるが、これは戦争を避ける妙手ではあるが、孤立に繋がるのでグローバル化時代には合わない。
米国と結ぶのは、いざ戦争になっても軍事援助が期待出来、これが抑止力になると言う立場です。
この可能性を否定しませんが、所詮、米国が主で日本は脇役であり、米国にとって日本は防波堤に過ぎず、始まればベトナム戦争やイラク戦争の二の舞になるでしょう。
既に見てきましたが、抑止力は不確実なだけでなく、災いの種にもなりました。

同盟が目指すべきは、第一に紛争や戦争を予防することにあります。
その為には、最も紛争が起きやすい、国境を接し過去の怨念がくすぶっている隣国と融和を目指すべきです。
少なくとも、隣国と対立する国(米国など)との同盟強化は火に油を注ぐようなものです。
但し、現時点での隣国との軍事同盟は時期尚早でしょう。
第一次世界大戦前、英国は戦争を回避するために急膨張するドイツと同盟を結ぼうとしたがうまくいかず、結果的にドイツ包囲網(英仏露)で対立する結果になった。

また覇権国家=軍事大国はやがて気ままで横暴な政策を取り始めるようになり、これがまた紛争の原因にもなります。
中近東やアフリカ、中南米の内戦の原因は、かつての植民地政策の後遺症が大きいのですが、後に米国が強引な介入(裏でも)したことも大きく関わっています。
米国は両大戦までは孤立主義で、外国に干渉しない立前だったのですが、今や、軍事派遣では世界をリードしています、すべてが悪いわけではないが。
さらに米国はそのこともあり、武器生産では世界トップであり、紛争を熾烈にする武器輸出が重要な産業になっています。

    

予防策の基本とは
それでは戦争を根本的に予防するには、何が重要なのでしょうか。

暴挙に出ないように各国の軍縮
銃社会で考察したように、軍事増強は抑止力よりも戦争の可能性を高めます。
かつて世界は軍縮会議を幾度も行った実績があり、核兵器では二ヵ国間で合意が進んでいます。
一国だけよりも、各国の合意のもとで全体に漸次軍縮を図ることです。
そして通常兵器と核兵器の生産と流通量を減らし、全体で兵器を管理することです。

紛争調停と違法軍事行動の制圧
当事者間での紛争調停や一国だけの防衛・撃退では限界があり、放置すれば軍拡競争、泥沼に入り込みます。
これを防ぐには、周辺国や中立的な国(紛争当事国から信頼されている国)が参加して、紛争調停や違法軍事行動への制圧を行うことです。
現在、これは米英主体か希に国連が主導して行うこともあるが、恣意的か不完全です。
恣意的な軍事行動は反発を蓄積させます。
現在、NATOやアフリカ連合、ASEANなどが機能しています。
出来るだけ近隣から広域で、多宗教と多民族が参加して合意形成を行うべきです。

    

周辺国との融和を図る
いつの時代も紛争と犯罪の種は尽きません。
ましてこれからはその要因は深刻で大きな広がりを持つようになっています。
一番重要なのは、紛争の要因を積極的に取り払うことです。

軍事力は警察と同じで不可欠ですが、軍事力使用には歴史上繰り替えされている大きな問題があります。
紛争解決の戦争の結果、多くの血の代償としてオール・オア・ナッシングになり易く、これが次の紛争の種を宿すことになります。

紛争を予防するには、先ず隣国から、過去の軋轢を無くしていく努力と工夫、歩み寄りが最も大事です。

これらは常識的な範疇の予防策で言い古された感がありますが、これしかないように思います。

ここでまた、おそらく次の厳しい一言が返ってくるでしょう。
「最低で、たかり罵るしか能のない隣国をどうして信頼出来るのか、現実離れも甚だしい・・」

次回は、この問題を検討します。




20141008

私達の戦争 48: 未来に向かって 2

     

今日は、日本が将来巻き込まれるかもしれない戦争を想定します。
ほとんど予想は外れるでしょうが、一つでも当たれば悲惨です。
しかし、そこから見えてくるものがあります。

*2

起きるかもしれない戦争とは
1.北朝鮮による核攻撃
被害 : 核ミサイル着弾1発で死者数十万人。
可能性: 常識的には無いが、ヒトラーがベルリンを廃墟にして自死した例もある。
対処 : A=完璧な迎撃体制。B=日米同盟による核の傘。C=日中韓の包囲網。
 
2.韓国と国境紛争で開戦
被害 : 核攻撃無しで死者数万人以下になればよいが、他国参入により拡大か。
可能性: 紛争開始でも米国の仲介を期待出来るが、日韓の感情的亀裂が障害。
対処 : A=軍備増強。B=日米同盟強化。C=韓国と融和、さらに中国とも。

3.中国と国境紛争で開戦
被害 : 中国の核と軍事力により死者数百万人を越えることも。
可能性: 対立する米国仲介の効果低い。核攻撃無しで米軍援護を想定しても、日本は防波堤に過ぎず、決着のつかない戦場になるかも。
対処 : A=軍備増強。B=日米同盟強化。C=中国と融和、さらに韓国とも。

*3

4.テロ攻撃
被害 : 日本の原発一基が狙われても最大死者数十万人。
可能性: 現在、テロの可能性は低いが、恣意的な海外派兵が続くと報復される可能性が高く、海岸の原発は危険。またテロ集団には核抑止力が効かず、防御が困難。
対処 : A=核施設の防備強化。B=日米同盟強化。C=世界中のテロ集団を抑制する為に世界的な武器管理と軍事強制力・警察力が必要。

5.世界大戦
被害 : 核攻撃なしで、死者は世界で1億人以上、日本で数百万人以上。
可能性: 以下の要因が絡み合い、地域紛争から世界大戦になるかも。
イ.地球規模で地下資源枯渇と農水産資源の限界。人類が初めて経験し、秒読み段階。
ロ.世界中で経済格差増大(南北問題)、発展はしているが不満鬱積か。
ハ.繰り返すたびに巨大化している経済恐慌、米国発の10年毎の金融危機など。
ニ.既存大国と新興大国のパワーバランスの変化、世界の戦史が示している。
ホ.武器の蔓延とテロ集団の国際化で国境を越え広域化する紛争。
ヘ.今次大戦後、融和が進んでいない地域(特に東アジア)は、第一次から第二次世界大戦に至る同じ轍を踏むかも。

対処 : A=軍備増強。B=日米同盟強化。C=世界的な仲介・調整機能の拡充と世界的な軍事強制力・警察力が必要。

*4

6.核戦争
被害 : 1発のミサイル攻撃から連鎖して作戦配備中の数千発が発射され、一瞬にして世界の数億~数十億人が死亡。
可能性: 核拡散を防止出来ないため、安上がりの軍備である核兵器が蔓延し、偶発や想定外の事件で今後勃発の可能性は高まる一方。
対処 : A=完璧な迎撃体制。B=日米同盟強化。C=世界的な核制限の合意と強制力が必要。


*5

これらのケースが起こらない為に、私達はどうすれば良いのでしょうか?
おそらく次の一言が返ってくるでしょう。
「それは専門の軍人や政府に任せれば良い。素人の浅智恵など・・・」
今まで戦争を分析して来ましたが、開戦は指導者達の言動こそが要であり、国民は賛否を示すだけに終わりがちです。
国の指導者達は、よく言えば全体を見ながら、悪く言えば過去と現在のしがらみ(選挙、経済、政党、軍、外交)が足枷となり、平和や安全について国民の目線とは異なるようです。

任せていれば、おそらく徐々に深みにはまり、同じ過ちを繰り返すことでしょう。
国民が自ら善し悪しを判断出来なければ駄目です。
国民が世界を見据えて長期ビジョンを持たない限り、戦争を防げません。

次回、どのような選択があるかを考えます。



20141006

私達の戦争 47: 未来に向かって




    

今まで、私達の身の回りで起きた戦争や軍備について考察しました。
連載を終わるにあたって少し未来に目を向けます。

振り返って
この連載では、日本が経験した今次の大戦を振り返り、また戦争や軍備の基本的な概念(自衛、抑止、銃、核攻撃など)を見て来ました。
私が皆さんにお知らせしたかったことは、戦争が如何に起き易く、想像を絶し広範囲に及ぶ悲劇が待っていることです。

一度、不用意に足を突っ込むと、当初、国民に戦意が無くとも、また指導者がたとえ避けようとしても、やがて開戦から泥沼へと突き進む可能性が高いのです。
このメカニズムは複雑ですが、太平洋戦争に至る過程を極論すれば、引くに引けない指導者達、熱に浮かされる人々、信じて付き従う人々がそこにはいたのです。
それは半世紀を超える軍事大国邁進の帰結であり、それは数千年の間、人類が繰り返して来た「戦争の甘い罠」でした。

今、私がひしひしと感じるのは、戦後半世紀が経ち、悲惨な体験が忘れ去られ、またもや一昔前の熱に浮かされ初めていることです。
その切っ掛けは、超大国の陰りと猛追する大国とのパワーバランスの変化、資源問題に端を発する国境問題などにあります。
しかし、このような転換点は姿かたちこそ変われいつの世にもありました。
人々が、そのことで簡単に踊らされてしまえば、また同じ轍を踏み、何年か後に深い悲しみ包まれることになるかもしれません。

    

戦争はなぜ起きるのか
私はこの連載で詳しく説明しませんでしたが、本連載の「戦争勃発」や「連載、戦争の誤謬」で扱っています。
色々な要因が重なって起きるのですが、一つだけ断言出来る事があります。
戦いは人間が主体であり、悪感情が災いしていることです。

たとえ狂信的な指導者が戦争を煽っても、国民が冷静であれば容易に戦争に突き進むことはないでしょう。
しかし恐怖心や嫌悪・蔑視感情を煽られると、人々は容易に賛同し始めます。
当然ながら、指導者がこの手を使うからこそ起きるのであって、多くの民主国家が起こす戦争のパターンと言えます。

例えば、あなたに隣国で言葉が通じる友人が沢山いて、隣国のことを良く知っていれば、あなたの反応はどうでしょうか。
隣国と戦うことに国益があるとか、恐怖の根を断つためとか、名誉のためとか、言われても・・・・。
隣国への無知、無関心、無理解が大きな障壁になっているわけです。
理解が進むようになれば、多くの戦争原因である国益の奪い合いでオール・オア・ナッシングではなく、フィフティ・フィフティの妥協が可能になります。

    

異論を唱える人もいるはずです。
何も好きこのんで戦争をしたいわけではない。
隣国が先に仕掛けてくるから、隣国が挑発するから、弱みを見せてはならないから、逃げずに行動するのだと・・・。
この問題については既に説明して来ましたが、これも隣国への無知、無理解が拍車をかけている可能性があります。

概ね、戦争防止に何が必要かわかっていただけたかと思います。

    

ここで注意して頂きたいこと
それでは誰が敵意を煽るのでしょうか?
もし善意ある指導者や国民ばかりであれば、戦争は起こらないのでしょうか?
実は、このような場合にも戦争が起きる可能性はあります。
あまり説明していなかったことを一つだけ取り上げます。

それはマスコミの影響です。
現在、過去の戦争を否定的に報道するマスコミが一方にあり、同じ愚を犯してはならないと警鐘を鳴らし続けています。
一方で、過去の戦争を肯定的に報道するマスコミがあり、隣国を非難し続けています。
これは自由な言論の範疇に収まっているのでしょうか。

問題点だけ指摘しておきます。
過去に、後者のマスコミ報道が世論を席巻し、戦争に突き進んだのが半世紀から1世紀前のことでした。
それこそほとんどの報道や言論界が、徐々に好戦的になって行きました。
この手の報道は、政府と同調する時、いっそう勢いを得て危険度が高まります。
この問題を避ける一手として、欧米はヘイトスピーチの禁止や、虐殺事件などの否定報道の禁止を定めているのです。
最近、日本の元駐中国大使の弁によると、日本のマスコミ全体が中国の悪い事だけを報道する傾向にあるそうです。

*5

しかしもう一つ問題があります
それは明確に表面化していないのですが、日米関係です。
日本が今あるのは米国のおかげであり、その影響力は経済・金融・外交・防衛に深く根付いています。
米国にとって、日本は東アジアに対する防波堤であり橋頭堡であり続けています。
日本が米国から離脱し、東アジアと一体になることは、米国にとって最大級の危険要因です。
当然、これを阻止する為にはあらゆることが裏で行われるでしょう。
そのような例はGHQ以来、日米の密約、世界でのCIA暗躍などに見られます。

次回に続きます。





20141003

私達の戦争 46: 集団的自衛権とは

 < 1. NATO軍 >

今まで自衛と抑止、核抑止論を見て来ました。
最後に、集団的自衛権の基本的なところを見ます。

集団的自衛権とは
「国連憲章第51条で加盟国に認められた、ある国が武力攻撃を受けた場合、これと密接な関係にある他国がその武力攻撃に協同して反撃する権利」広辞苑より。

国連が認めるこの権利に問題があるように思えない。
おそらく、多くの人はそう思われるのではないでしょうか。
そこで、歴史上有名な軍事同盟から、集団的自衛権の功罪を見ます。
両者は、厳密には異なるでしょうが、基本的な働きでは同じです。
それは勝利や交戦防止に役立っこともあったが、最後には破滅をもたらすこともあった。

    

様々な軍事同盟がもたらしたもの
*ペロポネソス戦争
紀元前5世紀、アテネとスパルタがギリシャ諸国を二分する同盟に分かれ戦い、これにより全土が疲弊することになった。
ことの発端は、ペルシャ帝国の侵攻を防ぐ為に軍事同盟が創られ、アテネが盟主となった。
やがてアテネは絶大な権益を得て、益々軍事大国を目指し強権的になっていきました。
これに反発し警戒する勢力がスパルタを盟主とする同盟を結び、アテネ同盟(デロス同盟)と戦うようになった。


    

*秦の統一
紀元前3世紀、春秋戦国時代の末期、秦国は残り6ヵ国を滅ぼす為に遠交近攻策を取り、ついには天下統一を成し遂げた。
これは先ず遠方の国と同盟を結び、近隣の国から征服し、漸次征服を拡大させる戦略でした。
日本の戦国時代、隣国を牽制する為に、その背後の国と同盟を結ぶことがよく行われました。


    

*第一次世界大戦
1914~18年、主にヨーロッパで、次々と主要各国が参戦し史上最初の総力戦が行われた。
その半世紀ほど前から、ヨーロッパの列強5カ国とロシアが勢力拡大と交戦防止のために、二手に分かれて同盟を結んでいた。
民族問題で火種を抱えていたバルカン半島も、この余波を受けて二つの同盟に分かれて組みしていた。
バルカン半島で起きた、一つの暗殺事件を切っ掛けに、同盟国を巻き込んで連載的に戦火が拡大し、遠方の日米すら参戦することになった。


 
    

*太平洋戦争
既に、独伊がヨーロッパで、日本は中国との戦争を始めていた。
そこで日本は強力な軍事同盟を日独伊と結ぶことにより、英米ソとの交戦を避け、戦況の打開を図った。
しかし、それがすべて裏目に出ました。

軍事同盟の功罪
歴史的や私たちの身の周りにおいて、弱い者同士が手を握り、防御するのは自然の成り行きです。
しかし、既に「銃がもたらすもの」「自衛とは」「抑止力とは」「核攻撃」で見たように、各国が軍事同盟に頼り、外交手段(意思疎通)を閉ざしてしまうことは、双方が疑心暗鬼になり、より敵意を増大させ、軍拡競争に突入してしまうのです。
そして、ちょっとした誤解や事件から戦端が開き、同盟締結前と比べものにならない戦火の拡大となるのです。
日本においても、豊臣政権から江戸幕府にかけて天下統一がなされると、配下の大名の勝手な婚姻が禁じられました。
同盟に至る行為は大きな武力蜂起に繋がると危険視されたのです。

軍事同盟―集団的自衛権は、戦争と平和に対して、両刃の剣なのです。

国連憲章第51条の意味
それではなぜ国連は戦争を招き易くなる集団的自衛権を認めたのでしょうか?
そこには国連のディレンマから抜け出す苦渋の選択があったのです。
国連参加の中小国は、大国の拒否権や米国が主張する集団的自衛権を問題にした。
米国にとって集団的自衛権は連邦制の軍隊やモンロー主義もあり国是だった。
また拒否権などにより安全保障理事会による武力攻撃への強制行動が間に合わない場合、自衛権と集団的自衛権が認められていれば、各国は対処出来ることになる。
しかし一方で、それらを認めないことで米やソ連が国連から離脱することになれば分裂が生じ、これまた戦争の起因になることが懸念された。
こうして条文は成立した。

その後、度重なる拒否権の行使は、多くの強制行動を不可能にし、またNATOやワルシャワ条約機構などの集団的自衛権に基づく同盟が生まれた。
結局、矛盾を孕んだままの妥協であった。

日本国憲法9条との整合性
自衛隊を持つことは、規模にもよるが違憲とまでは言えないだろう。
しかし集団的自衛権については、今まで政府は違憲と解釈して来た。
一方、政府が解釈変更を絶対に行ってはならないわけではない。
残念なことに、日本の違憲審査制度が確立していないので、勝手な解釈変更を正す手段がないのが致命傷です。

米国の場合は、成文憲法の制定が最古であり未完とも言えたので、後に憲法修正が行われた。
またかつて議会で解釈変更が行われようとした時、合衆国最高裁がそれを違憲とし、米国では三権分立が機能していることが示された。

日本にとって問題は、三権分立が機能しておらず、政府の恣意的な転換を正すことが出来ないことにある。
この状況の中で、集団的自衛権の合憲決定は、蟻の一穴が大きな崩壊をもたらすのと似ていると言える。


集団的自衛権とどう向き合えば良いのか
既に見たように、国や国民が安易に集団的自衛権に頼ると、敵を作り、戦端を開き易くしてしまい、戦火も増大するのです。

最も良いのは、敵意を醸成しない自衛だけを目指し、世界が一つの同盟になることです。
それは取りも直さず国連の正常化であり、安全保障理事会の上述の欠点を正すことが重要です。
日本にとっての次点の策は、EUNATOのように、かつての交戦国が手を携えることでしょう。
国家間の戦争の多くは国境で起きるので、隣国と手を結ぶことが戦争防止の基本です。
戦争は簡単に起きますが、平和を構築するには誤解を解き融和を築くことが不可欠です。

戦争を回避するには長期ビジョンと長期の努力が必要になるでしょう。

次回からは、この連載の最後のテーマを扱います。