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今日は、労働者の賃金を上げると、国の経済力が落ちてしまうと言う妄言を検討します。
* はじめに
日本の皆さんは生真面目ですから、政府や偉い御用学者らに「賃金を上げると、企業の競争力が低下し、国はやがて衰退する」と言われ続けていると、賃上げに後ろめたさを感じるようになってしまった(笑い)。
これが真実かどうか、検討してみましょう。
A: 国民の賃金低下は経済に好影響を与える。
B: 賃金上昇は企業の競争力を低下させる。
この二つがポイントです。
* 賃金低下は経済に好影響を与える
賃金を低下させると企業は出費を減らせ、投資を増やし、競争力が増して輸出が増え、国の経済は上昇するとされている。
実は、この間違いを長々と証明する必要がないのです。
なぜなら日本は1990年代から賃金低下に伴って、経済は低下の一途なのですから。
そうは言っても、間違いのポイントは重要なので解き明かします。
< 2. 日本のGDPの内訳 >
国内総生産(GDP)と言う指標があります。
これは国内で1年間にどれだけの付加価値(生産額)が生まれたかと言うものです。
日本の場合はこの内、個人消費額の割合が60%ほどありますが、一方で輸出額は11%ぐらいに過ぎません。
もし国民の賃金を20%低下させたら本当に経済は上向くのでしょうか?
それでは簡単にメカニズムを追います。
賃金が下がると、国民は消費を減らし、単純にGDPは12%(=GDPx60%x20%)低下します。
労働者は貯金を下ろすか、借金をして生活レベルを守ろうとするので、実際にはここまで下がらない(注釈1)。
しかし現在、日増しに貯蓄率は減り、貯蓄の無い若い層が増え、エンゲル係数も上昇している。
一方、企業は製造コストの50%を占める人件費が減るので、10%(=GDPx50%x20%)の利益アップか商品価格の値下げが可能です。
問題はこれでGDPが幾ら上昇するかですが、実はほとんど期待出来ないのです。
例えば価格を下げ無い場合、同じ売り上げ額で企業の利益はおそらく3倍になるでしょう(製造業の平均利益率4%)。
もし全額、設備投資に回せば生産性もGDPも上昇するのですが、既に企業は国内への投資を増やさなくなっています。
つまり企業の剰余金が増え、その資金は海外や証券投資に向かうだけでGDPは増えません。
< 3. 円安と輸出額の関係 >
もし商品を値下げし売り上げ額を増やせばGDPが増加するのですが、この影響は大きくはない。
例えば図3の赤枠を見てください。
2012年から2015年で円安は33%(1ドル80円から120円)進んだが、この間の輸出のGDPに占める増加は約3%に過ぎなかった(注釈2)。
つまり、賃金低下は輸出を増やす効果よりも、GDPを減らす効果の方が圧倒的に大きいのです。
また賃金低下はデフレを加速させる。
* 賃金上昇は企業の競争力を低下させる。
結論から言えば、条件付きですが賃金上昇は国際競争力を低下させない。
実例があります、デンマークやスウェーデンは貿易依存度が60%あっても賃金は世界最高水準なのです(日本は25%)。
当然、両国の経常収支は黒字です(つまり競争力があり輸出が多い)。
確かに、個々の企業は販売価格を下げることで競争力が高まるので賃下げの誘惑にかられやすい。
しかし民主的な国であれば賃金低下で競争力を高めようとはしません。
なぜなら聡明な国民は反対し、政府は従うからです。
ここで重要なポイントは、国の経済力に応じて為替が自動調整されることです(変動相場制)。
歴史的に産業が発展した国(輸出が多い)の為替は高くなります。
この理由は、貿易で黒字(経常黒字)になることで自国通貨が高くなるからです。
一方、国が通貨安を画策する場合(為替介入)がありますが、これは貿易相手国が皆望んでいることであり、まず抜け駆けを許してくれません。
通貨が通常より大きく安くなるとすれば、それは身勝手な超大国のごり押しか、裏取引(密約による協調介入)、または投機筋の思惑でしょう(実需の為替取引額の10倍以上が思惑?で売買されている)。
つまり、賃金を下げ競争力を得て、輸出増になっても貿易黒字になれば円高になって競争力はまた低下するのです。
一時、これで企業家は楽して利益を得るのですが、結局、悪循環になるだけです。
この間、苦労するのは国民、労働者だけなのです。
* まとめ
結局、単純に考えても賃上げの方が経済や大多数の国民には正しい道なのです。
前回見たかつての「夜明け社会」がそうでした。
今は狂っているのです。
しかし多くの方はまだ納得しないでしょう。
現状で、賃上げして経済は持つのかと疑念を持たれるはずです。
実は、ここでも北欧に成功事例があるのです。
高水準の賃金でもやって行ける理由があるのです。
ポイントはやはり競争力です。
それは賃金カットではなく、競争力のある企業や産業、技術、人材を育てることしかないのです(いずれ紹介します)。
この仕組みは、一朝一夕に出来るものではありません。
おそらく日本の現状では、北欧のように国民と産業界が協調し政治と経済を動かす風土を作るには1世紀かかるかもしれません。
しかし、これしか道はないでしょう。
少なくとも米国の来た道(夕暮れ社会)を進むのは賢明ではない。
次回に続きます。
注釈1
< 4. 家計貯蓄率の減少 >
貯蓄額を可処分所得で割った比率はついにマイナスになった、つまり各家庭は貯蓄を引き出して生活をし出した。
注釈2
この説明では、33%の円安は33%の商品価格の低下とみなしています。
ドルで買う顧客にとっては33%の値引きになったが、数%としか売り上げは増えなかったと言いたいのです(企業利益は格段に増加)。
確かに為替変動(価格変動)に伴って輸出額は変化しますが、グラフの2002年~2007年の変化からわかるように海外の景気動向の方が影響は大きいのです。
実は、円安は輸出を増やすメリットだけではない。
< 5. 円安倒産 >
目立たないのですが、輸入業者は急激な円安で倒産の嵐に晒されたのです。
当然、輸入に依存している消費財も値上がりし、家計を苦しめることになります。
もう一つ忘れてはならないことは、為替変動は予測が困難で頻繁に振れることです。
つまり企業家も庶民も、円安や円高に甘い期待は出来ないのです。