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20180303

デマ、偏見、盲点 27: 暮らしのカラクリ 1: 少ない稼ぎは・・







*1


これから日本の政治経済の劣化した局面を一つ一つ切り取って見て行きます。
巷にある誤解を分かり易く解説します。
今回は、裁量労働制などの労働条件の劣化を取り上げます。



 
*2


* はじめに

長屋の二人が稼ぎで口論していました。

熊吉 
「 稼ぎは自分の腕次第さ! 少ない稼ぎを親方のケチのせいにするな! 」

金太郎
「 働きによって稼ぎに違いはあるだろうが、一人の頑張りだけではどうにもならないものがある。 」

熊吉
「 そんなものがあるものか? それは逃げ口上だ、たかり根性だ! 」


みなさんはどちらが正しいと思いますか?
この理解が正しくならないと、日本は益々劣化していくことになります。

熊吉さんは自己責任を重んじる、如何にも良き日本人です。
一方の金太郎さんは、それと異なるようです。



 
*3


* 皆さんの給料は何によって決まるのでしょうか?

給料が決まるメカニズムを簡単に説明します。

単純な二つの社会を想定します。
普通の経済状況で、失業率は数%、複数の企業が労働者を雇っている二つの社会を想定します。

一つは企業に自由な首切りを認める「夕暮れ社会」、他方は絶対首切りを認めない「夜明け社会」とします。

この二つの社会の企業家と労働者はどのような行動をとるでしょうか?
その結果、この社会の給与水準に違いが生じるでしょうか?

この違いが分かれば、今の政治に何が欠けており、何が必要かが分かることになります。


 
*4


* どのようなメカニズムが働いているのか?

首切りが自由であれば、労働者は経営者の言いなりになります。

経営者は給与を上げてくれ、残業代が欲しいと訴える労働者の首を切ることになる。
これは替わりの労働者が幾らでもいることで可能になります(失業率は零にならない)。
企業はコスト競争をしていますので、一社が始めればついには社会全体にこれが蔓延します。
さらに賃下げが始まり、遂にデフレが定着します。
これが「夕暮れ社会」です。

もう一方の社会では、労働者は組合を作り、賃上を要求するようになります。
経営者はストをされても首切りが出来ないので賃上げせざるを得なくなります。
企業は賃上げ分を商品価格になかなか転嫁出来ず、企業利益は低下します。
ついには商品価格が上昇し始め、インフレが定着するようになります。
これが「夜明け社会」です。

こうしてみると稼ぎは、熊吉さんの言う自己責任で決まると言うより社会的にその水準が決まることがわかるはずです。
(注釈1で補足説明します)



* 「夜明け社会」は存在した

現実の日本経済は、「夜明け社会」と「夕暮れ社会」の間にあり、ここ40年ほどの間に益々、完全な「夕暮れ社会」に近づいています。

実は、欧米と日本も1940代から1970年代は「夜明け社会」だった。
これは概ね、経済学者のケインズが理論づけし、ルーズベルト大統領が実施したことから始まった。
この時期、経済成長と賃金上昇が続き、格差は縮小し、インフレが起きていました。
戦後は、今想えばまさに黄金期だったのです。

しかし、やがてスタグフレーション(インフレと不景気の同時進行)が起きました。
ここで、それまで賃金に利益を食い潰されて来た企業家は逆襲に出たのです。
それが1980年代に始まる、規制緩和とマネタリズムの嵐なのです。

こうして賃金の低下が始まった。
けっして難しい話ではないのですが、真実が隠されてしまったのです。
それは多くの経済学者、エコノミスト、マスコミが日々の糧を得るために体制擁護になってしまったからです。
(巨大な富が集中し、それが彼らに幾らか還元される)


* まとめ

結論は、給与水準はほとんど社会的に決まると言えます。

そしてこれは企業家と労働者のパワーバランスに左右され、また政府がどちらの立場に立つかで決まります(悪い規制緩和)。
他の要素もあるが、これが重大で、特に日本が酷い(注釈2)。
具体的には、首切りが自由な非正規雇用や残業代カットが容易な裁量労働制などです。
労働条件の劣化は、ここ30年ほどの現実のデーターがこれを裏付けています。

まだ信じることが出来ない方は、次の疑問にどう答えますか?

「ある移民が後進国から先進国で働くようになると大きく給料が上昇するのはなぜですか?」

これを個人の能力で説明することは出来ない(注釈2)。



次回に続きます。



注釈1
現実の経済では、首切りや賃金カットの容易さは複雑で、簡単に推し量れないものがあります。
そうは言っても、既に述べた基本的な理屈は明らかで、歴史が証明しています。

「夕暮れ社会」は正に今の自由放任主義経済の日本で進行中で、その悪弊の最たるものは非正規雇用の増加、賃金低下、デフレなどです。

しかし「夜明け社会」にも問題がありました。
それは生産性を上回る賃上げが、悪いインフレ(スタグフレーション)を招き、労働組合がその力に胡坐をかいてしまったことです。
これを暴走と言えるかもしれませんが、現在も別の暴走が加速しているのです。


注釈2
賃金水準は、国の経済力、個々の産業の競争力、そして組合の影響力(労働者の権利擁護の体制)で概ね決まると言えます。
どれか一つでも弱いと、賃金水準は低下します。


注釈3
例えば、同じベトナム人がスゥエーデンとベトナムで同じ仕事をした場合、大幅な給与差が生じます。
これは首切りのし易さと言うよりは、組合などの力により職種毎に給料が定まっていることが大きい(移民を差別している場合はこうならないが、スゥエーデンは同一労働同一賃金適用)。
どちらにしても社会が給与水準を決定しているのです。






20180228

デマ、偏見、盲点 26: 何がバブル崩壊と戦争勃発を引き起こすのか? 5




*1


今回はまとめになります。
世紀末の呪縛から脱する手立てはあるのか?
未来を変えるには・・・


* はじめに

結局、多くの人は豊かさと平和に慣れてしまい緊張感を無くしている。

日本が大戦後、無一文の焼け跡から未来を信じ全員が一生懸命働き、画期的な復興を成し遂げた。
この時、人々は希望を持ちながらも将来の不安に備え、少ない稼ぎに関わらず貯蓄を行った。
この資金が国土建設や設備投資に向かい高成長を実現させた。

今はどうでしょうか。 
日々、今を楽しむと言えば聞こえは良いが、夢に向かって挑戦し続ける若者は激減している。
あり余る資金は国内投資や賃金上昇に向かわず海外証券に向かうだけになった。
若者の海外志向の低下や資金の海外流出は英国没落時の正に再来です。

本当に刹那的な社会になってしまった。

これでは身も蓋もないが、回生の手立てはあるのだろうか。



*2


* 日本には素晴らしい歴史がある

かつて日本は長期的な展望を持つ民族だった。
この平野の少ない国土に1億以上の人間が暮らせる不思議がそれを物語っている。

これを可能にしたのが、共に社会や資源を守る文化です。
特筆に値するのは乱獲や乱伐を規制した漁業や林業の資源保護です。
世界にはこれらの枯渇を経験した地域が数多くありました。

また日本は海外の変化に素早く適応する力を持っていた。
明治維新では、それまでの中華文明一色から、攘夷すべきとした欧米に対し一転して、この文明を積極的に取り入れた。
地球上で、これほど遠方にある異文化の強国、しかも名うての侵略国相手にほぼ無傷で通商を結んだ国は、日本とタイぐらいでしょう。

また富国強兵の中で、初期には大英帝国に組し、ドイツが隆盛してくれば英国と手を切り、一度負かしたドイツと早々と軍事同盟を結んだ(二つの大戦で)。
この変わり身の早さは特筆ものです(親米も変わるかも)。

まして今は北欧と言う、素晴らしい次世代の社会モデルが存在する。
日本は真似るのが得意なのだから、今の疲弊と劣化から抜け出し、新たな道を進むことが出来るはずです。

しかし留意すべきことが一つある。
それは大陸の端にあり、巨大な人口を有する島国ゆえの宿命か、常軌を逸し無謀に走り易いことです(注釈1)。




*3


* 人類の素晴らしい足跡

人類は幾度も破局を乗り越えて来た。
破局とは、外敵や自然の驚異ではなく、社会が内包し放置すれば遂には崩壊に至るものです。
破局の最たるものに、既に述べた感情(貪欲と敵愾心)の暴走がある。

類は如何にして社会の破局を未然に防いで来たのだろうか
それこそが法制史であり、宗教だったと言えます。
要点をみます。


法制史の代表例を見ます。

古くはハムラビ法典に同害同罰(同害報復法)が規定されていました
これは貧富の差による罰則の不公平を是正し、民衆を公平に扱うことを目指した(紀元前2000年頃)。

仇討ちを禁止し復讐の連鎖防止した。
本来、限定された仇討ちは偶発的な殺人から部族間への戦闘拡大を避ける手段でした。
しかし、これを刑法で裁き決着させることにより殺人と憎悪の連鎖を断ち切った。

私有権が認められたことにより財産の侵害が明確化され、犯罪として禁止することが出来た。

税の徴収により公共投資が行われ、社会の安全、快適、衛生などの公共政策が進んだ

三権分立により、政治の独裁や腐敗を抑制した。

国民憲法を制定し、政治制度を規定することにより独裁を防止した。

化学兵器の禁止条約や不戦条約が結ばれるようになった。


こうして人類は長い年月をかけて因習や既成概念を打破し社会の平和と幸福の為に法制度を発展させて来た
さらに国家間、次いで世界が協働するようにもなった。

決して人類は規制緩和を進め、公共政策を縮小して来たのではない
今の逆行―エゴや欲望の放任―は単に既得権益層の私腹を肥やすゆえの口実に過ぎない(すでに根を張っている)。
これら法制度がなかったら今の世界はなかったでしょう。


こうして破局を誘発する行為(犯罪)を制限するようになったが、法律だけでその欲望や心理を抑えることは困難です。
それを担ったものの一つが宗教でした。

世界宗教の多くは欲望の自制を促し、より大きい隣人愛を奨励して来た

キリスト教を例にみます。
キリスト教は愛の対象を隣人から異民族まで拡大させ、暴力を否定したパウロの貢献大)。
(ユダヤ教の旧約を引き継いでいるので一部暴力を肯定しているが、全体としては暴力よりも隣人愛を優先している)
しかも、政治を忌避しなかったことで、中世まで政治と強く繋がり大きな影響力を与えた後に政教分離)
(原始仏教は政治を忌避し、精神修行に重きを置いたので、政治力が弱くなった)
ヨーロッパ史には、キリスト教の暗黒面も目立つが、熱心な信徒によって奴隷解放など人道的な革新や平和構築が多く行われた。

こうして見ると、人類は法制度と宗教を通じて、本能や欲望をコントロールし、社会の破局を防止して来たと言える。

我々は、その気になりさえすればまた豊かなを進むことが出来るはずです



* 最後の望み

今の日本を一言で言えば「無知、無関心、惰性、そして敵意」が社会を覆い尽くしている。

無知: 歴史を学ぼうとせず、都合の悪い歴史事実を無視する。

無関心: 未来を展望せず、現状の国際状況や国内の政治社会の動きを表面的に見るだけでメカニズムを理解しようとしない。

惰性: 不満や不安があっても現状維持からの脱却(改善さえ)に臆病になっている。
社会経済のメカニズムを理解しようとしないので、見栄が良ければ何ら中身の無い政策でも歓迎してしまう(注釈2)。

敵意: 既に解説しました。

この風潮を正さないといけない。


結論は、これ以上の悪化を食い止め、そして世界が手を握り、感情の暴走などの破局を防止する規制(法や条約)を始めることです。

その為には、惰眠を貪っている日本の大半(中間層)が覚醒し、政治を変え始めることです。

今なら政治の劣化は一部の過激な人々と煽るマスコミに留まっている。
しかし放置すれば、いずれ偶発的で小さな衝突事件を切っ掛けに破局へと進むでしょう(既に仕掛けられた歴史がある)。




*4


そこで期待出来る人々がいる。
年老いたと言え、団塊世代は青春時代、国家や戦争を論じデモに加わり篤い血潮をたぎらせた。
どうか日本の為、最後に人肌脱いでいただき、周囲に清風を吹き込み、改革に立ち上がる雰囲気を盛り上げていただきたい。
どうか団塊の世代は未来を生きる子供や孫の為に率先していただきたい。

東京裁判(~1948年)でインドのパール判事が願ったよう世界が共同して戦争を裁き、平和を構築出来る日が来ることを望みます。

後退ではなく、一歩でも改革に踏み出そうではありませんか。


終わります。



注釈1

この列島は、古くは中華文明から程よい距離にあったことで文明を摂取出来るが侵略を逃れることが出来た。
次いで、欧米から遠く、魅力的な産物に乏しく、軍事的に重要で無い孤立した列島であったことが、帝国主義の災禍を受け難くした。

こうして巨大な人口を抱える日本は、一度世界の覇者を夢見ることなった。
もし当時の人口が数百万人以下であれば、敢えて帝国主義に対する自衛と称して大陸進攻を企てることはなかっただろう。



注釈2

ふるさと納税は、結果的に富裕者の税金逃れを加速させ、課税の逆進性をもたらす。
これは寄付行為に多額の返礼品があるからですが、これは当初予想された。
政権はこの指摘を無視し、見栄えさえ良ければ後先考えず施行した。
多くの人は、楽しみが増え、景気上昇に繋がると感じているが、必要な税収が減り、それを他の国民の税収で補っているだけです。
景気を良くする為なら他の有効な手段は幾らでもある。

日本の公共投資と言えば、政治屋の地元の土建屋が潤うものでしかないが、福祉(人件費など)などの投資の方が社会的に有意義であり、かつ経済効果は同じです。
日本では話題に上らないが、北欧の公共投資とは後者なのです。

現在、日本では低所得の非正規雇用が増えているが、これを加速させているのがこの度の「働き方改革」など、これまでの与党の一連の政策です(米が主導し1980年代から始まった)。

難しい理屈は不要です。
実際に、悪化し続けている事実に目を向ければ納得できるはずです。

極論すれば、流動性の高い労働者の存在はあっても良いのです。
問題は補償の無い首切り、特に論外は同一労働同一賃金が無視されていることです。
政府はこれを野放にし、国民も嘆くだけで政権に拒否の態度を示さない。
北欧ではこれらが守ら、かつ最も幸福な国であり経済成長も続けているのです。

国民が目を覚ます以外に道はないのです。






20180226

デマ、偏見、盲点 25: 何がバブル崩壊と戦争勃発を引き起こすのか? 4





*1


今、私達が陥っている劣化に気付くことが重要です。
これは最近のことで、この劣化から逃れる手立てはあるはずです。


* これまでの論点の整理

投資家の貪欲がバブルを生み、そして抜け駆けの心理がバブル崩壊を招いた。

恐怖心が軍拡を加速させ、疑心暗鬼が戦争勃発を招いた。

これらの感情が一度暴走し始めると制止は困難でした。

今、人々はこの災厄をもたらす感情の暴走に何ら疑念を持たなくなった。
この劣化はこの30年ほど、特にここ数年のことです。
なぜ人々はこの劣化に気付かないのだろうか?



*2


* 基本的な誤解について

一つは、怒りの感情について誤解があります。

人類は進化の過程で優れた適応力を得て、脳内ホルモンがそれを可能にして来ました。
人は怒りを感じるとアドレナリンが分泌され、体が興奮状態になり、外敵に即応できるようになっている。
皆さんは強い怒りを感じた後、爽快な気分を味わったことはないでしょうか?
敵意や怒りの感情は、人によっては常習性のある麻薬のようなものなので、爽快感をもたらすことがある(文明社会では後悔するのが普通)。

当人は国や正義を思っての怒りだと思い込んでいるが、単に欲求不満の解消か、未発達な精神状態に過ぎないことが多い。



*3


もう一つ、愛国心への誤解もあります。

多くの人は愛国心を素晴らしい美徳だと思っているようです。
愛国心は共感の現れの一つで、共感は社会や家族の絆を強める重要なもので、霊長類、特に人類で最も進化した(脳内ホルモンが関与)。

但し、これも手放しで喜べない。
その理由は、共感を抱く同胞の範囲が感情的な直感(無意識下)で決まるからです。
共感が強くなると、逆に範囲外(異なる宗教、人種、文化、国、階層)の人々に強い敵意を持ち易くなるのです。

人類は進歩の過程で他の社会と多面的で複層的な繋がりを発展させ、その範囲を拡大し来たが、時折、逆行してしまうことがある。
今がその時です。

注意すべき事は、この敵意と愛国心が政治利用され、社会が容易に暴発に向かうことです(マスコミの関与を注釈1と2で説明)。



* 何が社会に起きているか?

バブル崩壊で言えば、今さえ景気が良けれ良いのであって、先の事は考えないことに尽きる。
米国で繰り返されるバブル崩壊と格差拡大が、社会の分裂と絶望を生み、遂には突飛な大統領が選ばれることになった。
格差を是正する対策はあるのだが、国民は即効性を謳った甘い公約に吊られ、同じ過ちを繰り返しては益々深みにはまってしまった。

戦争勃発についても同様で、即物的(武器)で即効性(威嚇)を謳う策が人気を博し、益々泥沼に足をとられることになる。
特に酷いのは日米ですが、多くの先進国も同様です。

つまり社会は刹那的になり理性を麻痺させており、ここ数年の劣化が著しい。


* 刹那的になった背景

これは平和ボケと20世紀前半に対する反動でしょう(この平和ボケは右翼の指摘とは真逆)。

三つのポイントがあります。

A: 今の政治指導者世代は大戦を知らない。
まして指導者が戦時中に成功した人物の後継者であれば戦争への反省より美化に懸命になる(世襲化している日本で極端)。

B: 世界中が異文化に敵対的になっている。
ハンチントンが指摘したキリスト教とイスラム教の対立は、19世紀後半以降の欧米列強の干渉と軍事行動が主因です。
(「何か変ですよ! 84: 何が問題か? 7」で解説しています)

C: かつての格差縮小策への反動が起きている。
20世紀初頭まで貧富の差は拡大していたが、その後、欧米は格差縮小策を実行し是正が進んだ。
しかし1980年代に始まる自由放任主義とマネタリズムによって格差は戻り、さらに拡大している(米英が先行)。

今、起きている安易な敵意や貪欲の高まりは主にこれらが原因です。

しかし、これではなぜ多くの国民が刹那的になったのか、つまり国政の歪み(癒着や腐敗)に無頓着で、社会改革に無気力になってしまったかを説明出来ない。


さらに以下のことが考えられます。

D: 大戦後、先進国は一度豊かさを満喫し、今は下降期にある。
豊かさを経験した後、1990年以降の経済は少数の富裕層に恩恵を与えているが、格差拡大で大多数の所得は横這いか低下している(英米で顕著、日本も後を追う)。

E: この半世紀の間に政財官の癒着が起こり、国民は政治に強い不信感を抱くようになった。
こうして先進国は軒並み投票率を下げ多党化している(北欧を除いて)。

F: 多くの国民(中間層)は、豊かさがこのまま続くとして保守的(逃げ腰)になった。
19世紀後半からの英国の没落時に出現した刹那的で快楽的な社会状況と同じです(ローマ帝国衰退、ファシズム勃興にも通じる)。

こうして人々は選挙に行かず、政府が従来の政策を継続することに安心した。
毎回、見栄えのする政策に希望を繋ぐが、徐々に悪化するだけでした。
こうして国政は既存の政治屋に握られることになった(日本が酷い)。
結局、政治への信頼喪失が、益々、政治を劣化させている。


これらの結果、既得権益擁護のマスコミの扇情が、分裂社会と国際間の緊張の中で一部のタカ派を奮い立たせることになった(マスコミの敗北について、注釈1)。
こうして保守派とタカ派が強く結びつき、低い投票率にあって国家の帰趨を決するようになった。
この結びつきは日米トップの支援層に著しい人権無視や強権的な言動によく表れている。

しかし日本の問題はこれだけで済まない。
日本ではマスコミが偏向し報道の自由が簡単に無くなる文化と歴史があり、現在、世界が評価する日本の報道自由度は低下する一方です(日本のマスコミについて注釈2)。
戦後、教育の場で政治論議がタブー視され、歴史教育もないがしろにされたのが今、災いしている(北欧は盛ん)。
また米国の占領下にあって経営者側と労働者側の対話形成が阻害され、敵対的になり、さらに1980年代以降、政府により労働組合が弱体化した。
一党による長期政権が続いたことにより政権中枢へのタカリや癒着(パトロネージ)が深刻化した。


次回、この世紀末状況から抜け出す道を探ります。



注釈1
米国の主要マスコミはベトナム戦争当時、政府に果敢に挑戦した。
ホワイトハウスの圧力に屈せず、ベトナム戦争の真実を暴こうとした。
またウオーターゲート事件(1972年)でもマスコミは共和・民主系に関わらず大統領を糾弾した。

しかし、規制緩和が進んだ今の米国はそうではない。
その背景の一端を下記グラフが示している。


< 4. 超保守メディアの台頭 >

オレンジの棒グラフがFOXニュースの視聴者数で赤線が共和党員のメディアの信頼度を示す。
FOXが2001年の同時多発テロ事件で一気に視聴者を伸ばしている。
不思議な事に、FOXは保守的な報道(娯楽と扇情)でシェアを拡大しているが、共和党員の信頼を失いつつある。
それでも全米断トツ一位のシェアによって世論への影響は大きい。

トランプ大統領のロシアゲート疑惑を追及するマスコミ(CNN)に対して、FOXニュースは徹底的に擁護している。
このFOXは、共和党系でメディア王のマードックが所有しており、アメリカ同時多発テロ事件において愛国心を煽り、視聴者数首位の座を占めることになった。
これは米国で1980年代に始まった規制緩和、特にマスコミの自由化(1987年、放送の公平原則の撤廃など)が大きい。


注釈2
第二次世界大戦時、ドイツと日本では戦時情報を軍部が完全に握り、捏造と扇情が繰り返された。
日本は島国で領域外の真実を知る術は乏しかったので、最も騙され続けた。
一方、連合国は戦時中も報道の自由を一応守り続けた。

グラフからわかる戦争報道。


< 5.満州事変時の各新聞部数の伸び >

日本軍が満州事変を起こして以来、最も部数の増加率が大きいのは読売新聞でした。
(読売新聞の立役者は元警察官僚で、当時、御用新聞と綽名されていた)
朝日や毎日は軍部に批判的であった為、初めこそ部数を減らしたが、やがて方向転換し、部数を伸ばすことになった。
単純化すれば読売は戦争推進の姿勢が幸いし、朝日は大きく方向転換し、毎日は方向転換に躊躇したことで、それぞれ部数が決まった。
この状況を加速したのは国営のラジオ放送(NHK)の開始でした。

軍部もマスコミも愛国心を煽ることは容易であり、愛国心扇情はマスコミの業績向上に直結するのです。






20180224

デマ、偏見、盲点 24: 何がバブル崩壊と戦争勃発を引き起こすのか? 3


 
*1


前回に続き、怪しい戦争予防策を採り上げ、次いでバブル崩壊と戦争勃発に共通する要因を考えます。
これが今、社会に蔓延り、放置すれば取返しのつかいないことになる。



 
*2


* 危なげな戦争予防策

前回見た日独の事例だけでなく経済封鎖は往々にして逆効果を生むことがあります。
例えば、1991年の湾岸戦争後の長期の経済封鎖は、イラクを疲弊させ次の暴挙を生み出す背景ともなった。
(イスラム国ISの台頭を例に、様々な戦争の予防策がむしろ危険を増大させてしまったことを注釈1で説明します)

現実に即して見るなら、北朝鮮はなぜ核兵器や長距離ミサイル開発に踏み切ったのだろうか?
経緯から察するに、それは日本や中国が標的ではなく、米国の攻撃を抑止するのが目的と考えられます。
これはイスラエルの核保有に対抗したイランやイラクの核開発、インドとパキスタンの関係と同様です。(核拡散について、注釈2で簡単にみます)
それがこのまま進むと、片棒を担ぐ日本も北朝鮮の標的になる可能性が高まります。
これは当然の成り行きなのですが、問題にならないのが不思議です。

また海に囲まれた細長い日本列島においてミサイル迎撃がほとんど不可能なだけでなく、この防衛システムが整った段階で米国と中国、ソ連を巻き込んだ核ミサイル配備競争になることは間違いない(不可能な理由、注釈3)。
1962年の核戦争危機を招いたキューバ危機は、米国が1959年にソ連に隣接するトルコへのミサイル配備が発端になった。
つまりソ連はキューバへのミサイル配備で抑止力の均衡を図ったのです。
これもよく起こる軍拡競争のパターンですが、危険この上ないものでした。

数年前まで、日本の右派の評論家は口を揃えて、中国は北朝鮮への経済封鎖に協力しないと断言していたが、今はどうだろうか?
常識的に見て、これしか次善策は無かったのだが、嫌中が足枷となり大局を見誤ってしまった。

どちらにしても、平和維持は武器だけで出来るほど単純ではない(米国の銃蔓延が好例)。
だからといってまったく武器が無くても良いとは言えないが。
別の手段と知恵がより重要なのです。



*二つの破局に共通するもの

これまでバブル崩壊と戦争勃発のメカニズムを簡単に見て来ました。

バブル崩壊では、真っ先に崩壊の被害から逃れようとする心理が市場をパニックに陥れていた。
そして、崩壊の大きさは溢れた投機資金が多ければ多いほど巨大になりました。
さらに被害は、元凶の投機家だけでなく、一国に留まらず世界までを窮地に追い込むのです。

戦争勃発では、戦争を回避しようとして軍拡競争が始まり、これが疑心暗鬼を一層駆り立て、一触即発になるのです。
また様々な安易な戦争予防策(軍事援助、軍事介入、経済封鎖など)も、逆に火に油を注ぐことになった。

そして勃発の可能性と被害の甚大さは、軍事力の巨大化や兵器の拡散、軍事同盟、国民の疲弊(敵意増大)によって高まるのです。(軍備増強の落とし穴、注釈4)
さらに核兵器による戦争ともなれば被害は地球上すべてに及ぶことになる。


 
*3

* 破局を招く感情の暴走

上記二つの破局は、ある感情が広く社会を覆い尽くしてしまったことよる。

バブル崩壊では、投資家の旺盛で短絡的な金銭欲がバブルを生み、そして抜け駆けの心理が崩壊を招いている。
(短絡的な金銭欲とは、地道な生産活動ではなく賭博で儲けようとする心根です。抜け駆けの心理とは、他人が損をしてこそ自分が儲かる、つまりエゴであり公共心の逆です。)

戦争勃発では、恐怖心が敵意となって軍拡競争を加速させ、そして相手国への無知による疑心暗鬼が戦端を開くことになります。
軍拡などの威嚇合戦が始まると、敵意が増し相互理解がより遠のくことは社会心理学が明らかにしています。
民主国家間でもこの過程を経て、やがて戦争に突き進む可能性が増すのです。

問題は、金銭欲と抜け駆け、または敵意と疑心暗鬼の感情が社会で連鎖反応を起こし暴走し始めると制止することが困難になることです。
現在、人々はこれらの感情をありふれたものと見なし、この感情の暴走に何ら疑念を持たなくなってしまっている。
放置しておくと破局を招くことは既に見た通りです。

これこそが厄介なのです。
これら感情の暴走を止める必要があるのです。


 
*4

* この感情の暴走がなぜまかり通るのか

先ずは、この感情の暴走が危険であり、これを看過する今の社会が異常である事を認識する必要があります。

実は、この不感症さはここ数十年の間に生じたものなのです。
この間に、人々は刹那主義に陥り、理性を麻痺させてしまった。

バブル崩壊で言えば、金銭欲と抜け駆けの欲望は留まるところが無い。
ここ半世紀、自由放任主義(規制緩和と累進課税放棄)がもてはやされ、やりたい放題(累積赤字と格差の増大)なのです。
しかし、20世紀初頭から世界大恐慌後しばらくの間は、先進国(英米筆頭)においてこの欲望を制限して来た。
北欧は当初から別の手段(社会保障)によって、この難を逃れている。

戦争勃発で言えば、現在、敵意と疑心暗鬼の感情が益々剥き出しになっています。
現在はこの感情を抑制することが軽蔑の対象すらなる(平和ボケ、国賊と呼ばれる)。
大戦後しばらくの間は、反省からこの感情を抑制し平和の構築を目指していました(EU統合、国際連合平和維持活動が始まり、北欧の平和貢献は続いている)


次回はなぜ、今の社会が理性を麻痺させてしまったかをみます。



注釈1
イスラム国が誕生した背景に何があったかを簡単に見ます。

様々な要因が絡んでいるのですがポイントを振り返ります。

まず、直近は2003年のイラク戦争によるイラク社会と経済の崩壊でした。
特に米軍占領下で報復としてスンニ派で占められた軍人を大量解雇し、これがイスラム国に加担した(シーア派を敵とすることで一致)。

これに遡って米国はアフガン戦争において、中東イスラム圏からの義勇兵(アルカイダ)をソ連に対抗できる近代兵器を有する武装集団に育成していた。
これがアフガン戦争後、イラクやシリアに戻って来た。

既にイラクでは、1991年の米国主導の湾岸戦争とその後の経済封鎖で極度に疲弊していた。
またイスラエルとの中東戦争に介在した欧米、キリスト教国への憎しみが中東で蔓延していた。

これら欧米の施策がイスラム国の台頭を招いたと言える。
つまり安易な大国の戦争予防策が裏目に出てしまっている。


注釈2
イスラエルはフランスより核施設を導入し、米国が黙認し核兵器を保有することが出来た。
これを脅威としてイランとイラクは核開発(平和利用だけかは不明)を進めた。
これに対してイスラエルはイラクの核施設を空爆し、イラクは開発を断念した。
またイスラエルはイランの核科学者を多数暗殺し、研究工場と研究者を爆殺し、またイランも核開発を放棄した。
このイスラエルの犯行はモサドによって秘密裏に行われたので、確たる証拠はないが公然たる事実です。

インドとパキスタンの核兵器保有の発端は、中国と国境紛争を起こしていたインドが中国の核への対抗策として行ったと見られている。
そしてインドが保有すると、これまた国境紛争を起こしていたパキスタンが対抗して核兵器保有に走った。

こうして連鎖的に核拡散は進んだ。


注釈3
近海の潜水艦や偽装船から複数のミサイルによる攻撃が同時に行われれば完全な迎撃は不可能です。
これは単純な理屈で、日本列島はほぼ無数に近い迎撃ミサイルの配備と2~3分以内の発射が不可欠です。
攻撃側には楽な手段なのだが、防衛側には想像したくない悪夢となる。
かつての米ソの核開発競争も、このような状況を経て膨大な保有数となった。


注釈4
歴史上、戦争は巨大な軍事力を保有する国が始めるものでした。
次いで、それは経済力にとって代わられた。
しかし、ここ1世紀あまりの間に、状況は様変わりしている。

小国日本が日露戦争で勝利できたのは、実は巨額の外債発行が可能になったからです。(ユダヤ金融家がユダヤ人を虐待したロシアを憎んで斡旋)
かつてヨーロッパの大国は自国の富豪から借金し戦費を調達出来たが、日本では不可能でした。
今は、経済力が小さくても借財(国債)によって戦争を始めることが可能になった。
元来、借金は困難なのですが、何らかの取引条件(軍事同盟など)で合意できれば簡単なのです。

こうして現在は弱小国やテロ集団も軍事力を持つようになり、さらに軍事援助が加わり、戦火は至る所で起きているのです。