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今回は、経済に害悪をもたらす投機の横行について考えます。
* 投機が横行すると何が問題なのか?
株などの金融商品や先物商品への投機がなぜ経済発展を妨げるのか?
最大の問題は二つです。
* 一つは、資金が産業育成に向かわないからです。
金融商品には、商品価格の乱高下を補うヘッジや資金調達、保険など企業活動に必要なものもあります。
しかし高利回りを生む莫大な金融市場が存在する中で、事業家は資金を倒産覚悟で利益率の低い実業への投資に向けるでしょうか。
金融業界はバブル崩壊の危険はあるが、資金力の大きい銀行や投資会社は必ず政府によって助けられる。
バブル崩壊で実業(製造販売)も被害を受けるが、政府援助は届かない(金融は心臓血管、製造は手足でしょうか)。
< 2.如何に金融は肥大化したか >
37年間の増加率は、GDPで先進国5.8倍(年率5%)、株価は31.9倍でした。
つまり、資金を実業より株に注ぎ込む方が6倍(年率10%)多く増えるのです。
実は、このケースは19世紀後半英国を衰退させた原因でもありました。
英国は製造業が衰退すると、国内資本を発展途上国(主に米国)への融資しに集中させた。
そしてロンドンシティは活況を呈し、英国は頻繁する欧州恐慌の震源地となって行った。
中央銀行による貨幣供給量が年々増加し、富(通貨)が増えるので、借金してでも投資に便乗する方が得策です(個人投資家には難しい)。
さらに悪い事に、金融取引はタックスヘイブン(租税回避地、ケイマン諸島など)を介して行え、まったく無税で資金を増やすことが可能です(合法であり富裕層には天国)。
これでは真面目にやる人は馬鹿を見るだけです。
言い換えれば、現代は大資本家(投資家?)が中央銀行と政府の協力を得て、金融市場を通じて、ほとんど無料・無税で莫大な富を貰い続けている。
例えばこんな理不尽なことも日常茶飯事になった。
悪辣なファンドは、為替や株の先物の仕手買いで数千億円を瞬時に儲ける。
その一方、仕手を仕掛けられた国や企業は数年に亘り甚大な被害を受ける。
< 3. アジア通貨危機の被害国とGNP下落率 >
1997年のアジア通貨危機で5ヵ国は急激な景気後退(GDP40%減)に見舞われ、死者(緊縮による疾病や失業による自殺)が10万人?を越え、救援に3兆円の国際援助が必要になった。
しかし仕掛けたファンドは罰せられない。
黒田日銀総裁は著書「通貨の興亡」で、このアジア通貨危機に触れていた。
彼は、単にタイの通貨政策の甘さを指摘するだけで、ファンドの非や被害の甚大さには一言も触れていない。
こんな人物が日本経済を世界初の金融緩和に晒している。
出口戦略を批判されても意に介さない、おそらく失敗しても平気だろう。
これでは、汗水流して物づくりに励む実業家は報われない。
これらのことが実業家の生産性や付加価値上昇への意欲を減退させ、周り回って労働者の賃金を低下させ、苦しめることになる。
* もう一つは、益々酷くなる金融危機を招いているからです。
現代の金融危機は、単純に中央銀行の過剰な通貨供給が続いた後で起こっている(遅れることもあるが)。
かつて各国は恐慌の再来を防ぐ為に、国の通貨供給量を一元的に管理(抑制)する中央銀行を設け、かつ政府から独立する形にした(赤字国債の引き受けが常態化しないように)。
ところが最近の中央銀行は政府の下請けになり、積極的に金融危機を育てている(安倍やトランプで酷くなった)。
このことが災いし、ここ半世紀、金融危機はほぼ10年以内に繰り返すようになり、その被害は益々甚大になっている。
< 4. 金融危機と失業率 >
上のグラフ:
失業率(青破線)は金融危機で乱高下し、日本とユーロ圏で長期に悪化している。
賃金インフレ率はすべて低下傾向にあり、賃金は下落か横這いになった。
下のグラフ:
米国の72年間を見ると、金融危機を繰り返す度に失業率は増加傾向にある。
金融危機は、それまでのバブル時の好景気を、倒産と失業の増大で帳消しにしてしまう。
さらに悪い事に、実業家は金融危機の再来に備えて、固定費を抑え、人件費と投資を抑える(賃金下方硬直性、日本で顕著)。
そしてせっせっと内部留保に回し、金融商品や海外投資に精を出すことになる。
さらに成熟した国(高賃金国)は以前から工場を海外に移し、産業の空洞化が進んでいたので、なおさら被害は大きい。
また国民の預金・保険・年金は銀行・保険会社などで運用されているが、低金利を避け、以前よりリスクのある金融商品で運用するようになっている(株価暴落でGPIFはいずれ大損)。
こうなれば国内の産業発展や賃金上昇は望むべくもない。
さらに馬鹿げていることに、アベノミクスでは、60兆円もの海外投資を奨励し、企業減税を繰り返し、株の購入で衰退に拍車をかけて来た。
この60兆円は日本の年間設備投資額に匹敵し、政府がわざわざ大資本には海外で利益を、国内企業には衰退を奨励しているようなものです。
しかも、御目出度いことに国民は久々の国際援助で、首相は世界から賞賛されていると大歓迎、これでは良くなるはずがない。
もっとも、国が衰退し始めると、海外に触手を伸ばすのはこれまで大国の常套手段だったのですが(英仏の帝国主義)。
次回に続きます。