*1
これから日本の政治経済の劣化した局面を一つ一つ切り取って見て行きます。
巷にある誤解を分かり易く解説します。
今回は、裁量労働制などの労働条件の劣化を取り上げます。
*2
* はじめに
長屋の二人が稼ぎで口論していました。
熊吉
「 稼ぎは自分の腕次第さ! 少ない稼ぎを親方のケチのせいにするな! 」
金太郎
「 働きによって稼ぎに違いはあるだろうが、一人の頑張りだけではどうにもならないものがある。 」
熊吉
「 そんなものがあるものか? それは逃げ口上だ、たかり根性だ! 」
みなさんはどちらが正しいと思いますか?
この理解が正しくならないと、日本は益々劣化していくことになります。
熊吉さんは自己責任を重んじる、如何にも良き日本人です。
一方の金太郎さんは、それと異なるようです。
*3
* 皆さんの給料は何によって決まるのでしょうか?
給料が決まるメカニズムを簡単に説明します。
単純な二つの社会を想定します。
普通の経済状況で、失業率は数%、複数の企業が労働者を雇っている二つの社会を想定します。
一つは企業に自由な首切りを認める「夕暮れ社会」、他方は絶対首切りを認めない「夜明け社会」とします。
この二つの社会の企業家と労働者はどのような行動をとるでしょうか?
その結果、この社会の給与水準に違いが生じるでしょうか?
この違いが分かれば、今の政治に何が欠けており、何が必要かが分かることになります。
*4
* どのようなメカニズムが働いているのか?
首切りが自由であれば、労働者は経営者の言いなりになります。
経営者は給与を上げてくれ、残業代が欲しいと訴える労働者の首を切ることになる。
これは替わりの労働者が幾らでもいることで可能になります(失業率は零にならない)。
企業はコスト競争をしていますので、一社が始めればついには社会全体にこれが蔓延します。
さらに賃下げが始まり、遂にデフレが定着します。
これが「夕暮れ社会」です。
もう一方の社会では、労働者は組合を作り、賃上を要求するようになります。
経営者はストをされても首切りが出来ないので賃上げせざるを得なくなります。
企業は賃上げ分を商品価格になかなか転嫁出来ず、企業利益は低下します。
ついには商品価格が上昇し始め、インフレが定着するようになります。
これが「夜明け社会」です。
こうしてみると稼ぎは、熊吉さんの言う自己責任で決まると言うより社会的にその水準が決まることがわかるはずです。
(注釈1で補足説明します)
* 「夜明け社会」は存在した
現実の日本経済は、「夜明け社会」と「夕暮れ社会」の間にあり、ここ40年ほどの間に益々、完全な「夕暮れ社会」に近づいています。
実は、欧米と日本も1940代から1970年代は「夜明け社会」だった。
これは概ね、経済学者のケインズが理論づけし、ルーズベルト大統領が実施したことから始まった。
この時期、経済成長と賃金上昇が続き、格差は縮小し、インフレが起きていました。
戦後は、今想えばまさに黄金期だったのです。
しかし、やがてスタグフレーション(インフレと不景気の同時進行)が起きました。
ここで、それまで賃金に利益を食い潰されて来た企業家は逆襲に出たのです。
それが1980年代に始まる、規制緩和とマネタリズムの嵐なのです。
こうして賃金の低下が始まった。
けっして難しい話ではないのですが、真実が隠されてしまったのです。
それは多くの経済学者、エコノミスト、マスコミが日々の糧を得るために体制擁護になってしまったからです。
(巨大な富が集中し、それが彼らに幾らか還元される)
* まとめ
結論は、給与水準はほとんど社会的に決まると言えます。
そしてこれは企業家と労働者のパワーバランスに左右され、また政府がどちらの立場に立つかで決まります(悪い規制緩和)。
他の要素もあるが、これが重大で、特に日本が酷い(注釈2)。
具体的には、首切りが自由な非正規雇用や残業代カットが容易な裁量労働制などです。
労働条件の劣化は、ここ30年ほどの現実のデーターがこれを裏付けています。
まだ信じることが出来ない方は、次の疑問にどう答えますか?
「ある移民が後進国から先進国で働くようになると大きく給料が上昇するのはなぜですか?」
これを個人の能力で説明することは出来ない(注釈2)。
次回に続きます。
注釈1
現実の経済では、首切りや賃金カットの容易さは複雑で、簡単に推し量れないものがあります。
そうは言っても、既に述べた基本的な理屈は明らかで、歴史が証明しています。
「夕暮れ社会」は正に今の自由放任主義経済の日本で進行中で、その悪弊の最たるものは非正規雇用の増加、賃金低下、デフレなどです。
しかし「夜明け社会」にも問題がありました。
それは生産性を上回る賃上げが、悪いインフレ(スタグフレーション)を招き、労働組合がその力に胡坐をかいてしまったことです。
これを暴走と言えるかもしれませんが、現在も別の暴走が加速しているのです。
注釈2
賃金水準は、国の経済力、個々の産業の競争力、そして組合の影響力(労働者の権利擁護の体制)で概ね決まると言えます。
どれか一つでも弱いと、賃金水準は低下します。
注釈3
例えば、同じベトナム人がスゥエーデンとベトナムで同じ仕事をした場合、大幅な給与差が生じます。
これは首切りのし易さと言うよりは、組合などの力により職種毎に給料が定まっていることが大きい(移民を差別している場合はこうならないが、スゥエーデンは同一労働同一賃金適用)。
どちらにしても社会が給与水準を決定しているのです。
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