20140516

人類の歩みと憲法 9: 戦争の常識

 朝鮮戦争

< 1. 朝鮮戦争 >

憲法や国際条約に謳われている戦争対策を見るつもりです。
その前に、世界の戦争史を参考に、戦争への疑問を簡単に整理します。


イラク戦争

< 2. イラク戦争 >

主要な疑問を整理します

質問1: 軍備増強で戦争を防げますか?
答え: 軍拡競争が始まり、大国に対して小国は疲弊するだけでなく、戦争勃発の可能性はより高まる。相手が小国でも、援助国が出てくれば、同じ結果になる。

質問2: 集団安保(軍事同盟)を結べば戦争を防げますか?
答え: 同盟グループと、反同盟グループの軍備が均衡すれば抑止が効くと思われるかもしれません。しかし効果にバラツキがあり、軍拡競争と勃発の危機が高まることがある。

質問3: 軍備を放棄すれば平和は訪れますか?
答え: 必ず戦争を徴発する国は出現しますので、防衛か制圧する軍備は必要です。

質問4: 中立国になれば安全ですか?
答え: 成功している国もありますが、隣国は、軍隊を増強し問題を放置する日本の中立を信じないでしょう。

太平洋戦争 

< 3. 太平洋戦争 >

同盟の神通力
両大戦の戦火拡大の原因が共に、同盟(集団安保)にあったとしたら・・。

第一次の場合。本来、オーストラリアの暗殺事件でしたが、主要6ヵ国が二手に別れて同盟を結んでいたので、約定通りに順次参戦していった。
第二次の場合。日本は日中戦争を始めていたが、列強国を牽制する為に遠方の国と同盟を結び、主要7ヵ国が二手に別れて戦う羽目になった。
この戦略は、中国の戦国時代、秦が覇者となる為に採用した遠交近攻策と同じで、日本の戦国時代も多用された。
つまるところ、戦争を有利に進める為には必要なのですが、戦争を防止する手段ではない。

キューバの核ミサイル配置、キューバ危機当時

< 4. キューバの核ミサイル配置、キューバ危機当時 >

抑止の神通力
米ソが核競争を繰り広げた時、何が起きたのか。

有難いことに核戦争は起きなかったが、これは世界の世論が強く反対したことにある。
しかし傘下の同盟国は他の武器で頻繁に代理戦争を行い、憎悪は蔓延した(戦後独立した国々で)。
両国の核弾頭競争は常軌を逸し、地球を7回以上破壊する力を生みだし、軍事費は膨大になり、さらに核破棄物は今も未解決です。
抑止力に頼っている間は、敵意と猜疑心が増加し、武器が溢れ、解決は遠のくようです。
それを救ったのはゴルバチョフ大統領による冷戦の終了でした。
一方、冷戦後、各地で戦争がより多発したとように感じられる。
これは冷戦時代に両国の援助により軍事力と軍事依存が進んだことが原因です。

米ソの大統領

< 5. 米ソの大統領 >

日米同盟の神通力
朝鮮戦争の時、米軍がいなければ、今の韓国はどうなっていただろうか、コソボも同様でした。
一方、ベトナム戦争の時、米軍が介入したことにより戦火は大炎上し、イラク戦争も同様でした。
小国が侵略された時、両大国が直接対決に踏み切ら無い条件で、同盟は頼りなるが、大国の勇み足はその被害を甚大にする。

一番の問題は、日米同盟に頼ってしまうと隣国との難しい関係改善について、米国の戦略に拘束され、また自らの智恵と努力を払わなくなることです。
しかし日米の同盟関係は戦後から続き、動かし難いものがあります。
ここが国民の踏ん張り所かもしれません。




20140515

人類の歩みと憲法 8: 政治制度の問題点

 タイの首相が失職 

< 1. タイの首相が失職 >

前回、三権分立の役割を見ましたが、現在、ほころびが出ています。
早晩、政治制度の改変が必要です。
問題点を指摘します。

委員会風景

< 2. 委員会風景 >

現状の問題点
数日前、タイの首相が失職しましたが、それは首相の人事介入が違憲との判決が出たからです。
これは裁判所が良く機能している現れであるのですが、ある問題を暗示しています。

一つは、違憲審査を担う最高裁判所長官や判事の任命権は通常、行政(内閣、大統領)が握っていることです。
このことは政府寄りの判決や判断保留が増え、国民の期待を裏切る可能性が高くなります。
当然ながら一党による長期政権が続くと法思想も偏りやすく、その傾向は強まります。
よほど国民が高い法意識を持って裁判を監視しないと違憲審査の効果は失せてしまいます(最高裁判所裁判官国民審査が一手段)。


ホワイトハウス 

< 3. ホワイトハウス >

もう一つは、社会が複雑多岐にわたり、行政の権限(内閣と官僚)が大幅に巨大化し専門化していることです。
民間から選ばれた議員達が事細かく行政を監視抑制することは益々困難になっています。
日本の法案やその答弁案はほとんど官僚が作成しています。
米国も、大統領が交代すると上級スタッフが2千人ほど交替しますが、その多くは、支援団体に連なる専門家(研究所、銀行、企業など)です。
米国の議会を動かしているロビイストの多くは元議員で企業や団体とのパイプ役を果たしています。
つまり、現状の行政府や立法府は、日に日に国民の代表から乖離し、腐敗や濫用の温床になりやすい。

 核持ち込みの密約 

< 4. 核持ち込みの密約 >

さらに新たな問題が生じている
それは先ほどの専門化とも関連するのですが、知識や情報が特定の人々に滞留してしまうことです。
三権分立であっても、行政(トップと官僚)や他国との間で情報が隠蔽され、国民は真実を知らされず、正しい判断が出来なくなります。
現実に隠蔽や虚偽、誘導の事例は事欠きません。
これは日本だけのことではありませんが、昨今、日本の悪化は急速です。

国家による監視と情報秘匿

< 5. 国家による監視と情報秘匿 >

まとめ
この二つの悪化に対して、世界は有効な対策や思想を提示出来ていないようです。
前者は、おそらく歴史的に繰り返されて来た現象と本質的に一緒だと思います。
後者は、現象こそ似ているが、その対処は今までに無い新しい発想が必要だと思います。
連載ブログ「社会と情報」で追っていくつもりです。

次回より、戦争防止について見ます。












20140514

人類の歩みと憲法 7: 国を導く工夫

 フセイン元イラク大統領

< 1. フセイン元イラク大統領 >


前回、国が如何に簡単に暴走するか見ました。
悲劇が繰り返さないように、人々はある工夫を憲法に盛り込むようになりました。
今回は、人類が創造した巧みな政治制度とその狙いを見ます。


 英国議会

< 2. 英国議会 >

権力の濫用を如何に防ぐか
人々がより大きな集団を作り、その運営を代表者に委託することは歴史の流れです。
しかしその権力者(集団)は往々にして、腐敗し濫用を始めエスカレートします。
そして遂に人々は立ち上がり、権力者(集団)を交替させます。
歴史はこの繰り返しでした。

そこでこの権力を常時抑制する方法が考えられた
議会が作った法で権力を縛る為に立法権(議会)と行政権(大統領や内閣)を別けた。
これによって権力の使用は法の範囲内に限定された。
さらに法に関して司法権(裁判所)を分離しました。
これは議会が裁判を担ってしまうと、党利党略に利用されやすく、また法理論の素人では公正中立な運用が困難になるからです。
一方、裁判所を監視抑制する工夫が、民間人参加の陪審制度だと言えます


陪審制度:映画「怒れる12人」

< 3. 陪審制度:映画「怒れる12人」 >

この三権分立によって、権力者は気ままに、国民に徴税や戦争、逮捕処刑が出来なくなります。
例えば、米国の大統領は大きな力を持つが、法案提出権を持たず、派兵は議会の承認が必要です。
大統領の3期以上の再選は無効なども腐敗防止の例です。

最高裁判所大法廷 

< 4. 最高裁判所大法廷 >

それでは議会を抑制する方法はどうすれば良いのか
議会も会派や支持層に有利な法案を通し、腐敗や暴走を起こします。
例えば、米国が独立する切っ掛けは英国議会が決した身勝手な貿易保護法案への不満からでした。
米国は伝統的に議会を裁判所で抑制します。
その方法は議会の決定を裁判所が違憲審査することです。
もし議会の多数派が少数派の権利侵害を決した場合、救う方法はこれしかありません。
例えば、国会の多数派が選挙区割りや制度を自党に有利に決している場合、裁判所に訴えることがそれです(一票の格差で違憲状態の判決)。

議会の二院制は、異なる方法で選出された人々により抑制する意味があります。
選挙制度を工夫することにより、少数多党化を防ぎ二大政党化を促し、抑制と合意形成の最適化を目指しています。
腐敗を防止するために、議員の世襲を排除する選挙制度を設けています。


18世紀始め、三権分立を唱えたモンテスキュー、フランス 

< 5. 18世紀始め、三権分立を唱えたモンテスキュー、フランス >

重要なこと
これら政治制度はまだ問題を含んでいるが、まだその歴史は200年程に過ぎません。
私は、この巧みな工夫は、人々の幸福に貢献する最も高尚な人類の創造物だと思います。













20140513

人類の歩みと憲法 6: 絵に描いた餅にしない為に 

 

< 1. ヒトラー >

これから、憲法の重要な二つの問題を扱います。
それは国家権力を暴走させない、国家間の戦争を防ぐ工夫です。

国家権力を暴走させない工夫
多くの血を流して手に入れた理想の国家が国民に牙を剥き、腐敗・暴走することは多い。
古代アテネは数百年を掛けた改革により民主主義を体現したが、百年と続かなかった。
市民が王を倒したフランス革命による共和制も、ナポレオンの独裁により20年と保たなかった。
つまり人権擁護の文だけでは絵に描いた餅にすぎない。


ヒトラー首相とヒンデンブルグ大統領 

< 2. ヒトラー首相とヒンデンブルグ大統領 >

ヒトラーの独裁
あれほど先進的で民主的なワイマール憲法の下、ヒトラーは独裁者となり、15年で憲法の命脈は絶たれた。
ヒトラーの行動を追い、憲法の欠陥を見ます。

1923年、ドイツで最も鷹派のバイエルン邦のミュンヘンで、中央政府(ベルリン)転覆のクーデター未遂事件が起きます。
逮捕抑留されたヒトラーは、この時の高潔で愛国心に満ちた態度が好感され、広く知られるようになります。
29年の世界恐慌による極端な経済悪化は、彼の明快で悪をなで切る言動によって、共産党、社会党、保守党などを尻目にナチ党は票を伸ばします。
32年、彼は2度目の大統領選にも敗れたものの、ナチ党は国会で第一党に躍り出ます。


ドイツ国会議事堂放火事件

< 3. ドイツ国会議事堂放火事件 >

この年、国会議事堂放火事件が起きます。
即、首相である彼は大統領に戒厳令(憲法の人権条項停止)を奏上し、認可を得ます。
彼は犯人が共産党員だとし、多くの国会議員を逮捕し、さらに「社会党員は投票出来ないとする規則」を追加し、ナチ党は憲法改正に必要な2/3議席の賛成を可能とした。
そして一気に、全権委任法を可決し、憲法改正を行った。
これによってナチ党の一党独裁、彼の総統が確定した。

こうなると議会と大統領は完全に意味を無くし、憲法の理念は葬られた。
34年、大統領は以前から体調をこわしていたが、在任のまま死去した。
この年、ヒトラーの国民の支持率は90%あった。

そして第二次世界大戦へと突き進み、世界の死者は5千万人を越えた。

ドイツ軍の進軍を歓待する人々 

< 4. ドイツ軍の進軍を歓待する人々 >

何がヒトラーの独裁を許したのか?
一番大きな理由は、彼が言葉巧みにあらゆる人々を味方につけたことです。
政権を長らく握っていた大統領や国軍の参謀達をうまく騙した(戒厳令など)。
先鋭化した突撃隊を自ら粛正し、資本家や保守層を安心させ援助を得た。
やはり彼が大多数の国民を心酔させたのが一番大きい。

突撃隊

< 5. 突撃隊 >

憲法の欠陥とは
一番は、国会議員の大量逮捕を許す戒厳令を大統領の一存で実施出来たことです(騙されたが後の祭り)。
この事が、ヒトラーが反発を招くことなく独裁者になることを可能にした。
当時、違憲裁判が行われていれば、違った結果を生んだかもしれない。
もう一つは、比例代表制を採用していたために少数多党化が起きやすく、このことが不安定な内閣を生み、政治の混乱を招く遠因になった。


















20140512

人類の歩みと憲法 5: 憲法を生みだした力

 ルネサンス: レオナルドダビンチの書

< 1. ルネサンス: レオナルドダビンチの書 >

少し想像して下さい
あなたが誰かに「これは正義だから・・」と言って、同意を求めたとします。
おそらくその人は一瞬、たじろぐでしょう。
そうではなく「これは皆の・・・」と言えば、事は簡単でした。
悪くすれば、正義は狂信者のプロパガンダ、危険と見なされたかもしれません。

イスラム文化: アルジェリアの街並み

< 2. イスラム文化: アルジェリアの街並み  

それではヨーロッパでどうだったのでしょうか
正義や法の発展には長い産みの苦しみの歴史がありました。
歴史的事件と人々の動き、思想を振り返ります。

紀元10世紀頃まで、ヨーロッパはキリスト教、ゲルマン民族、ローマ帝国の文化や法が中心でした。
しかし9世紀頃からイスラム文化が流入し、十字軍遠征、地中海貿易の発展、アラビアからのギリシャ思想の再流入、そしてルネサンスが15世紀頃に開花します。


< 3. ベネチア >

貿易は経済の大躍進を生み、商人や都市市民は組合を作り、その富を背景に領主や皇帝から幾多の特許状を受けるようになった。
自治権を得た港湾や都市が、各地に出来、自ら数百年をかけて大聖堂を建てるほどの繁栄を謳歌するようになった。
ドイツの一事業家が神聖ローマ皇帝の資金を一手に引き受け、イタリアの商都フィレンツエやベネチアは強大な自治都市になった。

一方、キリスト教会(教皇)は王権を凌ぐ存在となり、腐敗と形骸化も進行していた。
14世紀、ペストが蔓延し、西欧の人口の半分が失われると、信仰心は徹底的に打ちのめされた。
民衆はもはや教会への信頼を失いつつあった。

ペスト禍 

< 4. ペスト禍 >

地球規模の交易とアラビア科学の刺激を受けて科学技術と医学は急速に進歩した。
さらにギリシャ哲学の再発見は、失いつつあった宗教的呪縛から抜け出て、人間理解を自然で合理的なものへと向かわせた。
一方、貴族と教会の両領主の圧政に耐えていた農民達は、宗教改革が目指した教会権威の否定に同調して蜂起することになる。

こうして16世紀中頃、ドイツで農民戦争と宗教改革が勃発し、西欧から英国、北欧を巻き込む戦争と信条の転換をもたらした。
やがて17世紀末、最初の革命が王権の弱体していた英国で起こることになる。


ヤン・フスの焚刑:ヨーロッパ最初の宗教改革

< 5. ヤン・フスの焚刑:ヨーロッパ最初の宗教改革

人々の信条と思想の変化とは
ルネサンスによって、人間個人の尊厳や自由が注目され、神学者からも見直しが迫られた。
さらに宗教改革において、信仰によりあらゆる人々は平等で自由だと謳われた。
これらの中から、個人と社会、さらに王と神の存在を問い直し、社会を再構築すべきという思想が次々と生まれた。
王は人々を虐げる者となるので、立法が国を治めるべきとした。
その為には、革命は正当化され、新たな国は民主的でなければならないとした。
また信仰を政治に持ち込んではならないともした。

日本では
維新を支えた王政復古は東アジアや西欧でも混乱期には、国を纏める手段として多用された。
しかし西欧は、そこに留まることはなかった。
日本も宗教改革や一揆、合議制の政体、維新を経験した。
しかし西欧の憲法を受容はしたが、その精神を我がものとするまでには至っていないのかもしれない。

























20140511

人類の歩みと憲法 4: 憲法は何をもたらしたのか

参政権

< 1. 参政権 >

最初の変革
法は社会の安定・平和には欠かせないものとなりました。
人類が数千年の時を掛けて練り上げて来たものです。
しかし、それは一方で権力者による徴兵や徴税、罰則の根拠にもなっていました。

英国議会 

< 2. 英国議会 >

それを覆す事件が、長らく続いた改革の総仕上げとして17世紀末の英国で起きました。
貴族が団結し国王の横暴を抑える為に、権利の章典を王に呑ませることに成功した。
これは貴族中心ではあったが上下両院の決議による宣言でした。
これ以降、英国の議会は王の専横を抑え、上位に立つようになりました。
しかしこの時点ではまだ市民は置き去りでした。
それにはアメリカの独立宣言から合衆国憲法、フランスの人権宣言まで約百年の時が必要でした。

こうして国家は少数の権力者達から、貴族、市民、やがてほぼすべての国民のものになりました。
それは絶対王制から君主制、共和制、民主制への歩みであり、主権在民の確立でした。

一つの社会が、多数の構成員の合議によって運営される状況は、世界中の古代・中世においても一部の限られた地域では存在した。
しかしそれらは長く続くことはなく、また下層階級は完全に除外されていた。

絶対王制

< 3. 絶対王制 >

初めて、すべての人々の基本的人権が保障される基盤が出来た
ところで人間の権利は何によって保障されるのでしょうか。
日本の民法第1条「私権の基本原則」は以下の文から始まります。
「私権ハ公共ノ福祉ニ遵(したが)フ」
何か違和感がありますね。
通常、法律は秩序維持の為に、人々の行為を制限し罰則を規定しています。

そこで憲法は国民の平等、自由、財産、参政などの人権を先ず認め、国家権力がそれを侵してはならないとしたのです。
つまり逆に憲法は国家権力を制限したのです。
こうして国民は生きる権利を保障されるようになりました。

正義の女神

< 4. 正義の女神 >

人権とは何でしょうか?
ほんとうに人間は何か権利を持って生まれて来るのでしょうか?
身も蓋も無いのですが、何か実体があるわけでは無いですよね。
人権は英語のhuman rights の訳ですが、このrights は「正しい行い」を意味しています。

一方、法とは何でしょうか?
法は「正義に適合して秩序をたてるために、社会が構成員に強制する行為の規範」と言えます。
両者を総合すれば、「社会は正義に則って人々を守り、規範を守らせる」と言うことになります。

もっとも不思議で、もっとも重要なことは「正義」の概念を人類が生み育てて来たことです。











20140510

人類の歩みと憲法 3: 大きなうねりと孤島

フランス革命 

< 1. フランス革命 >


世界の憲法制定の流れを要約し、日本の状況を見ます。


大日本帝国憲法発布 

< 2. 大日本帝国憲法発布 >

日本の憲法
1867年、日本は明治維新をなしとげ大日本帝国憲法を制定した。
この維新は王政復古をうたい混乱を速やかに終息させた意味で画期的だった。
一方、立憲君主制の下、天皇が国民に憲法を与えるものになった。
これは政府が、当時沸き起こる民主的な憲法案(英国やフランス風の)を恐れ、君主制のプロイセン憲法を参考に、急ぎ制定した。

次いで、大戦後の1946年、現行の日本国憲法が公布された。
この憲法は、日本政府の原案では旧憲法色が強いとして、連合国軍総司令部が起草したものが基になった。

マグナカルタ 

< 3. マグナカルタ >

世界の革新的な憲法や条約の流れを要約
1689年、権利の章典、イギリス : 憲法により君主の権力を制限し、議会が優位に立った。

1776年、独立宣言、アメリカ : イギリスからの独立を宣言し、基本的人権と革命権を唱えた。

1788年、合衆国憲法、アメリカ : 世界初の成文憲法。連邦制を目指し、共和制、民主制、三権分立、二院制、大統領制を採用した。

1789年、人権宣言(17条)、フランス : 絶対王制を倒したフランス革命で、基本的人権を唱えた。

1867年、大日本帝国憲法、日本 : 明治維新後。天皇が軍権を専有し統治した。

1918年、14箇条の平和原則、国際連盟 : 第一次世界大戦を休戦させ、戦争の再発防止を訴えた。

1919年、ワイマール憲法、ドイツ : 第一次世界大戦末期の革命で、最も民主的な憲法となった。

1945年、国際連合条約、国際連合 : 第二次世界大戦後、戦争の再発防止策を規定した。

1946年、日本国憲法、日本 : 第二次世界大戦後、GHQが草案。基本的人権、戦争放棄を唱え、象徴天皇を認めた。


アメリカの独立宣言

< 4. アメリカの独立宣言 >


日本の状況
日本は東アジアを代表する大国にはなり得たが、国民が自ら民主的な法や憲法を生みだすことはなかった。
お仕着せがあったとも言えるが、外圧がなければ旧態依然としたものになっていただろう。
女性の参政権や地主制の解体は、先進国よりかなり遅れて戦後、外圧によって行われた。

重要なこと
日本は、ここ2000年ほどの間、海外先進の文明や文化を素早く取り入れ、自らのものにしてきた。
また日本は海外からの脅威に対して、国民が一丸となって武力だけでなく、あらゆる面で乗り越えて来た希有な民族です。

しかし、憲法に見られるように何かもの足りないものがある。
これから先進国の憲法のエッセンスを見ていきます。












20140509

人類の歩みと憲法 2: この不思議なもの

 モーセの十戒

< 1. モーセの十戒 >

人類は進歩しているのでしょうか?
例えば「より複雑で高度な能力を持つようになること」と定義すれば、人類は進歩しているように見える。
しかし、「より幸福」になったと言い切れないので、違和感を覚える方もおられるでしょう。

ところで皆さんは科学や文化、政治、戦争を人類に特有なものだと思われますか。
実は、自然に暮らすチンパンジーはこれらを原初の形で持っています。
連載「心の起源」「戦争の誤謬」「病と医術の歴史」で事例を紹介しています。


ハムラビ法典:右の太陽神が王に法典を与えている

< 2. ハムラビ法典:右の太陽神が王に法典を与えている >

人類が生みだしたものとは何か?
チンパンジーにその端緒が無くて、人類だけが有するものに宗教や美術、法などがあります。
おおまかに以下のことが言えます。
キリスト教や仏教、イスラム教などの世界宗教には創唱者がいました。
有名な美術品のほとんどには制作者が知られています。
しかし現在の法や憲法の作成者を、皆さんは知っているでしょうか。

実は、チンパンジー社会にも制裁や秩序維持の行動は存在します。
しかし合意に基づいて、その内容を変更し強化することは出来ません。
一方、人類は集団内外の争いを治める方法を先史時代から掟や戒律として残していました。
無文字社会や民族に伝承された掟や戒律は神話によって権威づけられるか、作成者不詳が多かった(自然法)。


アテネの陶片追放: ふさわしくない最高権力者を投票で追放

< 3. アテネの陶片追放: ふさわしくない最高権力者を投票で追放 >

誰が法を創るのか?
やがて文字が誕生すると、法文として記録するようになり、その初期のものがハムラビ法典でした。
ハムラビ法典は王が神から授けられたものとしています。
都市が誕生し王朝が興ると、王が法を制定するようになりました。

しかし最初の転機が、古代ギリシャのアテネに訪れました。
アテネも初期は貴族が支配していたのですが、やがて改革によって市民が法を定め、市民の権利を確保するようになりました。
おおよそ2500年前のことです。
しかし、この後、ローマ帝国以降のヨーロッパでは、長らく一部の権力者達(王や貴族)が新しく法を定め運用するようになりました。


ローマの元老院: 元老院が法を専門的に扱う

< 4. ローマの元老院: 元老院が法を専門的に扱う >

しかし、やがて人類史上、新たなうねりが訪れることになります。
それは現代まで続く、人類社会、最大の転換の始まりだったのです。













20140507

人類の歩みと憲法 1: 今、何が起きようとしているのか?

 航海

< 1. 航海 >

ここ3世紀の間、世界中で多くの血を流し勝ち取って来たものがあります。
人類、最高の智恵と創意が集約されているものが憲法かもしれません。
この連載で、人類社会の進歩を支えたものが、一遍の法文だったことを見て行きます。

ウクライナ情勢

< 2. ウクライナ情勢 >

今ある危機
今の日本は、船長が必死で荒海に向かって大きく舵を切ろうとしている状況です。
大きな波が来るのならそれは正しい、しかし、そうでないならむしろ危険かもしれない。
この違いは、恐怖の対象が、自然ではなく異民族だと言うことに尽きる。

素晴らしい船長
TPP、増税、リフレ策、減反政策変更などの実行力は他の追随を許さない、まことに立派である。
リフレ策は不安を抱えているが、先ずは首尾良く行くことを祈る。
これは「赤信号、欧米諸国と一緒に渡れば恐くない」のようなものです。
あれほど不安視された原発を推進しても首相の人気に陰りはない。


忠臣蔵

< 3. 忠臣蔵 >

一方、気になることがある
秘密保護法制定、NHKの中立性放棄、軍の強化と適用拡大が推し進められている。
今後、解釈変更や憲法改正で目指すものが確定されていくだろう。
今の時期、大いに議論すべきだが、自治体は憲法擁護の運動を、政治的偏向だとして抑制に転じた。
ここ2年あまりで、愛国心が讃えられ、熱を帯びて来た。
愛国心で感涙むせぶ小説が飛ぶように売れた。
愛国心は自国を奮い立たせもするが、他国も同様で、やがて共振を始める。
それは小さな離島の購入計画と北朝鮮のミサイルが引き起こしたように見える。


選挙模様

< 4. 選挙模様 >

しかしそれだけだろうか?
「火の気のないところから・・」のことわざがあります。

日本には、二つの不気味な伏流水があります。
一つは、ここ30年ほどの欧米諸国に共通するのですが、政治が専門化し、社会に偏在化が起こり、国民の信頼は日増しに低下している。
それは多党化と選挙離れを生んでいるが、日本は最も酷い状況を亢進中です。
特に、日本の不幸は権力・組織に依存する文化があり、これが暴走を生むことになる。

もう一つは、大戦後、欧州は歴史的反省の結果、隣国との友好を選びましたが、日本は絶縁の道に閉じ籠もろうとしています。
これは日本が島国で被侵略の経験がないことから、歴史認識がガラパゴス化しやすいことによります。
これらのことが、今のうねりを生みだしたとも言えます。