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前回、地球温暖化と資源枯渇の脅威が迫っている事を見ました。
しかし最も恐ろしいのは人間社会の劣化です。
今日は、この事について考察します。
はじめに
不思議な事に、交通事故や銃犯罪、原発事故、戦争、地球温暖化、資源枯渇の災厄に共通するものがあります。
それはローマ帝国やイースター島の文明崩壊と同じように、人間社会が生み出し、かつ制御が問われる惨事なのです。
これは実に単純な事実です。
これらは自然の限界もあるのですが、冷静になって科学的な見地に立ってば解決出来るはずです。
しかし、このことが出来ずに多くの文明崩壊や大参事は起こっています。
しかも現在、私の見るところでは世界は勢いを増して悪化しています。
< 2. この世の天国、タックスヘイブン >
何が悪化しているのか
二つの悪化が目立ちます。
経済的な悪化: 1ファンドの投機買いに始まるアジア通貨危機よって東南アジアと東アジアは大参事に見舞われ、タイ一国だけで5万人の病死者が増加した。注釈1。
政治的な悪化: 米国の大統領候補トランプ氏の人気や英国のEU分離に見られる排外主義の横行です。
経済的な悪化の例
*パナマ文書に見られる租税回避。
これは富豪になればなるほど合法的に税逃れが出来ることを意味します。
おそらく世界の総資産の約10%(日本のGDPの約2倍)が隠され、税を逃れているでしょう。
*この30年間、米国を筆頭に欧州や日本でも進められている累進課税のなし崩し。
例えば、所得税の最高税率を低下させ富裕層を優遇して来たことなどです。
*グローバル化と自由競争の名のもとに巨大資本や大国の権威(正義、法、軍、情報など)を背景に、企業が後進国を食い物にし疲弊させている。
例えば、小麦や石油などの商品価格の操作などで、弱小国の産業や食料事情に打撃を与えている。
何が悪化をもたらしたのか
このことから直ぐ連想するのは、格差拡大とグローバル化でしょうか。
しかし、この理解は少し違います。
国内と国家間の格差は日を追って増し、格差拡大がさらなる拡大をもたらす社会要因(教育格差など)はありますが、結果に過ぎない。
その元凶は、既得権益層が巨大化し、世界や国家を方向付けるようになったことにあります。
< 3.1980年代から始まった所得税の最高税率の低下 >
しかも、その発端は最近のことなのです。
富裕層を優遇する施策は、高々ここ30年ほど前から欧米で始まったのです。
20世紀前半、労働者の権利擁護によって賃金上昇が進み、経済成長(ニューディール政策などで)が起こったのですが、インフレが高進し、社会は制御不能に陥りました。
これを貨幣供給量の管理で一挙に沈静化させ、新たな時代が始まりました(マネタリズム)。
この時に、それまでの反動として政治や経済で自由主義が謳われたのです(サッチャー首相)。
当時、欧米の多くの国民はこの方向転換に拍手喝采したのです(レーガン大統領、中曽根首相)。
つまり、最初は国民の合意の下で行われたのです。
しかし、それは経済格差(所得格差、資産格差)を徐々に引き起こしていたのです。
その後、国民はこれにどのように対処したのでしょうか?
あえて言えば、皆は追認か放置したと言えます。
なぜ、欧米と日本の国民は自分の首を絞めることになる施策を受け入れ続けたのでしょうか。
これも単純なのです。
はじめは徐々にかつ深く進行していきました。
しかし、富が一度集中し始めると、あらゆる投機手法で資産は20年間で5倍にもなります。
例えば、資産は年平均利回り8%の20年間運用で4.7倍になりますが、米国の大規模運用では利回り6~10%が実績でした。
< 4. 20年間の大富豪の資産増加率 >
そうすると、そのほんの一部の資金を政治や宣伝工作に使うだけで、政治家と世論を誘導出来ます。
金額に比例はしませんが、続ければ大きな影響を与えることが出来ます、日本の原発世論が反対から賛成に転換したように。
また2012年度の米国の大統領選挙と両院選挙の費用は総額約5000億円でしたが、これは数十人の大富豪が数%のポケットマネーを拠出するだけで事足りる金額です。
最近の米国の施策、富裕層への減税や一度成立した企業への公害規制法の破棄などをみれば一目瞭然です。
結局、豊富な政治資金(裏金、献金、広告費)を有する一握りの階層の誕生が元凶なのです。
これは企業の独占状態(カルテル)と同様の悪影響を及ぼすのです。
それでは国民はこの事に気がつかないのでしょうか?」
これは微妙ですが、むしろ次のスローガンに釣られてしまうようです。
「国を取り戻す」、「経済を復活させる」
これは最近の日本や英国のEU離脱派の専売特許ではなく、ヒトラー総統やレーガン大統領も使った心地良い、幾度も繰り替えされて来た謳い文句なのです。
< 5.格差拡大の状況 >
左図: 世界の経済格差(ジニ係数は1が最悪)は現在、高止まりしている。
右図: 主要国の国内の所得格差は猛烈に拡大中。
なぜこのようになってしまうのか?
一つには格差を告発し続けている経済学者ピケティやクルーグマンのように、既得権益の代表格である金融界から自立出来る学者は皆無に近いのです。
例えば、ホワイトハウスで金融政策を担うのは、ほとんどゴールドマン・サックスの人々です。
多くのエコノミストは政財界に繋がることで生きていけるのであり、同様なことが他でも見られます。
反権力を謳い文句に活躍できるのは少数で、貧弱な資金と情報、孤立に耐えなければならない。
その政財界側のエコノミストがピケティの世界的な累進課税や国内の所得税増税の提言について意見を聞かれたら、決まってこのように答えるでしょう。
「前者は現実に不可能だ。後者は、増税すれば富裕層が国外に逃げてしまい、結局は経済に逆効果だと!」
これを聞くと、多くの国民は、現行制度の延長でやらざるを得ないと諦めることになる。
また、わざわざ自国の格差問題を正直に公表する国はありません。
さらに感情に訴える御用新聞は偏向して伝えるでしょう。
一部のマスコミや研究者は真実を訴えるでしょうが、多くの人はそれに触れることはない。
これでは、国民はよほど悪化するまで気がつくことはない。
それにしても残念なのは、そのからくりを多くの人が知ろうとしないことです。
世界機関(国連、OECD)や海外の研究所などがインターネット上で分析結果を発表しているのですが。
次回に続きます。
注釈1
連載「ピケティの資本論 19: 今、世界で起きていること 2」
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