20170703

何か変ですよ! 60: 残念なこと



*1



私は、日本の野党が残念でしかたがない。
日本が良くなるためには、健全な野党が是非とも必要です。
それが叶えられそうにない。


はじめに
今、現政権に憤慨している方は少なからずおられるでしょう。
しかし、現政権が倒れても、次に誰が日本のトップになるのか?
9分9厘、与党の中から少し見栄えの違う人物がトップになるだけだろう。
母体が何ら変わらない限り、結果は五十歩百歩と思いませんか?

野党は森友や加計の不正暴露に全精力を注ぎ込んで、トップを引きずり降ろそうとしているが、与党が引き続き政権を担うなら、それこそ元の木阿弥ではありませんか。
では、野党が政権を担えるのですか?
おそらく国民の大半は、今の野党にそれを望まないでしょう。
これでは、結局、今までと変わらない堂々巡でしょう。

今、我々にとって最重要課題は経済と平和であり、希望の未来を手に入れることです。
その足場を作る時です。

今日は、この問題を考えます。


残念な野党
多くの国民が政治に期待することは、景気が良くなることでしょう。
他に近隣諸国との軋轢とか、軍事的なこと、憲法改正もあるでしょうが、大多数はこれらを差し迫った問題とは捉えていない。

それでは野党に経済政策を託して良いと思う人がどれだけいるでしょうか?
私は、野党の個々の政策、大企業より国民優先、教育や育児負担の軽減などの施策は良いと思うが、大きなものが欠けていると思う。
それは景気を良くする金融と財政の一貫した施策です。

私は、野党に格差拡大と金融危機を招かない着実な成長戦略を持って欲しいのです。
今まで、野党はまったくこの姿勢が欠如していた。
只々、与党の政策を批難し、あわよくば国民の批難が高まるのを望んでいる節がある。
左翼系のマスコミも同様です。
この繰り返しでは、日本の政治は旧態依然のままです。

とは言っても、野党が与党の悪い政策を批難することには意味がある。
日本の与党(保守)は米国の保守(共和党)などに比べ、大きな政府の政策(福祉重視など)を取り入れており、良い結果を出している。
これが野党のおかげだと言い切れないが、批難していなければ、こうはならなかっただろう。
ここはやはり、二大政党の実現が不可欠です。

重要なことは、国民が野党に政権を担わせても良いと思えるように野党が変わることです。
与党を批難するだけでは、先はない。



*2


現政権の経済政策を考える
当然、与党には長期政権に付き物の弊害や、現政権の目に余る危さもある。
しかし、野党が反省すべき点を現政権から見出すことが出来る。

アベノミクス―インフレ目標、円安誘導、金融緩和、財政出動について見ます。

*インフレ誘導はインフレが安定し金利高騰が起きなければ、景気は良くなり、膨大な累積赤字が減ることになる。
先を予測することは難しいが、インフレ目標がいつまでも達成出来ないのは何か決定的なマイナス要因があるのだろう。

*円安誘導は、輸出を増やす効果を出している。
しかし一方で物価を上げ、結果的に賃金低下になるので、もう少し様子を見ないと分からない。
私が期待していなかったのは米国が円安誘導を許さないと考えたからでしたが、これは免れたようです(米国追従で)。

*金融緩和をかなりやっているが、効果が出ていない。
現時点では問題もなさそうだが、他国発の金融危機が日本に大惨事をもたらさないか心配です。

*財政出動は景気刺激に必要だが、相変わらず土建屋優先なのが問題です。
野党が唱えている人やサービスにもっと費やすべきです。

個々に長所短所はあるが、全体としてみれば米国の経済学者クルーグマンが唱える論理的な景気浮揚策に近いと思う。
たしかに、財政赤字の増大や大企業と土建屋優先は気になるが、狙いは良いと思う。


消費増税を見送ったことは良かったのか?
平気で嘘をつくことは許せないが、景気を交代させないためには良かった。
ただ、国の累積赤字は増えるばかりで止まる気配がないのが心配です。
本来なら無駄な出費を減らし、増税するなら累進性のある所得税が良い。

アベノミクスは、現状、効果が乏しく、目立ったマイナスも無いと言ったところでしょうか。
現状の経済指標の良し悪しには海外要因(石油、米国の景気)が大きく関わっている。
また日本では、高齢労働者の退職がピークを迎え、今後、労働者人口の減少を加速させていることが、失業率の低下と経済成長率鈍化を招くことになる。

ざっと現政権の経済・金融政策を振り返りました。
これほど大胆に景気浮揚を目指したことが国民の人気を得た大きな要素でしょう。
しかし、これら経済・金融政策で抜け落ちている重要な事がある。


与党に出来ない経済政策を目指せ
たとえ与党の経済政策が一時上手くいったとしても将来に大いに不安がある。

それは繰り返す金融危機と経済格差の拡大、増大する累積赤字です。
現状の欧米が進めて来た資産家・金融業優遇策が続く限り、被害が深刻になる一方の金融危機と拡大し続ける経済格差が大問題になる。
この為に既に欧米で火が付き、世情は不安になっており、やがて日本にも及ぶでしょう。
これらは規制緩和と税制改悪が招いたもので、また野放しのグローバル化によって世界中が巻き込まれ、競合するように悪化を深めている。
米国はこの推進の主役で、良くなる兆候はまったくない。

累積赤字の問題は、景気拡大が永続すれば薄らぐでしょう。
しかし、ほぼ10年ごとに繰り返している金融危機によって、その効果は打ち消される可能性がある。
またインフレが高進するだけなら、累積赤字の目減りと同時に庶民の生活は苦しくなる。
この問題はリフレ策をもっと検証しないと判断出来ない。


少し話題を変えましょう。
国民が経済面で望むものとは何か?
おそらく働き続けられること、低賃金からの脱出、将来の年金・社会保障制度の確保でしょう。

このためには経済成長が欠かせません。

安直な非正規雇用や首切りを規制することは必要ですが、現状のグローバル化した経済では、企業がすんなりと認めないでしょう。
年金・社会保障制度の確保には、当然、政府支出の見直しは必要ですが、これも持続的な経済成長が前提となります。

確かに、これからの時代は経済成長やGDP一辺倒ではなく、精神面重視に転換すべしとの意見があり、私もそうあるべきだと思います。
だからと言って、経済が低迷して良いわけではありません。

例えば、精神的な充足に必要なサービスを豊かにするにはその業界を支える経済成長が必要です。
例えば育児や教育のサービスを充実させるには、その産業の発展拡大が必要です。
つまり、箱物ではないサービス重視に移行すれば良いのです。

これらのことを野党は真剣に取り組み、実施可能な論拠を国民に示して欲しい。



*3


なぜ今の与党に期待できないのか?
与党が上記問題を解決する可能性はあるのか?
ゼロでは無いが、ほぼ無理でしょう。

東京都の選挙、米国やフランスの選挙からわかるように、国民は長く政権を担っていた政党を見限っている。
これには大きな潮流があるように思う。

この潮流とは何か?
私の見る限り、これは1980年代に始まった欧米の変革が発端でした。
これはサッチャー、レーガン、中曽根らによる大きな政策転換でした。
中でも大きいのは国営企業の解体とマネタリズムの採用でした。
この政策自身が悪いとは言えないが、これらにより労働組合の衰退、金融の規制緩和が進み、巨大な金融資産家が頻出した。
こうして金融資産家らのモラルハザード(節度を失った非道徳的な利益追求)と莫大な資金を使った政界支配と世論操作が常態化した。
これは米国において圧倒的な経済格差を生み出し、米国主導のグローバル化によって、世界と日本に伝染することになった。

こうなると国民の声は政治に届かず、やがて政治と政党に失望した国民は新しいものに飛びつくことになる。
これが現状です。

特に日本の場合、与党はまったくの米国追従なので、米国発の伝染病―経済・金融の悪弊による格差拡大と繰り返す金融危機、に罹患せざるを得ない。
これを打破できるのは、しがらみのない与党外と言える。
当然、官僚も同様ではあるが、官僚を排除してはならない。

大きな政策転換は可能なのだろうか?
19世紀末から米英を筆頭に労働運動が盛り上がり、労働者や女性の権利が向上した。
これが賃金上昇と格差拡大の是正に向かわせた。
そしてルーズべルトによるニューディール(ケインズ的な経済政策)が追い風となった。
残念ながら、国民が等しく経済成長を享受出来たのは1970年代までとなったが。

言えることは、良くも悪くも国と国民が、ここ百年の間に2回、政策転換を図ったのです。
今は、3回目の時なのです。



*4

野党が頑張るしかない
現状、日本は失業率が低く、格差も少なく、安全で福祉制度に大きな欠点はない。

今の与党の姿勢を放置すれば、金融危機を深め、格差を拡大させ、さらに浪費が続けば年金・社会保障制度の存続が脅かされる。

最大の経済低下の要因は労働者人口の長期減少でしょう。
これを補うには与党の箱物中心の財政出動ではなく人材・育児・移民への投資が不可欠です。

したがって野党は、与党に対抗して景気浮揚策を真剣に練り上げ、国民優先の政策に向かうべきだ。
それでなければ、いつまで経っても反対だけの野党で終わってしまう。
せっかく小選挙区にして、二大政党に向けた改革を行って来たのです。
今回の安部一強も、前向きに解釈したら、これまでのころころ替わる首相の状況から脱したとも言える。

どうか国民の皆さんも、二大政党を育て、まともな議論が国会で出来るような世の中にしようではありませんか。


どうもお読み頂きありがとうございました。



20170702

フランスを巡って 19: 中世の施療院オテル・デュ



*



今日は、ボーヌ旧市街にある中世の施療院オテル・デュを紹介します。
中庭から見た施療院の建物と屋根が青空に映えて美しかった。
私にとって、ヨーロッパ医術史の一端を見れたことは、うれしい誤算でした。





< 2. オテル・デュのパンフレット >

この見取り図は下が北になっています。
青の矢印が入口、出口です。

私達は一階部分のほぼすべてを見学しました。
ここを見学したのは旅行5日目、5月21日(日)、10:40~11:30でした。
この日も快晴で爽やかでした。


< 3. オテル・デュの外観と中庭 >

左上の写真: 中央の灰色の屋根がオテル・デュ。
入口は建物の中央にある。

右上の写真: 中庭の隅から入口側を見ている。

下の写真: 中庭の端から北側を見ている。




< 4. 中庭から 1 >


陽に照り映えるニシキヘビの肌を思わせる模様の瓦と、たくさんの三角屋根の窓は、病院と思えない。
派手な作りにも見えるが、豪奢ではなく、美しくもあり陽気にさせる建物だ。
この瓦は釉薬瓦で、4色(淡黄色、濃いグリーン、赤色、茶褐色)からなっている。

「フランスを巡って4: 古都ボーヌ」でも紹介しましたが、この地域に入ると屋根の雰囲気がプロヴァンスと異なります。

プロヴァンスの屋根は緩い傾斜になっており、瓦はオレンジ色の丸瓦が敷き詰められている。
その輝くような町の眺めが、さらにプロヴァンスを太陽が降り注ぐ地中海のイメージを一層盛り上げていた。
これからフランスを巡って行くと分かるのですが、各地に特有の屋根があり、
この屋根は南仏特有のもので、ローマ時代の名残なのでしょう。

一方、ボーヌの町の屋根は急な傾斜になっており、平瓦かスレートが引き詰められている。
多くの色は灰色、茶色が多く、鮮やかさはない。
ただ、旧市街の幾つかの屋根には、このオテル・デュと同様の模様の釉薬瓦が見られた。
この瓦は元々、ブルゴーニュ公国が姻戚により手に入れたフランドル地方のもので、ブルゴーニュの各地に見られるそうです。




< 5. 中庭で 2 >


< 6. 看護室 >

上の写真: 看護室。
パンフレットの番号4辺りからの撮影です。
両側に並んでいる赤い天幕で覆われているのが患者のベッドです。

下の写真: 当時の看護の様子を伝える絵。




< 7. 礼拝室と厨房 >

上の写真: 礼拝室。
パンフレットの番号6を看護室側から撮影。

下の写真: 厨房。
パンフレットの番号13.
写真がうまく撮れなかったのですが、右側の暖炉には機械仕掛けの丸焼き器のようなものが据えられていました。
また、お湯が出る白鳥の首形状の蛇口が、このマネキンの後ろにありました。
厨房は広く、清潔そうでした。




< 8. 調剤所と薬局 >

上の写真: 調剤所。
部屋の左側に銅製のタンクとそこに注ぐ管が見えます。
これはおそらく蒸留器で植物から薬効成分を抽出するものでしょう。

下の写真: 薬品棚。
かなり多様な薬品が、ガラスや陶器の容器に入れらて置いてありました。
薬品は外部にも販売されたようです。





< 9. 美術品の展示 >

左上の写真: 暖炉。パンフレットの番号20.
右上の写真: パンフレットの番号19.
下の写真: オークションの間。パンフレットの番号26.
この病院の機能が移転するまでは、ここでワインのオークションが行われていたらしい。
この売り上げが病院の運営費に充てられた。
おそらく、当時、壇上の燭台に蝋燭が置かれ、燃え尽きると競りの終わりを告げるようになっていたらしい。




< 10.特別な展示室  >

ほぼ暗室で厳重な管理がされた部屋に、二つの祭壇画とタペストリーがありました。


上の写真:  この展示室のメインの絵で、フランドル派の画家(ベルギー)による「最後の審判」。
ウィキペディアより借用。

下の写真: フランドル派による「宰相ロランの聖母」。
ルーブル美術館蔵。ウィキペディアより借用。

左の人物が、1443年にこのオテル・デュを創設したブルゴーニュ公国の宰相ニコラ・ロラン。
彼がこの絵を発注した。

当時、ブルゴーニュ公国は領土を拡大し、騎士道文化が最盛期を迎えていた。
中でも、この宰相が権勢を誇っていた。
しかし、一方で英仏の百年戦争が続き、この地は貧困と飢餓に苦しむ人々で溢れていた。
彼は妻の薦めにより、私財を投じてこの病院を建てた。
病院の運営費は、ブドウ畑から出来るワインの売り上げで賄われた。
病院の機能は1971年に近代的な病院に移転した。




< 11. 栄光の三日間、写真は借用 >

「栄光の三日間」はブルゴーニュで最も有名なワイン祭りです。

上の写真: ワインのオークション。
ワイン競売のシーンで、毎年11月の日曜日に行われる。
この場所はオテル・デュの向かいにある広場に面した大ホールでしょう。
このホールは写真番号3の左上の写真、左側に少し見えます。

下の写真: 栄光の三日間で盛り上がるボーヌの人々。



オテル・デュに想う
現在、私は連載「病と医術の歴史」を休止していますが、いずれ西洋の部分を書くつもりです。
この連載で望んでいることは、人類があらゆる因果の解釈を宗教的のものから一様に科学的なものへと変化させたこと、もう一つは、なぜ西洋医学だけが他の地域の医学を凌いで発展したかを知る為です。
この意味で、西洋の古代から中世にいたる医学史を理解することは非常に重要でした。

かつて、ドブロブニクなどで中世の薬局を見たことはあったが、中世の看護施設を見たことがなかった。
今回、実物を見れたことは幸いでした。

このボーヌのオテル・デュは施療院としては新しいもので、古くはキリスト教の修道院で、6世紀頃から看護や治療行為が始まっていた。
このオテル・デュは「神の館」と言う意味で、教会との繋がりを示す。
それではキリスト教が西洋医学を発展させたかと言うと、そうとも言えない。

世界中、病気、特に皮膚病は過去の罪や業(ごう)、祟りの現れと見なされ、忌み嫌われることが多かった。
また疫病患者は隔離され、このオテル・デュでも扱われることはなかった。
ほとんどの宗教は、人体を聖なるものと見なし、解剖を禁止し、キリスト教も同様でした。
12世紀始め、第2ラテラン公会議で、修道士が医学を学ぶことを禁止した。

キリスト教も含め、多くの宗教は、病人を治すよりは慈悲を施すことに意を用い、初期には遠ざけることが多かった。

ただキリスト教圏では、聖書に記載があるようにライ病患者は救済されるべきとされた。
不思議なことに日本でも中世の一時期、ライ病患者が敬われることがあった。

西洋では、ローマ時代の医術の残滓、さらに後のイスラム文化の流入によって、医学が開花していくことになりました。


次回に続きます。





20170629

デマ、偏見、盲点 18: 左翼と右翼の戦争


 
*1


今回は、右翼と左翼が思い描く戦争を通して、戦争の危うさを考えます。
ここで指す右翼とは、右翼寄りの人、右傾化した人も含み、左翼も同様です。


はじめに
先日、私がトランプ大統領の指南役スティーブン・バノンのことを話していたら、思わぬ問がありました。

今回のトランプ大統領誕生の最大の功労者はバノンで、彼がいなくては大統領は人気を博すスピーチも政策立案もままならなかったでしょう。
このバノンは政治に強い関心を持ち、右翼のオンラインニュースを立ちあげていた。
彼が目指したの、ホワイトハウスとエスタブリッシメント(支配層)を破壊することで一種のクーデターであり、実現の為にトランプを祭り上げた。
その理由は、現状の腐敗し体たらくなホワイトハウスでは第三次世界大戦を凌ぐことが出来ないと考えたからでした。

ここまで説明すると、ある人が「右翼は戦争をしたがる筈なのに?」と言って腑に落ちないようでした。

この問には、右翼と戦争に対する誤解がある。

それでは皆さん、右翼と左翼どちらが戦争をするのでしょうか? 注釈1.

左翼は、右翼こそが軍隊と戦争を望むと信じているようです。
逆に右翼は、左翼こそが暴力を容認し、一方で負け犬になると信じているようです。



 

*2

この見方は正しいのでしょうか?
右翼の中には、ヒトラーが社会主義者だから、極悪な戦争を始めたと信じている人がいる。
一つには、ナチスが「国家社会主義ドイツ労働者党」の略称だからでしょう。
歴史を知れば、彼は国粋主義者(ファシスト)で右翼だとわかるはずです。

それでは日本が満州事変へと突き進んだ1930年代、この大陸進攻を牽引したのは社会主義者か国粋主義者のどちらでしょう。
牽引した多くは軍人でした。

これらの解釈に混同があるのは、偏ったマスコミや言論などの影響が大きい。
端的な例として、満州事変が始まる前、売り上の上位は朝日と毎日で、読売はかなり少なかった。
しかし、事変が始まると他社より遥かに売上を急伸させたのは読売新聞でした。
朝日や毎日も売り上げを伸ばしてはいたが。
これは読売が最も戦争に反対していたからでしょうか?

この手の勘違いは、熟慮せずに心地良い説に飛びついたからなのですが、実は、ここに右翼の心性があるのです。
当然、左翼の心性もあります。
後に、両者の心性について解説します。


 
*3


米国の戦争を振り返り、右翼と左翼の違いをみます
軍事大国の米国で、民主党と共和党のどちらがより戦争をしていると思いますか?

主な戦争を始めた政党と大統領を挙げます。
開戦には複雑な経緯があるのですが簡略化しています。

南北戦争はリンカーン(共和党)。
第一次世界大戦(ウイルソン)と第二次世界大戦(ルーズベルト)は民主党。
朝鮮戦争は民主党。
ベトナム戦争はケネディー(民主党)。
コソボ紛争への介入はクリントン(民主党)。
湾岸戦争とイラク戦争はブッシュ親子(共和党)。

こうして見ると、ハト派と見做されている民主党の方が、大きな戦争に加担し、多くの死者を出している。

皆さんは、民主党と共和党の戦争に違いがあると思いますか?
一般には以下のように言われている。
民主党は、世界の平和や人権を守る為に、他国に介入し戦争も行う。
共和党は、他国への介入を避けるが、自国の主義や権益擁護の為には断固戦う。

それではこれら戦争を簡単に検討します。
*南北戦争で決着をつけたからこそ、国の分裂を防いだと信じらている。
*二度の世界大戦と朝鮮戦争への参戦、コソボ紛争介入がなければ、より酷い状況になった可能性がある。
*ベトナム戦争とイラク戦争は誤解に基づいた開戦で、より酷い結果を招いたと言える。
*湾岸戦争は予防的な開戦で、不要だった可能性がある。
(これら戦争には、参戦や開戦、介入の是非を巡りいまだに賛否両論がある。)

これらの戦争は、2度の世界大戦以外、自国が攻撃されたから反撃したのではなかった。
つまり、自己防衛ではなく、同盟傘下の保護または予防的な戦争と言える。
これには放置すればいつか自国に悪影響が及ぶかもしれないので、早めに叩かなければならないとの思惑がある。
当然、米国は世界や自国の安全保障の為に戦争を始めたと言うでしょうが。

つまり、右翼(共和党)も左翼(民主党)も戦争を行うのです。
どうしても軍事大国になると安易に戦争を始めやすい。


 
*4 

予防的な戦争について知っておくことがあります
予防的な戦争が許されないのは当然ですが、実は無視してはならない歴史的教訓があります。

ヒトラーがドイツで台頭し始めた時、周辺国では宥和策をとりました。
(日本はドイツと共に戦ったので別です。)
目立つのは米国のケネディ―大使(大統領の父)、英国のチェンバレン首相、そして隣国フランスです。
彼らは戦争を避ける手段として相手を刺激しない、または同じ独裁者ならスターリンを倒してくれるヒトラーを選んだのです。
しかしこれは間違いでした。

やがて英国で、軍人出身のチャーチルがヒトラーとの抗戦を表明した。
さらに米国のルーズベルトは米国民の厭戦気分を押して、参戦に持っていった。
こうして多大な犠牲を払ったが、世界が協力してドイツと日本の進攻を挫くことが出来た。

このことから、侵略軍を撃退出来る体制作り(軍備など)や心づもりは必要だと言えます。
とは言え、それほど単純ではなく、周辺諸国との軍拡競争を招く危険があります。

これと逆のケースがベトナム戦争です。
朝鮮戦争を経験した米国は、共産勢力を恐れ、南ベトナムで過剰防衛(予防的な戦争)に走り、ベトナム戦争に踏み切ったと言える。

この二つのケースは、過去の悲惨な戦争の経験や恐怖が尾を引き、リーダーや世論が選択を誤った例です。

ハト派的な宥和策もタカ派的な強硬策も共に巨大な戦争を招いたのです。


 
*5


右翼と左翼の心性とは何か?
右翼の心性には、見知らぬに他者への著しい恐怖心があるようです。
私が外国旅行をすると言えば、右翼の人ほど、現地(イスラム圏や韓国など)に不安を感じるようです。
これは彼らが偏見を煽るマスコミに影響されていることもあるが、やはり未知のものや他人に強い恐怖心や不安感を持つことにある。

一方、左翼の心性には、他者への不安感が少なく友情すら築けると思うようです。
一見、良いように聞こえるが、うがった見方をすれば甘い理想家とも言えます。

この両極端の心性が社会の変化に感応し、真逆のマスコミや言論界に共鳴し、益々偏りを深めることになる。

本来、この二つの心性は一人一人の脳内に共存しています。

未知のものに楽天的で、チャレンジする心性と、未知のものを恐れ、慎重に対処する心性は、人類が進化する過程で獲得したもっとも重要な相反する二つの能力です。
この二つの心性が、各人の生育過程で脳内ホルモンの分泌や左脳右脳の連携機能の発達具合により、人類の平均値よりそれぞれ一方に偏ってしまうのです。

願わくは、両方がうまく相乗効果を発揮すれば良いのですが。
もしかすると、この心性が年齢や男女差で異なり、ばらついていることが人類の発展と安全を生み出しているのかもしれません。
安心はできませんが。

ここで注意が必要なのは、左翼や右翼と呼ばれる人々が、本当にこの心性を有しているとは限らないことです。
例えば、一方に属すことにより得失がある場合などです。注釈2.


ここで簡単なシミュレーションをしてみましょう 注釈3.
敵対しつつある二つの軍事大国を考えます。

ここでは両者の心性の動きを中心に考えます。
それぞれの国が極端な右翼や左翼に支配されていればどうなるでしょうか?

一番分かり易いのは、両国が極端な左翼(ハト派)に支配されている場合でしょう。
おそらく宥和策が図られ、軍事衝突は遠のくでしょう。

次いで、両国が極端な右翼(タカ派)に支配されている場合はどうでしょうか。
これも単純明快でしょう。
互いに猛烈な恐怖心を抱き、宥和策を取れず疑心暗鬼に陥り、ついには軍拡競争、衝突に進むでしょう。

最後に、右翼が支配する国と左翼が支配する国が対峙している場合はどうでしょうか。
うぅ・・・・・・、難しい。 

ヒントは、それぞれの国に左翼寄りと右翼寄りの心性を持った国民が同数いることです。(小さな集団は別にして、人類全体で見ると心性をもたらす能力は正規分布している)
右翼支配の国は不安を感じないが、左翼支配の国にやがて変化が起きるでしょう。
左翼支配の国民と言えども、右翼支配の国に恐怖心を抱き、急速に右傾化していくことになります。
こうなると結局、両国は共鳴するように軍拡競争を始め、衝突の可能性が高まるでしょう。

戦史を見ると、適切な政治文化と優れたリーダーに恵まれない多くの国が、この悲惨な状態に陥るのです。

元来、相手が本当にハト派だとか、タカ派だとか、軍事力が同等かを見定めるのは困難です。
現在は、地球全体が監視され、また以前に比べて互いの国情をより知ることが出来るようになっている。
しかし、それでも自国の政府やマスコミに報道の制限や偏向があるので、正しい情報が国民に伝わるとは言い難い。


要点はこうです。

一つは、互いが疑心暗鬼になり牽制を始めると、益々、亀裂は深まり、やがて軍拡競争、衝突につながる。
単純に、一国の過大な軍備は危険因子になる。

一つは、上記の過程が、外界に対する恐怖心の高まりを受けて、一気に加速する。
この恐怖心を強く抱き、牽制すべしと行動させるのが右翼の心性です。

一つは、互いの国情と内情を正確に把握できない為に、疑心暗鬼が増幅される。
これを防ぐにはひとえに国民の知る権利が守られることであり、特に為政者にとって都合の悪い情報を捏造・隠ぺいする政府と偏向したマスコミの存在が危険です。



 
*6

まとめ
これまで検討して来たことを整理しましょう。

*過大な軍事力は戦争を招きやすい。

*侵略に対する備えは必要ですが、軍拡競争や軍事大国化への注意が必要。
説明は省きますが、今後、世界は新たな防衛体制に進むことになるでしょう。

*極端な宥和策も強硬策も戦争を招きやすい。

*恐怖が高まると右傾化が興り、疑心暗鬼、軍拡競争へと進み、戦争を招きやすい。
だからと言って単純に左翼だから安全、右翼だから危険とは言えいない。

*国内外の情報が正確に素早く伝わることで疑心暗鬼を抑え、戦争の誘発を避けることが出来る。


追記
上記のことを踏まえれば、右翼を自認し挙動不審な現首相に憲法改正や軍事を任せることは、戦争の危機を高めることになるでしょう。



注釈1.
左翼と右翼の明確な区別や定義は複雑ですが、ここでは簡単に、左翼は革新、リベラル、ハト派で、右翼は保守、ナショナリズム、タカ派としておきます。

元来、左翼と右翼の意味は時代や社会で変化します。
各人が左翼的か右翼的となるのは、個人の心理的、文化的、政治的、社会的、思想的な背景、それに加えてマスコミ、言論界など多彩な影響によります。
一言で言えば、多くの人は属している社会とムードで両端に振れることになる。

注釈2.
共産主義の中国上層部や軍部には右翼の心性を持った人が多いはずです。
特に保守的な傾向を持つからこそ出世出来るはずです。
例えば、右翼的な教育を目指す学校建設を謳えば政府からの支援があるような場合などです。

注釈3.
この説明は、「互いを牽制することが如何に状況を悪化させるか」の社会学的実験の結果、脳科学の知見を参考に書いています。