前回、ふるさと納税の現状を見ました。
今回は、納税から消費への流れを追い、
如何に馬鹿げているかを説明します。
* 通常の税の流れ
< 図2. 通常の税の流れ >
先ず基本から。
例えば、年間収入300万円の人は、幾つかの所得控除(配偶者31万など)を差し引かれ、課税所得額が100万円になり、これに所得税と住民税の合計30%(所得で異なる)、30万円を国と自治体に納めます。
この税金は広く国民に使われます(消費)。
彼が「国境なき医師団」に10万円寄付していたらどうなるか?
< 図3.普通の寄付行為 >
図の説明
寄付者は確定申告すれば2.9万円が還付され、彼の実質負担は7.1万円になる[(10万円-手数料2千円)x税率30%=2.94 ]。
この2.9万円は結果的に他の国民の納税か赤字国債で支払われる。
* ふるさと納税の金の流れ
規模感を掴むために、大きな集団を想定します。
年収1200万円の5百人が各20万円のふるさと納税を行う。
それは都市部から地方の自治体への総額1億円の寄付になる。
彼らが4人家族とすると、ふるさと納税の全額控除の上限額は20万円なので全額還付される。
この結果は図のようになります。
< 図4.金の流れ 1 >
図の説明
地方の自治体に7千万円、返礼品業者に3千万円が入る(返礼品上限額は寄付金の30%)。
寄付者の住む都会の自治体は、税金1億円を支出し、国が最高75%補填し、最低でも2500万円の赤字になる(手数料2000円/件だけ入る)。
国は最大7500万円の赤字になる。
これらの赤字1億円を他の国民の納税か赤字国債で補う。
< 図5.返礼品無しのふるさと納税 >
この場合を見ると、返礼品の無い方が幾分良いように見えるが、実は国民と市民へのサービスが半減している(寄付者への還付で税が減る為)。
ここで異常に気付かれたかもしれないが、さらに問題がある。
* 返礼品がある場合、寄付者が消費を増やすかを検討
ポイントは二つあり、一つは返礼品がある事による消費減、もう一つは還付金による消費増です。
はじめに、返礼品による消費減を検討します。
< 図6. 返礼品人気ランキング >
返礼品の多くは魚介・肉・果物・パン・米・鍋セット・惣菜・加工食品・酒類等の食品で占められている。
すべて日常的に消費しているものです。
残りの家電・日用品なども、同様で多くは再度買う必要がないでしょう。
返礼品の実勢は、市場価格で寄付金の65〜109%(還元率)で手に入り、平均を少なめの80%と仮定した(還元率は「ふるさと納税ガイド」サイトで参照)。
ゆえに寄付した500所帯は寄付額の80%、8000万円相当の返礼品(魚介と肉など)を手に入れると推測する。
彼らは返礼品で食品を手に入れたら、日常購入している食品を減らし、返礼品が贅沢品なら、日常の物は安くするだろう。
例えば返礼品の肉1kgを食べて、日常食べている1kgを500gに減らすと想定する(もっと減らす可能性は高いが)。
従って500所帯は返礼品の市場価格8000万円の50%、4000万円(80%x50%=40%)を節約すると推測する(追記で詳細説明)。
次は、還付(減税)による消費増を検討します。
< 図7. 所得減税効果と定額給付のアンケート >
上図
右の棒グラフの青は給付金のGDPに対する経済効果で、1年目に23%の効果が出ている(2年度以降は通常の消費でも効果があるので省く)。
左の消費減税の方が2倍以上効果がある事に注意。
下図
これは定額給付を受けたら、国民が消費するかどうかを聞いたアンケート結果です。
結果は、20%の人が、新たな消費をするだろうと応えている。
ふるさと納税は年収1千万円以上の人に多いが、彼らでは30%になっている(別資料)。
これらを勘案して、還付金1億円の25%、2500万円を新たに消費するとした。
* 結論
現状のように返礼品が手に入る場合、寄付者は寄付額の40%を節約し、一方で新たに25%消費し、差額15%の消費減となる。
結果、1億円の15%、1500万円の消費が減ると推測した。
次回、この消費減を含めて、ふるさと納税が如何に経済をダメにしているか説明します。
追記: 減る消費額の推定
総務省: 2018年の総世帯(平均世帯人数2.33人)の食費は月平均62,819円(外食11,724円、酒類2,667円を含む)。
外食と酒類を除外した月の食費は48,428円になる。
総務省のふるさと納税: 2018年の一人平均年間寄付金額118,000円、他の資料より、寄付は平均6件に分けられおり1件当たり平均19,667円となる。
< 表8. 寄付者の消費行動 >
図の説明
毎月の食費は、前述の平均世帯のものとした。
返礼品額は還元率80%(寄付金の80%)で、前述の19,667円x80%=約1.6万円とした。
上表は返礼品を6回に分け、下表は3回に分けた。
返礼品を得た月は返礼品の半額を節約すると推測し、赤字で示した。
返礼品がまったく無い状況と比べると、節約することが理解できるはずです。
返礼品があるのに返礼品と同額・同量の食品を日常的に購入する可能性は零だろう。
つまり消費が増えることはない、減るだけです。
贈答用に返礼品を使うとしても、状況はあまり変わらないだろう。
常々送る先に返礼品の贅沢品を送り、さらに通常の贈答品を加えるよりは、購入を控えることになるだろう。
つまり消費は減ることになる。