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20170220

何か変ですよ! 52: トランプの評価を巡って





*1


不思議なことがある。
大衆はなぜ突如として極端な行動に出るのだろうか?
トランプ大統領の選択がその好例です。

不思議なこと
私はトランプに関する本を6冊読んだが、トランプ大統領の評価は混乱している。

彼の就任は悪化している米国の現れか、彼の希代の才能ゆえか、それとも何かの間違いか?
我々は彼に期待すべきか、はたまた最悪の事態に備えるべきか?
これは世界にとって吉兆なのか、それとも凶兆なのか?

これら相矛盾する評価から、米国社会と世界の混沌が見えて来ます。



 
*2


相矛盾する評価

*トランプ氏に対する評価
意見は大きく二つに分かれる。

トランプを高評価する人は、彼は群を抜いた交渉力を持ち、幾多の困難を乗り越えたビジネスマンで、機を見るに敏だと言う。
また彼は自己資金で戦ったので既成勢力と無縁で、正直者だからと期待されている。

彼を否定する人は、彼は感情的、ナルシスト、守銭奴だから信用出来ないと言う。
また彼は政治経験がなく、極右で、煽動家だから危険だとされている。


*トランプ氏が選ばれた背景
概ね以下のように要約できる。

幾多の有力候補やヒラリーが嫌われ、投票率が低い背景に、ホワイトハウスへの根深い不信感があり、大衆は既成政治との断絶を求めた。
さらに白人層の危機感と女性蔑視が大きく作用した。

彼は大衆の不満(移民、ムスリム、派兵、失業など)を積極的に取り上げ、既成概念に囚われない解決法を示した。
それをデマゴーグと非難するマスコミと他候補に対して、彼は悪態とメール発信でやり込めることが出来た。

彼はテレビ番組の人気者であったが、当初、泡沫候補と見られていて、マスコミは興味本位に彼を扱ったことより、露出度が非常に高まった。
マスコミは彼の人気が出てから批判を始めたが、既成勢力と非難され、逆効果となった。

他に、米国における闇の支配者などの陰謀説もある。


*著者たちのトランプ大統領の評価

彼をレーガンやエリツインになぞらえ、彼こそが米国で創造的破壊を起こしてくれるとの期待がある。
確かに、他の候補では超富裕層による支配、戦争継続、移民増大、格差拡大が続く可能性がある。

当然、危険視する意見もある。
彼のほとんどの解決策はデタラメで、特に経済政策、結局は米国と世界を混乱に陥れる可能性が高いと見られている。

結局、ジリ貧になっていく白人層は、溺れる者は藁をも掴む心境のようだ。
日本もこうならないように願いたいのだが。


様々な疑問

A: 経済に創造的破壊は必要だが、大統領が旗を振ってうまく行くのだろうか?

歴史的には、イギリスの産業革命などのように、良い創造的破壊が起きる時は、それぞれの利益を代表する集団が交渉し妥協しながら自由裁量権を得て、イノベーションへの意欲が持続する時です。
残念ながら、現状は金権政治(超富裕層による支配)で社会の調整機能が失われているのですが。

彼が進める公害防止や金融規制などの緩和・撤廃、また相続税廃止などの富裕層減税は、明らかに弱者を増やすだけで、創造的破壊とは別物です。

世界を牽引している米国の情報通信などのイノベーションは政府の関与とは言えない、また移民も大きく関わっている。



B: 大統領に破壊を期待すると、何が起きるか?

レーガンの経済政策により、後に米国は双子の赤字と格差拡大で苦しむことになり、日本は円高を飲まされることになった。

エリツィンの経済政策により、ロシアはハイパーインフレを起こし経済破綻し、プーチンの独裁を招くことになった。

ヒトラーの例は既に述べました。

レーガンはインフレを抑制し冷戦終了を導いた、またエリツィンはソ連崩壊と共産経済の低迷からの脱出を導いたと言える。

結局、国民は混乱に備え、相当の覚悟が必要です。



C: 大統領に人格や見識は必要ないのだろうか?

例えば、彼は数度の倒産にもめげず大富豪に成り得たのだから素晴らしい胆力と能力を持っていると評価される。
見方を替えれば、幾度も借金を踏み倒し、従業員を路頭に迷わせたのだから、無計画で無責任な人間とも言える。

実際、彼のビジネス手法には違法まがいが目立ち、また脱税(節税)しているらしい。
はたしてこのような人物に国を任して良いのだろうか。


D: トランプを期待する心理の不思議。

概ねトランプを評価する著者らは共和党寄りのように思える。
彼らは民主党政権には辛辣だが、共和党への悪口がまったくない共通点がある。
逆も真なりですが。

例えば、ヒラリーは多額の献金を受け、戦争を拡大させ、裏で汚い事をしていると罵る。
また民主党政権は中東で手を打たなかったから戦火が拡大したと言い、一方でトランプは外国に干渉しないから、世界は平和になるとも言う。
中東を大きく混乱させたのはブッシュ親子だと思うのだが。

私は、どっちもどっちで、まだ民主党の方が少しましなように思えるが。

また、盛んに陰謀論を唱える福島隆彦は2016年7月出版の本で、ロックフェラーがトランプに決めたと自慢げに書いている。注釈1。
キッシンジャーとトランプの娘婿の父親は共にユダヤ系の大物であり、彼らが仲介したと説得的でした。

しかしその年の4月の彼の本を見ると、ロックフェラーがヒラリーに決めたと書いていた。注釈2.

陰謀論は読んでいてワクワクするが、少し考えれば腑に落ちないことが見えてくる。


まとめ
やはり、米国は病んでいる。
米国主導のグローバリズムによって世界も病んでいる。
グローバリズムが悪いわけでは無いが、自由放任が悪い。

いつしか、既得権益層が社会を牛耳り、格差拡大が蔓延し、大衆の団結を防ぐ為に疑心暗鬼が煽られ、分断が深まった。
そして社会を変えられない大衆が焦り、そしてポピュリズムによる大きな左右への揺れが起きた。

この状況は、帝国主義やファシズムを生み出した社会と酷似しているように思えるのだが。
この時も、ナショナリズムと保護主義が世界に蔓延して行き、2度の大戦へと繋がった、

皆さん、どうか自分の身を守る術を考えておいてください。



 

*3


参考文献の紹介
*「トランプがはじめた21世紀の南北戦争アメリカ大統領選2016 
渡辺由佳里著、2017年1月刊。

彼女は米国で長年暮らしているジャーナリスト。
この度の大統領選の集会などを直に取材し、市民の眼からレポートしている。
トランプを支持する人々(主に白人)の実態が良く伝わってくる。
彼女はヒラリー寄りで、リベラル派の惨敗に気落ちしている。


*「トランプ政権でこうなる日本経済 」
岩崎博充著、2016年12月刊。

彼は日本在住の経済ジャーナリスト。
この大統領選挙を取材ではなく資料や本から分析しているようです。
トランプが選ばれた背景を妥当な情報で分かりやすく解説している。
私の感じでは、中立的な立場で、トランプ政権の今後を占っている。
彼はトランプによって災いが起きることを恐れている。


*「なぜヒラリー・クリントンを大統領にしないのか
佐藤 則男著、2015年11月刊。

彼はニューヨーク在住40年を超えるジャーナリスト。
書かれたのが序盤戦(予備選)の時期なので切実感はないが、米国大統領選の裏表を見せてくれる。
また序盤でのトランプへの悪評とヒラリーへの嫌悪感がよく伝わってくる。
彼は共和党寄りです。


*「トランプ大統領とアメリカの真実」
副島隆彦著、2016年7月刊。

彼はアメリカ政治思想研究の第一人者と自称している。
大統領選が混沌としている中で、早々とトランプで決まりと発言している。
本は読んでいて面白い。
米国の政治思想史や支配層の人脈を縦横に駆使しながら大統領選を鮮やかに分析している。
陰謀説で、踏み込んで断定する割には、2017年2月20現在において、多くが外れている。
極端で眉唾ものと思って読む分にはよい。
なぜか、この手の本はアマゾンでは評価が高い・・・。


*「『闇の支配者』最後の日々」
ベンジャミン・フルフォード著、2016年4月刊。

彼はカナダ出身のジャーナリストで日本に帰化。
この本ではトランプは扱われていませんが、米国の裏側を知りたいと思って読みました。
日本、米国、世界を股にかける闇の支配者が出て来ます。
私には、真贋を検証する力がありませんので、途中で放棄しました。
これもアマゾンでは評価が高い・・・。


*「トランプ・シフト これからの世界経済に備える14のこと」
塚口直史著、2016年12月刊。

彼は大成功しているヘッジファンドマネージャーで、世界の政治史にも見識がある。
この本は、トランプ後の世界の経済・金融を理解するには必見です。
経済用語が出て来て読みづらいところはあるが、読めば世界の現状と混乱の広がる様子を知ることが出来ます。
日本のアベノミクス、日銀政策についても明快な判定を下しています。

彼は、現実に大きな資金を運用する立場にある為、この危機にあって、今は様子待ち(手元流動性を高め)を行い、しっかりと備えるべきと警鐘を鳴らしています。

私がトランプの次に恐れているのは、中国経済の崩壊ですが、これがトランプによって更に悪化するかもしれない。
世界の悲運は、政府の些細な判断ミスや外交ミスの積み重ねで訪れるものです。

これで終わります。


注釈1
既述の「トランプ大統領とアメリカの真実」


注釈2
「マイナス金利「税」で凍りつく日本経済」副島 隆彦 著。




20160707

何か変ですよ! 49: 岐路に立つ


 


*1


今まで、日本と世界の危惧すべき状況を概観して来ました。
最後に、我々は何を目指すべきかを考えます。


先ず、問題点を整理します。

日本の問題としては、以下の三つが重要でしょうか。
A: 経済対策のリフレ策の継続。
B: 憲法を改正して軍備を強化し米国との軍事同盟を強化。
C: 原発の推進。

一方、避けられない世界的な脅威が迫っていました。
D: 異常気象を頻発させる地球温暖化。
E: 食料や資源・エネルギーの枯渇。
F: 各地の内戦(中東紛争など)と難民の増加。

さらに、世界的に進行している脅威がありました。
G: 強権的(非民主的)で排外主義(非協調性)の風潮が益々強まっている。


 
*2


何を優先すべきか
私は大惨事をもたらし、かつ一度始まれば加速して悪化する脅威に対処すべきだと考えます。

そのためには「世界の協力体制」を一層進めることです。
現実には、この21世紀になってから「対立する世界」へと悪化しています。


 
< 3.タックスヘイブン >

世界が協力しなければならない理由

* 経済面
端的に言えば、政治不信を生む硬直化した政治は極端な経済格差が招いた。
例えば経済格差が少ない国ほど投票率が高く、政治不信が少ないと言える。

これを是正するには、富裕層への適正な累進課税が必要だが、これが野放しにされる言い訳に、世界的な課税が不可能だと言うのがある。
現状は、各国がバラバラに富裕層や企業に優遇税制、直言すれば脱税(タックスヘイブン)に手を貸して、景気対策と称して無駄な競争を続けている。
これも銃の保有と同じで、回りまわって大半の国民にしわ寄せが及んでいるのが現状です。
フロンガス規制など、世界は少しづつ世界的な規制を可能にして来た。

また、各国が市場を閉ざすことは、いずれ経済を悪化させるでしょう。
但し、現在、批判されているような不平等な結果を招く経済行為(グローバル化)を世界が規制する必要がある。



 

< 4. 難民申請者数の推移、難民の実数は約2倍ある >

* 軍事面
端的に言えば、一部の大国の気ままな軍事侵攻が、世界各地に紛争を撒き散らしている。
確かに、一部では平和に貢献しているが、全体でみれば弊害の方が大きく、さらにその後遺症で世界は苦しむことになった。
冷戦時代の方が死傷者の多い代理戦争はあったが、今世紀になってから紛争地の拡大に伴って難民数はうなぎ上りです。
これがすべて軍事大国によるとは言えないが、恣意的な軍事侵攻、軍事や武器の援助、蔓延する武器が火に油を注いでいるのは疑いない。


* 政治面
現在、各国で排外主義や強権的な世論が沸き上がるようになり、世界は上記の問題を解決する為の協力体制を採ることが出来なくなりつつある。



 
*5

*全体として
地球全体で起きる食料や資源・エネルギー源の枯渇、地球温暖化に対処するには、世界の協力体制が絶対に必要です。


こうして見てくると・・・
確かに、日本の現状に不安材料-巨大な累積赤字、将来不安な福祉制度、継続的な社会発展などはあるが、さらに重要なことがある。
円安、株高、企業収益、経済成長もどちらかと言えば、その影響は短期的な波のうねりに過ぎないだろう。

一番のポイントは、今まで来た道、特に欧米の悪しき先例を追い求め深入りるのか、数年先を見据え、先手を打ち始めるべきかと言う選択です。
当然、欧米の良い先例もたくさんあるので、それを見習う手もあるのですが。


これで今回の連載は終わります。
ご拝読ありがとうございました。












20160706

何か変ですよ! 48: 最大の脅威 2



*1


前回、一握りの富裕層に世界の富が集中し始めている状況を見ました。
今日は、これが引き起こす問題を検討します。

なぜ富が一部に集中することが悪いのでしょうか
私が最も恐れるのは、民主主義と協力体制が崩壊することにより世界が大惨事に見舞われることです。
崩壊に至る大まかなシナリオを説明します。


 

< 2. 世界各国のジニ係数、赤ほど格差が酷い >

一部の富裕層が巨額の資産を保有することで、豊富な資金を使い政治家と世論の操作を可能にする。
彼らは、自らに都合のよい施策を行い制度を改悪し、富裕層はさらに豊かになり、しわ寄せは政治的弱者に向かう。
こうして格差は拡大し続け、行き着くところまで行くことになる。
このシナリオは世界各地で繰り返し起こっている古代から中世、現代に続く歴史的事実です。

これが進むと、次の三つのことが起こるだろう。

A: 大半の国民は、無気力になり、政治不信が蔓延する。

B: 大半の国民は、募る不満を手頃な打開策やスケープゴートに求める。

C: 大半の国民は、ついに民主主義的な解決を放棄する。

このシナリオを現実にはあり得ないと思われるかもしれません。
しかし、すでにAのBの兆候を見ることが出来ます。


 

< 3. 欧米の投票率 >


その兆候とは何か
A項の無気力と政治不信は欧米で30~40年前から徐々に始まっていた。

欧米と日本で共通して、投票率の低下や二大政党から多党化へ、浮動票(無党派層)の拡大が続いています。注釈1.
これは政治不信が深まっていることの表れです。
これは格差拡大によって起こったと言うより、大変革時代の後の保守的傾向、良く言えば安定の時代がもたらしたと言える。
この初期は、一部の富裕層だけでなく、中間層を自任する人々にとっても良い時代だった。
一方、取り残された人々や下層の人々には夢のない時代だったのでしょう。
それでもまだ全員が経済成長を享受できたのです。

しかし、社会の深層で変化が起きていた。
多くの中間層と一部の富裕層すら所得を減らす一方、超富裕層の出現が耳目を集めるようになりました。
米国では80%以上の国民の所得が下がり続けて、格差は拡大を続けています。
これに国民が気が付いた時は既に手遅れで、政治や選挙は大金(米国ではロビストなど)に左右されるようになっていた。
こうなると、国民の不満や要望は政府に届かず、破れかぶれで手頃な打開策やスケープゴートが求められるようになった。

こうしてB項の状態が出現することになる。
これが現在のトランプ現象であり、英国のEU離脱です。
この前触れとして、欧州のネオナチやタカ派のポピュリズム(大衆迎合主義)が盛んになりつつあった。



 
< 4. 崩れるかEUの結束 >


今はどの段階か
私はこのまま放置すれば、やがてC項の状態に至り、最悪、世界大戦が始まる可能性があると思います。

そのシナリオを語る前に知って頂きたいことがあります。

英国のEU離脱がわかりやすい例です。
話は遡るが、EUの誕生は第二次世界大戦の引き金になった独仏国境の石炭地帯を共同管理しようとして始まりました。
これは画期的な事でしたが、残念なことに各国は経済で協力するが、政治には干渉しないことで合意せざるを得なかった。
国家間の経済格差が大きい中での通貨統合は非常に困難なのですが、そのうえEU全体として管理出来ないのは問題でした。
そのことが、ギリシャの破綻などを招いてしまいました。
本来、米国のよう連邦制を執るべきだのですが、英国などは強く反対した。

つまり、EUの当初の目的は戦争回避だったのですが、いつの間にか共通経済圏に留まってしまったのです。

また今回の英国のEU離脱は、第二次世界大戦前に起こった世界恐慌を受けて各国が保護貿易に走ったことを連想させます。
この後、そのことにより世界経済は急速に悪化し、やがてファシズムの台頭を生む歪な世界へと変質していったのです。


 
*5

何が起きているのか
結局、多くの国民は見かけの経済成長から自分が取り残されていると気付き始め、訳も分からず不満を募らせることになった。
しかし、既に政治は彼らの意向を反映しなくなっていた。
この状況は先進国でもスェーデンやドイツ、日本と米国ではかなり違います。
さらに軽妙に語られる打開策はいつも不発に終わる中で、彼らは政治に不信を持つようになり、親から子へと不信感は伝染していった。

そして、現実に企業倒産や失業、難民の増加、福利厚生費の減額などに接すると、彼らは即効性のある打開策を求めるようになります。

このような不満が鬱積し信頼感が廃れた社会では、排外的で強権的な解決策を提示する指導者が好まれるようになります。
その理由は、短期的には他者を犠牲にすることであって、自分が不利益を負うことのない解決策だからです。
しかし、冷静に考えれば、これは回りまわって自らに降りかかる災厄となります。
これは、銃保持や前述の第二次世界大戦前後の教訓が示しています。

我々はこの状況にどう対処すれば良いのだろうか?
次回、考察します。



注釈1.
欧米の選挙や政党の動向について「絶望の選挙結果6、7:劣悪な政治文化4、5」で解説しています。




20160705

何か変ですよ! 47: 最大の脅威 1




*1


前回、地球温暖化と資源枯渇の脅威が迫っている事を見ました。
しかし最も恐ろしいのは人間社会の劣化です。
今日は、この事について考察します。


はじめに
不思議な事に、交通事故や銃犯罪、原発事故、戦争、地球温暖化、資源枯渇の災厄に共通するものがあります。
それはローマ帝国やイースター島の文明崩壊と同じように、人間社会が生み出し、かつ制御が問われる惨事なのです。

これは実に単純な事実です。
これらは自然の限界もあるのですが、冷静になって科学的な見地に立ってば解決出来るはずです。

しかし、このことが出来ずに多くの文明崩壊や大参事は起こっています。
しかも現在、私の見るところでは世界は勢いを増して悪化しています。




< 2. この世の天国、タックスヘイブン >


何が悪化しているのか
二つの悪化が目立ちます。

経済的な悪化: 1ファンドの投機買いに始まるアジア通貨危機よって東南アジアと東アジアは大参事に見舞われ、タイ一国だけで5万人の病死者が増加した。注釈1。

政治的な悪化: 米国の大統領候補トランプ氏の人気や英国のEU分離に見られる排外主義の横行です。


経済的な悪化の例

*パナマ文書に見られる租税回避。
これは富豪になればなるほど合法的に税逃れが出来ることを意味します。
おそらく世界の総資産の約10%(日本のGDPの約2倍)が隠され、税を逃れているでしょう。

*この30年間、米国を筆頭に欧州や日本でも進められている累進課税のなし崩し。
例えば、所得税の最高税率を低下させ富裕層を優遇して来たことなどです。

*グローバル化と自由競争の名のもとに巨大資本や大国の権威(正義、法、軍、情報など)を背景に、企業が後進国を食い物にし疲弊させている。
例えば、小麦や石油などの商品価格の操作などで、弱小国の産業や食料事情に打撃を与えている。

何が悪化をもたらしたのか
このことから直ぐ連想するのは、格差拡大とグローバル化でしょうか。
しかし、この理解は少し違います。

国内と国家間の格差は日を追って増し、格差拡大がさらなる拡大をもたらす社会要因(教育格差など)はありますが、結果に過ぎない。
その元凶は、既得権益層が巨大化し、世界や国家を方向付けるようになったことにあります。




< 3.1980年代から始まった所得税の最高税率の低下 >

しかも、その発端は最近のことなのです。
富裕層を優遇する施策は、高々ここ30年ほど前から欧米で始まったのです。
20世紀前半、労働者の権利擁護によって賃金上昇が進み、経済成長(ニューディール政策などで)が起こったのですが、インフレが高進し、社会は制御不能に陥りました。
これを貨幣供給量の管理で一挙に沈静化させ、新たな時代が始まりました(マネタリズム)。
この時に、それまでの反動として政治や経済で自由主義が謳われたのです(サッチャー首相)。

当時、欧米の多くの国民はこの方向転換に拍手喝采したのです(レーガン大統領、中曽根首相)。
つまり、最初は国民の合意の下で行われたのです。
しかし、それは経済格差(所得格差、資産格差)を徐々に引き起こしていたのです。


その後、国民はこれにどのように対処したのでしょうか?
あえて言えば、皆は追認か放置したと言えます。
なぜ、欧米と日本の国民は自分の首を絞めることになる施策を受け入れ続けたのでしょうか。
これも単純なのです。

はじめは徐々にかつ深く進行していきました。
しかし、富が一度集中し始めると、あらゆる投機手法で資産は20年間で5倍にもなります。
例えば、資産は年平均利回り8%の20年間運用で4.7倍になりますが、米国の大規模運用では利回り6~10%が実績でした。



< 4. 20年間の大富豪の資産増加率 >

そうすると、そのほんの一部の資金を政治や宣伝工作に使うだけで、政治家と世論を誘導出来ます。
金額に比例はしませんが、続ければ大きな影響を与えることが出来ます、日本の原発世論が反対から賛成に転換したように。
また2012年度の米国の大統領選挙と両院選挙の費用は総額約5000億円でしたが、これは数十人の大富豪が数%のポケットマネーを拠出するだけで事足りる金額です。

最近の米国の施策、富裕層への減税や一度成立した企業への公害規制法の破棄などをみれば一目瞭然です。
結局、豊富な政治資金(裏金、献金、広告費)を有する一握りの階層の誕生が元凶なのです。
これは企業の独占状態(カルテル)と同様の悪影響を及ぼすのです。

それでは国民はこの事に気がつかないのでしょうか?」

これは微妙ですが、むしろ次のスローガンに釣られてしまうようです。
「国を取り戻す」、「経済を復活させる」
これは最近の日本や英国のEU離脱派の専売特許ではなく、ヒトラー総統やレーガン大統領も使った心地良い、幾度も繰り替えされて来た謳い文句なのです。



< 5.格差拡大の状況 >
左図: 世界の経済格差(ジニ係数は1が最悪)は現在、高止まりしている。
右図: 主要国の国内の所得格差は猛烈に拡大中。


なぜこのようになってしまうのか?
一つには格差を告発し続けている経済学者ピケティやクルーグマンのように、既得権益の代表格である金融界から自立出来る学者は皆無に近いのです。
例えば、ホワイトハウスで金融政策を担うのは、ほとんどゴールドマン・サックスの人々です。
多くのエコノミストは政財界に繋がることで生きていけるのであり、同様なことが他でも見られます。
反権力を謳い文句に活躍できるのは少数で、貧弱な資金と情報、孤立に耐えなければならない。

その政財界側のエコノミストがピケティの世界的な累進課税や国内の所得税増税の提言について意見を聞かれたら、決まってこのように答えるでしょう。
「前者は現実に不可能だ。後者は、増税すれば富裕層が国外に逃げてしまい、結局は経済に逆効果だと!」
これを聞くと、多くの国民は、現行制度の延長でやらざるを得ないと諦めることになる。

また、わざわざ自国の格差問題を正直に公表する国はありません。
さらに感情に訴える御用新聞は偏向して伝えるでしょう。
一部のマスコミや研究者は真実を訴えるでしょうが、多くの人はそれに触れることはない。
これでは、国民はよほど悪化するまで気がつくことはない。

それにしても残念なのは、そのからくりを多くの人が知ろうとしないことです。
世界機関(国連、OECD)や海外の研究所などがインターネット上で分析結果を発表しているのですが。


次回に続きます。


注釈1
連載「ピケティの資本論 19: 今、世界で起きていること 2」