20171214

何か変ですよ! 87: 何が問題か? 10: そこにある未来





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今回は、日本の未来を考えます。
これはバラ色ではないはずです。
なぜなら日本は疲弊していく先進国と同じ道を辿っているからです。


はじめに
既に、私のブログで憂うべき状況を幾度も取り上げてきましたが、今回は若い人々の未来に焦点を当てます。

将来、日本で深刻度が増す問題
A: 年金と退職金の大幅な減額
B: 生涯賃金の大幅な減少
C: 介護費と医療費の負担増

多くの若い人は未来に不安を抱いていないように見える。
彼らは、今までもそうであったようにこれからもうまく行くと信じたいはずです。
まして現在、日本は好景気なのだから、きっとこのまま良くなって行くと期待さえしているかもしれません。

しかし、私の想定する40年後の未来(今の20~30才代の人が60~70才代になる頃)は生活がかなり苦しくなっているでしょう。
今の60~70才代に比べ、彼らが自由に使えるお金はおそらく2~3割減るでしょう。
当然、彼らのこれから受け取る生涯賃金もかなり減り、貯蓄は益々困難になり、老後資金はかなり不足するはずです。

聞きたくも信じたくもないだろうが、悲惨な結果を容易に予測できます。
この予測を行う前に、悪化が現実に起きている事を知ってもらいたい。
その先例が既に日本が手本とする先進国で起こっているのです。


先進国で今、起きていること
経済が豊かであるはずの先進国で今、何が起きているのでしょうか?




< 図2.米国のマルチ世代家族の人口比率と人口、by Pew

上のグラフ: マルチ世代家族で暮らす人口の比率。
下のグラフ: マルチ世代家族で暮らす人口、単位百万人。
米国の総人口は現在3.2億人。

このグラフから米国のマルチ世代家族(祖父母と親子の三世代家族)の人口が1980年代から増え始め、この傾向が加速している様子が見て取れます。
特に2008年以降、急増しています。
皆さんの中には、これは移民が増えた結果ではないかと疑う人もいるでしょう。



< 図3. 米国の人種毎のマルチ世代家族の人口比率の変化、by Pew  >http://www.pewresearch.org/fact-tank/2016/08/11/a-record-60-6-million-americans-live-in-multigenerational-households/


このグラフから、確かにマルチ世代家族は白人以外で多いが、むしろ白人家族の増加率は多人種より若干多いと言える。
この変化は人種に関わらず米国のすべての家族で起きていると言えます。




< 図4.英国で増え続けるマルチ世代家族数 >
 Multi-family households, 1996 to 2013, UK by Office for National Statistics

これは英国のマルチ世代家族の最近の傾向を示しています。
ここでもマルチ世代家族の家族数の増加が見られます。
特に2008年と2012年には急増しています。
但し英国の場合、総家族数(2016年1890万家族数)に占めるマルチ世代家族の割合は直近で1.5%に過ぎない。

この米英で起きている現象は、ある重要な経済の変化と関りがある。


この背景にあるもの


< 図5. 米国の失業率の推移 >

このグラフから長期失業者が増加傾向にあることがわかります。
また1980年代前半と2008年以降(リーマンショック)は高失業率に見舞われています。
この時期と図2のマルチ世代家族の増加の時期はよく符合しています。



< 図6. 英国の失業率とGDPの推移 >

このグラフからリーマンショック以降、増加した失業率が高止まりしており、このグラフでは分からないがその余波は2012年まで続いた。
ここでも図4のマルチ世代家族の2回の増加時期が符合している。

つまり、マルチ世代家族が増えた背景には、失業率の増大があったのです。
失業者が増えると、その家族達が支え合うようになったと考えられます。
これを昔の温かい家族形態への回帰と諸手を挙げて喜ぶべきではないでしょう。
当然、所得の低下も起きています。

これには更に根の深い問題があるのです。


1980年代から英米で何が起きているのか?




< 図7. 米国の所得階層毎の所得の推移、by TheAtlantic

このグラフはバブル絶頂期(リーマンショック前)までの所得推移を示しているが、所得下位の60%までは1979年から30年間で17~59%も所得を減らしている。
それも上位1%の層が309%増やしているにも関わらず。

ここで是非とも知って頂きたい事は、経済が好調になれば所得が一時回復し失業率も低下するのですが、バブル崩壊を繰り返す内に確実に益々多くの人が所得を低下させ、長期失業者が増えると言う現実です。
このことは図5と図7からわかります。

もしあなたが、2007年の時点で図7の所得推移を見ているとしたら、きっと未来は洋々とし復活が約束されていると思ったことでしょう。
しかし、現実は非情でした。




< 図8.米国の所得階層毎の平均所得の推移、by Business Insider 

リーマンショック後の2011年には下位90%(赤線)の人までが1970年代よりも所得を10%以上減らすことになった。
実は、このことはITバブル崩壊後の2003年(図7)でも同様のことが起きていました。

もし今の日本の好景気が世界のバブル経済に起因しているのであれば、確実にこの先、2008年のリーマンショックを遥かに越える金融危機が世界を襲うでしょう。

現在、大国(米国、ユーロ圏、日本、中国)は歴史的な貨幣供給を行って来ており、日本だけはまだ継続さえしている。
従ってバブル崩壊はほぼ間違いないでしょう、いつ起こるかは予測できませんが。

なぜこのような不条理が米国中心に起きているのでしょうか?



< 図9.高額所得者(1%)の所得シェアの推移、社会実情データ図録より >

このグラフから平等を守ろうするフランスを除いて、特に米英で高額所得者の所得シェアが1980年代から急増しているのがわかります。
残念なことに、日本も少し遅れて1990年代後半から格差が拡大しています。
この時期は日本政府が米国流の金融改革(金融ビッグバンなどの自由化)を1996年から始めたのに対応しています。



< 図10. 各国のGDPに対する社会的支出割合(福祉政策)、by wikipedia

この図から各国の社会的支出割合(再分配)の程度が分かり、右の方がより高い。
米英でのマルチ世代家族数の違いは、所得格差を是正するはずの社会的支出が両国で違うことによるのでしょう。
米国は赤線、英国は茶色線、日本は黒線、カナダは左側欄外にある。
福祉国家と呼ばれる北欧とフランスを青線で示す。



まとめ
つまり英米で起きている家族形態の変化は、繰り替えされるバブル崩壊によって引き起こされた長期失業者の増大と国民の所得低下がもたらしたものでした。

そしてこの失業率の増大と国民の所得低下、逆に高額所得者の著しい所得増加は1980年代から起きている。

これは既に紹介しているサッチャーとレーガンによる政策「自由放任主義経済と金融重視」と「小さな政府による福祉政策(再分配)の切り捨て」への転換が始まりです。
前者の経済政策については、多くの先進国で大なり小なり実施されており、特に日本は益々その度を強めています。
後者の社会政策についても、多くの先進国が倣っていますが、逆に北欧やフランスのように強めている国もあります。

したがって、日本が現状の米国追従の経済政策を続ける限り、やがて米国と同じか、さらに急激な少子高齢化が重なり悪化は深刻化するでしょう。

つまり日本の将来は大多数の国民にとって経済的困窮が必然なのです。

しかし、一つだけ希望があります。
北欧は同じ資本主義国家でありながら、その経済・社会政策(福祉国家)により高い幸福度と高い経済力を維持していることです。
いずれ紹介します。


次回は、日本の勤労者の惨めな未来を予測します。




20171212

フランスを巡って 48: シャルトル大聖堂の内部






*1

今日は、シャルトル大聖堂の内部を紹介します。


 

< 2. シャルトル大聖堂の構造 >

上の図: 平面の断面図。借用。
下の図: 上の図の赤矢印から見た俯瞰図。グーグルアースより。


 
< 3.後陣(東端)の比較 >

上の写真: 初期ゴシック建築のシャルトル大聖堂の後陣。借用。

下の写真: ロマネスク建築のサント・マリー大修道院付属教会の後陣。借用。

ゴシック建築はパリ郊外のサン・ドニ教会の後陣改築から始まったが、続いて建てられたシャルトル大聖堂と以前のロマネスク建築の後陣を見比べると、両者の違いが明瞭になる。

この変革によって、後陣は大きな窓で開放的になり、鮮やに彩られたステンドグラスからの陽の光りが聖書の世界をより印象的に物語るようになった。
また主祭壇を囲む周歩廊は屋根が高く広く明るくなり、外側に放射状に配された礼拝堂への参拝がやり易くなった。

これによる全周の壁の荷重を軽減する為に幾つものフライング・バットレス(飛梁)が放射状に地上まで伸びている。



 
< 4. 様々な光景 >
左上の写真: 美しい身廊のヴォールト。

右上の写真: 身廊中央の床に描かれた迷宮。
これは十字軍の時代、エルサレム巡礼が叶わぬ信者達に体験出来るように造られたと言われています。

左下の写真: 尖頭アーチのヴォールト。
ゴシック建築から半円アーチではなく、このような二つの円が頂点で交わる型になり、高さを自由に取れるようになった。


 
< 5. ファサード(西中央の門)のバラ窓 >

下の写真: バラ窓下の3枚のステンドグラスの右端を拡大。
これは「エッセイの家計樹」と呼ばれ、最上段にイエスが座す。




 
< 6. 南翼廊のバラ窓 >

左上の写真: バラ窓。
右上の写真: 南翼廊の左手(東側)の側廊に対になった二つステンドグラスが見える。

下の写真: 上記ステンドグラスの左手の最上段が「美しい絵ガラスの聖母」です。
ステンドグラスの黒い影はフライング・バットレスによるものでしょう。


 
< 7. 様々なステンドグラス >

左下の写真: 北翼廊のバラ窓。


 
< 8.青色が美しい >

撮影を失敗し、有名な「シャルトルの青」をうまく再現出来ませんでした。


 
< 9. 身廊から内陣を望む >

明るい陽射しに包まれた内陣。



 
< 10. 内陣を囲む壁の彫刻 >

周歩廊に沿ってこのような彫刻群が連なる。



次回に続きます。




20171210

何か変ですよ! 86: 何が問題か? 9: 常識は非常識?






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前回は、今話題の忖度を巡る馬鹿々々しさを取り上げました。
今回は、トランプ大統領の評価を巡る奇妙さを取り上げます。
この二つから日本の常識が見えて来ます。


はじめに
この12月6日、トランプ氏は「エルサレムはイスラエルの首都」を承認した。
中東の荒廃と経緯を知る人々にとって、この宣言は平和を破壊する以外のなにものでもない。
彼は単に「私は選挙公約を実行した」と言っている。
ここでも大国の無自覚な横暴がまた繰り返された(ベトナム戦争、イラク戦争)。

主要国と近隣諸国の首脳、ローマ法王らはこの宣言に嫌悪感を示した。

そんな中で、日本の中枢はトランプ氏と親密な首相に忖度し(おもねり)だんまりを決め込んでいる。

日本では安倍首相は外交に長けており、米国のトランプ大統領との親密さに現れていると評価する向きがある。
その一方で、危なっかしいトランプ大統領に付き従うなどはもってのほかと、首相のスタンドプレーを危惧する向きもある。

この違いは概ね、右派と左派の違いと言えそうです。
本来、右派がポピュリズムのトランプ氏に好感を持つ理由は無いように思えるのですが(理由は後にわかります)。

ここでは、日本の右派が高評価するトランプ氏は海外からどのように評価されているかをみます。
このギャップを通じて、トランプ現象と彼との親密さを喜ぶ日本の危険性を考えます。


トランプ氏への世界の評価



 
< 2. 2017年、トランプ氏の低い信頼度、by PEW 注1. >

カーキー色の左側横棒はトランプ氏を信頼しないパーセント、緑色の右側横棒は信頼のパーセントを示す。
西欧諸国や南米、日本でさえ圧倒的に彼を信頼していないことが歴然としている。
逆にロシアやイスラエル、フィリピンでは彼への信頼度が高いが、これらは強権的な国家で共通している。
アフリカのナイジェリアは政治の腐敗が深刻で混乱しており、強い大統領が求められているのかもしれない。

こうして見ると世界の大勢は、トランプ氏に不信任を突きつけているように思える。


 
< 3. どの大統領が世界に正しいことをするでしょうか、by PEW >

韓国やカナダ、英国、オーストラリアはトランプ氏(茶色)よりもオバマ氏(赤色)を断然評価している。
ここでもイスラエルとロシアでは逆転している。
イスラエルは今回のトランプ氏の首都発言を期待していたのだろうか。



 
< 4. 西欧におけるトランプ氏の評価はジュニア・ブッシュ氏と同様、by PEW  >

三人の米国大統領に対する西欧の評価の明暗が一目瞭然です。


結局、世界の良識(民度が高い国の国民)はトランプ氏をかなり低く評価している。



一方で高く評価する人々もいる
実は、違った見方がある。
安倍首相がトランプ氏と肝胆相照らす仲であるように、西欧各国のあるグループはトランプ氏を高評価している。

 
< 5. ヨーロッパで右翼を支持する人々はトランプ氏を支持する、by PEW >

ヨーロッパ各国の代表的な右翼ポピュリスト政党を支持する人々のトランプ氏への評価は緑色の丸で示されるている。
この右翼を支持しない人々のトランプ氏への評価はカーキー色の丸で表示されている。

結局、すべての国で右翼に好感を持つ人々はトランプ氏にも好感を持つ。
ここでも、トランプ氏への評価が高い国は社会が疲弊している傾向がある。
これらの理由の一端が下のグラフからわかる。


 
< 6. 世界37ヶ国によるトランプ氏の性格評価、by PEW >

世界の性格評価は、1位傲慢、2位不寛容、3位危険でかなり否定的に見られている。
続いて強いリーダーやカリスマ性で高評価を得ている。

如何にもトランプ氏はタカ派や右派が親しみを感じる性格を持ち合わせ、疲弊困憊している社会では彼に期待もするのだろう。


それでは米国民はどう見ているのだろうか

 
< 7. 米国のトランプ氏への支持と不支持 >

トランプ氏は2017年1月20日の就任直後から不支持が増大し続けている。

つまり、世界だけでなく米国でもトランプ氏への人気と信頼は非常に低い。


まとめ
これらのことから推測出来ることをまとめます。

*トランプ氏は民度の高い先進国の首脳からは忌避されている。
*トランプ氏は世界中から世界の危険要因と見なされている。
*トランプ氏は右翼的な人々からは好感を持たれている。(疲弊しているか強権的な社会の人々も同様)

これから以下のことが言える
*トランプ氏に追従する首相は外交や戦争などで国を危険に陥れるか、強権的な体制へと導くかもしれない。

首相にすれば、米国の軍事的な庇護を得るにはこの道しかないと信じているのでしょう。
しかし私にはこのことすら危険性を孕み、ましてオバマ氏と合わず、トランプ氏と合うとの理由で追従することは更に危険だと考える。


さらに言うと
*米国はなぜこのような不人気で危険な大統領を自ら選択したのか?

これこそポピュリズムのなせる業であり、一度この罠にはまると取返しのつかないことになる好例です。
どうか破綻が訪れる前に米国民が良識を取り戻す日が来ることを望みます。

当然、世界が協力して、トランプ氏の暴走を食い止める必要がありそうです。
少なくても日本は暴走の片棒を担ぐことだけは止めましょう。
そうでないと日本はテロの再重要な標的になることでしょう。

次回に続きます。



注釈1
PEW(Pew Research Center)はアメリカ合衆国のワシントンD.C.を拠点としてアメリカ合衆国や世界における人々の問題意識や意見、傾向に関する情報を調査するシンクタンクです。