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20180222

デマ、偏見、盲点 23: 何がバブル崩壊と戦争勃発を引き起こすのか? 2




*1


今回は、戦争勃発のメカニズムを考えます。


* 戦争勃発のメカニズム

戦争勃発までの経緯をここ1世紀半ほどの歴史から集約してみましょう。
初めに民主国家間の戦争を想定します。
独裁者が戦争を始める場合は後で検討します。

この場合、ほとんどの国は相手より少しでも軍事上優位を望み、仮想敵国同士が軍拡競争を始めます。
中立国で軍備を保有する場合はありますが軍拡競争に陥ることはない。

軍拡競争で劣勢に立たされた国は軍事同盟を求めて挽回を図ります。
やがて国々は二つの軍事同盟に収斂し、世界は対立する巨大軍事同盟による緊張状態に晒されます。
これがここ1世紀半の間に起こり、世界は二度の大戦と代理戦争に巻き込まれました。

これを避ける為に中立政策を採る国(北欧、スイスなど)があり、ほぼ戦火を逃れることが出来ました。
もっとも中立を宣言するだけで助かると言うものでもありませんが。
(中立国の軍備について注釈1で検討します)


上記のケースで、最初に戦端を切った国(侵略国)も初めは議会制の民主国家でした。
しかし日独のように軍拡競争に奔走する過程で民主主義を放棄し暴走することになりました。(ソ連も革命当初は議会制でした)
歴史上、一度軍拡競争が始まると暴走は必至であり、さらにその過程で軍部独裁が誕生し易くなります。
(軍拡競争と軍部独裁について注釈2で説明します)



*2


* 独裁国家の戦争

独裁者が牛耳る国の場合はどうでしょうか?
残念ながら今なお地球上に独裁国家が存在しますので、独裁者が狂気を帯びていると思えば不安は高まります。

ここでは二つの実例から、軍部独裁による戦争勃発の経緯を考えます。
独裁者や軍部が軍事権を握っていれば、例えばヒトラーや日本帝国のような場合はどうだったのでしょうか?

ヒトラーの台頭を許した要因に、初期のドイツ国民の絶大な期待、欧米列強の対ロシア牽制への期待があり、ドイツの軍備増強があまり危惧されなかったことがある。
これを放置し、融和策さえ採ったことが問題を大きくしたと言えるでしょう。
その後、チャチールのように強く出ても既に手遅れで、結局、ヒトラーを死に追いやるまでヨーロッパ全土は破壊と殺戮に晒された。

しかし、なぜ聡明なドイツ国民が暴虐で狂気のヒトラー(ナチス)に希望を託してしまったかが問題です。
様々な要因はあるが、発端になった最大の理由はフランスが報復的な経済制裁をドイツに課し、経済を疲弊させたことにある。
国民はどん底から這いがるためなら武力による他国侵略すら容認するようになり、国の指導者に剛腕な人物(見かけは清廉で内実は凶暴)を選んだのです。
こうなってからの融和策は手遅れでした。
(集団が外部に強い敵意を抱くように仕向けると、人々は人格的に問題があっても剛腕なリーダーを選ぶことが社会実験から知られています。逆に言えば、敵意を煽れば煽るほど下劣なリーダーでも人気が上昇するのです。この手の事例は特に最近頻出しています)



*3


日本帝国の膨張を考えます。
当初、欧米列強は海軍力の軍縮条約履行(軍艦保有量の制限)で日本の膨張を抑えられるとしていたが、日本の大陸進攻を契機にそれまでの経済封鎖を強化し、石油の禁輸によって日本の戦意を挫こうとした。
しかし、これが逆効果となったのは周知の事実です。
それは日本帝国が、石油が枯渇するまでに勝利すれば良いとして短期決戦へと踏み切ったからでした。

これらの例からわかるように狂気の前では、抑止力の設定(軍縮条約)と経済封鎖がまったく意味をなさないか、逆効果にもなったのです。
いずれにしても、このような客観的な判断が出来ない指導者を相手に、単純で通り一辺倒の策は役に立たないか、むしろ逆効果なのです。

多くの場合、相手国が正常なら軍縮条約と経済封鎖は功を奏し、安全で効率の良い方法と言えます。


次回に続きます。



注釈1.
戦争に巻き込まれない策として、中立政策があります。
簡単に見ておきます。

中立とは非同盟を指しますが、これは歴史的に軍事同盟が多くの戦争を引き起こしたと言う反省に基づいています。
つまり、我が国は自ら戦争をしないし、他国の戦争にも協力しないと言う宣言なのです。
これは相手国に敵意や脅威を与えないことを目的としています。


しかし、そうは言っても独裁的で狂気に走る国なら中立国に武力侵攻する可能性があります。
事実、大戦時ドイツとソ連は中立である北欧4ヵ国に侵攻した。
この時、スウェーデンだけは地政学条件と外交手腕によって、戦火から逃れることが出来た。
他の国は戦火にまみれたが、日独のように自ら膨大な軍事費と人命を浪費し、徹底来な破壊を被ることはなかった。
永世中立国のスイスも戦火を免れることが出来た。

このような経緯を踏まえてスイスやスウェーデンなどの中立国は専守防衛に徹した軍備を保有しています(先制攻撃力の保有は他国に脅威を与えるので中立国とみなされない)。
ただ小国(ルクセンブルグ、モナコなど)は大国や同盟に防衛を依存しています。

このテーマは非常に重要ですので、いずれ扱うつもりです。



注釈2.
軍拡競争と軍部独裁はなぜ起きるのか?

軍拡競争は抑止力とも関わるのですが、敵国同士が客観的に双方の軍事力を評価出来ないことに起因します。
当然、敵国は自国の兵力を秘密にする一方、相手に過大評価させようとします。

また、敵愾心が嵩じて来ると、軍事的に劣勢に立たされていても、多くの指導層は精神論を持ち出し、甚だしい場合には軍事力や経済力が敵対国の1/10であろうと勝利を確約します(かつての日本帝国)。
残念なことに、このような場合、国民もこのような指導層に期待していたのです。
これでは抑止力は無きに等しく、軍拡競争は行き着くところまで行くと、遂には弱小国は窮鼠猫を嚙むで、突飛な行動に出ます。

このような場合、概ね弱小国は軍事力を補うために軍事独裁に走ることになります。
実はすべての国がこうなるわけではなく、独裁者を仰ぎやすい精神文化を持った社会に起きやすいのです。
例えば長子相続の社会であり、ドイツと日本が正に適合していたのです。(エマニュエル・トッドの説)

大国は大国で安易な軍備増強の道を進みます。
これもまた歴史が示すところです。
理由は、一度得た権益―植民地や従属する同盟国での経済上の特権など、を守る為です。
この過程で、軍産共同体が台頭し政治力を持ちます。
そして軍事費の増大が、遂には国力を弱め、かつての帝国がすべてそうだったように衰退していったのです。(植民地政策や軍事大国の維持は一部の者の利益にはなっても、国家としては出費や損失が大きいいのです)

実は、北欧の経済が順調な理由の一つに、二度の大戦において中立を守り、軍事費増大と大きな被災を逃れたことがあるのです。



20180219

デマ、偏見、盲点 22: 何がバブル崩壊と戦争勃発を引き起こすのか? 1





*1


これから、二つの悲惨な結果に至るメカニズムを考えます。
バブル崩壊と戦争勃発はまったく異なるように見える。
しかし実は同じようなメカニズムが働いているのです。
三回に分けて説明します。


* バブル崩壊と戦争勃発について

なぜバブル崩壊が起きるのでしょうか?
誰かが裏でバブル崩壊を煽っているのでしょうか?
残念ながら経済学は崩壊をうまく説明できない。

概ね投資家達(市場参加者)はバブルを好調とみなし歓迎します。
しかし一方で彼らは破産に至るバブル崩壊を恐れます。
一部、間違いなく救済される巨大銀行や崩壊の先頭を切って売り逃げた投資家は別です。(毎回、自分だけは別だと夢想している)


*2

なぜ戦争は起きるのでしょうか?
誰かが裏で戦争を煽っているのでしょうか?
この手の話はいつも巷に溢れています。
しかし多くの真実は戦争が終わってからでしかわからない。
(これを第2次世界大戦とベトナム戦争を例に注釈1で説明します)

平和時であっても、概ね国家は戦争を避けようとして軍備を整えます。
まして緊張が高まると増強へと舵を切ります。
概ね指導者は膨大な人命と破壊が起きてしまう戦争を望まないはずです。
少なくとも国民は戦争が二度と起こらないことを強く望むはずです。
一部、戦争をしても被害の少ない大国や支持率が上がる指導者、莫大な利益を得る軍産共同体は別です。

バブルを煽る投資家達も軍備増強を推し進める国家も共にその悲惨な結果を恐れることでは共通しています。
それでは、なぜ望まない悲惨な結果が生じるのでしょうか?



*3


* バブル崩壊のメカニズム

バブルは経済好調と紙一重ですが、ほぼ確実にバブルは崩壊します。

これは投機家らが株価(金融商品)の高騰が続かないと不安を抱くことが引き金になります。
このタイミングは微妙です。
バブル崩壊の直前まで、多くの経済指標(生産高や失業率)は良好だったのですから。

一つ明確なことは、暴落する時、最初に売り逃げた者は利益を得るが、後になればなるほど投機家達は莫大な負債を背負う運命にあることです。
暴落が始まると、手のひらを返すように貸し手(銀行)が投資資金の回収を急ぎ、逃げ遅れた投機家は莫大な含み資産の所有者から一転して莫大な借金を背負うことになります。
(これを土地投機を例に注釈2で説明します)

この被害は投機資金のレバレッジが効いているほど、中央銀行によるマネーサプライが多いほど起き易くなります(巨額の借金を安易に入手出来る為)。

この時、投資家や金融業が破産するだけでなく、必ず国民も大不況の被害(不景気、失業、福祉カットなど)を長期に被ることになります。
これは銀行の倒産などに端を発する金融危機、つまり巨大な信用収縮が起きるからです。
この深い傷を放置すれば、過去のバブル崩壊(恐慌)後の景気後退のように、設備投資や消費が回復するのに何十年かかるかわかりません。
深刻だったのはヨーロッパの1857年から、米国の1929年から、日本の1991年からの二十年を越える景気後退でした。

このため崩壊後、政府と中央銀行は数十兆円から数百兆円を主に金融市場に投じるのです。
この金額で暴落時の全金融商品(株価など)の評価損を幾分なりとも補うのですが、悲しいことに国民が負担する税金と赤字国債で賄われます。

実はリーマンショック時の全金融商品の評価損はよく分からない。(不明な理由はシャドウバンキングの取引額が分からないためです)
しかし当時のクレジット・デフォルト・スワップ(金融商品の保険)の取引額が6800兆円に上っていたので評価損は見当がつきます(想像を越えますが)。

つまりバブルで儲け、崩壊を引き起こすのは投資家(市場参加者)なのですが、その結果、その痛いツケを強制されるのは傍で浮かれていた国民なのです。


次回は戦争勃発のメカニズムについて説明します。


注釈1
ベトナム戦争は誤解から始まり、深みに嵌った戦争の代表例です。

戦争の発端は第二次世界大戦後に始まる冷戦の敵対感情の高まりにあった。
さらに離れた大陸にあり、異質の文化を持った米国とベトナムは互いに相手国をまったく知らなかった。

初期の接触、ベトナムでの小さな戦闘でこじれたことにより、その後は疑心暗鬼から大戦を凌ぐ爆撃量になるまでエスカレートしていった。
そして米国では大統領が替わるたびに停戦を志向するが、選挙を意識し敗戦の将の不名誉を避けようとして益々深みに嵌っていった。
終わってみると、この戦争で800万人の死者と行方不明者が出ていた。

後に、両国の当時の最高指揮官達が会談して初めて互いの誤解に気づくことになった。
この会談は1997年、ケネディ大統領の下でベトナム侵攻の采配を振るったマクナマラ元国防長官が、ベトナム側に要請して実現したものです。
詳しくは私のブログ「戦争の誤謬 7、8: ベトナム戦争1、2」を参考にしてください。

第2次世界大戦を引き起こしたヒトラーは外部に凶悪な敵がいると扇情し国民を魅了した。
その敵とは主に共産主義者、ユダヤ人、フランスやロシアの周辺国でした。
しかし、やがてドイツ国民は真の破壊者が誰であるかを知ることになるのですが、それは戦争の末期になってからでした。
多くの国民は戦後10年間ほど、ヒトラーに騙された被害者であると感じていたようです。
その後、加害者の自覚が生じ反省と償いが本格化した。

一方、共に戦端を開いた日本では国民が軍部に騙されたと気づいたのは敗戦後でした。
しかもドイツと違って、未だに誰が真の破壊者であったかを認めない人が多い。
極め付きは、国の指導者でさえ相変わらず過去の美化に懸命です。

これでは誰が戦争を始めたかを理解出来ないので、当然、戦争を食い止めることなど出来ない。
おそらくは同じ過ちを繰り返しても気づかないでしょう。



注釈2
身近な企業経営者が1880年代のバブル時にハワイの別荘を買い、バブル崩壊と共に夜逃げしたことがありました。
この過程を説明します。

バブルが始まると最初に工場を担保にし、1億の手持ち資金で国内不動産を購入し、これが数年で2億の評価額になりました。
次いで、これを担保に借金し、別に買った物件がまた4億円に高騰しました。
これを繰り返して行くうちに、遂にはハワイの不動産を買うことが出来た。

絶頂期に彼は総資産20億、借金10億で純資産10億となったことでしょう。
(ここで売れば良かった!!)
しかしバブルが崩壊し、すべての不動産価格が購入時の半値になりました。
彼の総資産は1/4以下に減価し、不動産をすべて売却し返済に充てても借金5億が残りました。
こうして彼は破産しました。

金融商品投資でレバレッジを30倍効かせれば、暴落時の借金はこんな少額では済まない。
ここ半世紀、規制緩和でレバレッジが上がり、金融緩和でマネーサプライが巨大になって投機資金が膨大になり、その尻ぬぐいで累積赤字が天井知らずになっている(減税と公共投資も追い打ち)。

毎回のバブル崩壊で、このように土地、株、商品取引などの高騰と暴落が繰り返されている。
資本主義国だけでなく中国も不動産(マンション)と株で同様の高騰な続いています。




20180206

デマ、偏見、盲点 21: 抑止力と規制緩和に共通する危さ





*1


今、二つの危機、核戦争と経済破綻が迫っています。
しかし、この対処方法に真逆の説があり折り合いがつかない。
このままだと遂には破滅に至る可能性がある。
人々は漫然とかつて歩んだ道を進むのだろうか?


*抑止力と規制緩和に共通するもの

この2月2日には米国は核軍縮から小型核使用に方向を転じた。
また2月3日にはNYダウが1日で2.5%下落した。
これがリーマンショックを上回るバブル崩壊の始まりかどうかはまだ定かではないが、可能性は高い。

ある人々は、この二つは世界を破滅に導くと警鐘を鳴らす。
この破滅とは、核戦争と大恐慌(著しい経済格差と国家債務不履行も含む)です。

しかし一方で、これこそが破滅を防ぐ最善の策だと唱える人々がいる。
戦争を防止するには小型核、恐慌を回避するには景気拡大の為の規制緩和こそが絶対必要だと言うのです。

この二つの危機とその対処方法は一見次元が異なるように見える。
しかし、この二つの対処方法には不思議な共通点があります。
小型核は抑止力、規制緩和は自由競争を前提にしているのですが、実は共に相手(敵国や競合者)の善意を信じない一方で理性に期待しているのです。

抑止力は、敵意剥き出しの国がこちらの軍備力を的確に把握したうえで抑制出来る理性を有する場合のみ成立するのです(太平洋戦争時の日本軍が反証の好例)。
規制緩和は、個々の市場参加者が利己的に行動しても、市場全体としては最適な方向に落ち着くと信じているのです。
何か不思議な信念に基づいた論理なのです。

実際の社会は、悪意も善意も、感情的にも論理的にも動いているのですが。

さらにもう一つ、共通していることがあります。

例えば「抑止力は無効だ!」「自由競争は不完全で弊害が多い!」と否定したらどうでしょうか?
実は困って激怒する人々がいるのです。
前者では軍需産業、後者では金融業界や富裕層で、大きな実害を被るからです。
逆に否定して利を得る人々は特に見当たりません。

具体的に抑止力と規制緩和の危さについてみていきます。


 
*2


*抑止力の罠

兵器による抑止力は有効かと問われれば、「YES」ですが条件付です。

先ず、抑止力が有効な場面は身近な事から類推できるでしょう。
しかし抑止力が効かなくなる場合を理解することは少し難いでしょう。

単純に二つのケースがあります。
競合国(敵対国)が共に軍拡競争に突入した場合です。
一方が軍備増強を行えば相手は脅威を覚え、必ず軍拡競争が始まります(初期の米ソの冷戦)。
これは歴史上至る所で見られ、多くは大戦へとエスカレートしました。

もう一つは、兵器が無数に拡散した場合です。
分かり易いのは、米国の銃社会です。
国民一人に1丁以上の銃があることによって、銃による殺人事件や自殺が非常に多くなっています。
ここでは安易な兵器使用が抑止力の効果を上回っているのです(大国の中東などへの安易な軍事介入なども)。

この二つの例からだけでも、使いやすい小型核の普及は抑止力よりも危険の増大が予想できるはずです。

これに加えて、核兵器ならではの危険を増大させる要因があります。
一つは被害が非常に悲惨なことです。
このことは見落とされがちですが、多くの戦争は燃え上がる復讐心が高ければ高いほどエスカレートし、停戦は不可能になります。
だからこそ人類は悲惨な被害を与える対人地雷やナパーム弾などの兵器の使用を禁止してきたのです。
残念ながら世界は原爆の被害をまだ知らない(日本が先頭切って知らすべきなのですが)。

もう一つは、兵器のコストパフォーマンスが高いことです。
もし手に入れることが出来れば数億から数十億円で相手一国を恐怖に陥れることが出来るのです(抑止力と呼ぶ国もある)。
これまでは膨大な軍事費を賄える経済力こそが大きな抑止力を可能にしたが、核兵器なら小国でも可能になります。

結論は、小型核のような兵器は抑止力を期待出来るどころか、取返しのつかない状況に追い込んでしまうのです。
銃が蔓延し殺人が多いにも関わらず、銃規制が出来なくなってしまった米国がその好例です。

米国では治安と平和は高額で買うしかなく、金が無ければ治安が悪い所に住み、命を危険にさらさなければならないのです。
核兵器の下では、これすら不可能です。


*規制緩和の罠

規制緩和は経済活性化に有効かと問われれば、「YES」ですが条件付です。

皆さんの多くは規制緩和が経済を活性化させると信じているはずです。
一方で規制緩和が経済や社会に弊害をもたらす事例も数多くあるのですが、なぜか見えなくなっています。
これは今の日本で、有効だとする情報が大量に流されているからです。

幾つかの事例をみてみましょう。



 
*3


*米国の規制緩和がもたらしたこと

先ずは米国で40年近く行われて来た規制緩和が如何にバブル崩壊と経済格差を生んだかを簡単に説明します。
専門用語が出て来ますが、全体の流れを知って頂ければありがたいです。

1. 先ずストックオプションが1980年代から急増した。
これにより経営者は短期に高騰させた自社株を安く手に入れ、彼らの所得は鰻登りなっていた。
このことが企業経営を投機的で短期的なものにし、従業員との所得格差も開いた。

2.グラス・スティーガル法が1999年に廃止された。
この法律は1929年の大恐慌の再来を防止するために銀行業務と証券業務を分離し、投機行動を監視し抑制するのが目的でした(1932年制定)。
しかし、これが廃止されたことにより、監視が行き届かないシャドウバンキング(証券会社やヘッジファンド)が好き放題に投機をおこなった。

3.投機時のレバレッジ率が上昇した。
これは証券、商品、為替などへの投機時に自己資金の数十倍まで投資が可能になることです。
これによって投資家は価格が高騰した時は桁違いの儲けが出るのですが、暴落すると巨額の負債が発生し、バブルと崩壊が繰り返されることになった。
このことが2項の監視されない状況で起こった。
 
4.クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が2000年頃から急拡大した。
これは金融派生商品の一種ですが、リーマンショックの巨大なバブル崩壊を招いた大きな原因の一つでした。
これは金融取引時の損失を補償する新手の保険で、当時、危険な投資案件でも金融機関はこの保険があれば救済されると信じていた(赤信号皆で渡れば怖くない)。

バブル崩壊前年の2007年末にはその取引額は6800兆円になっていたが、6年間で100倍にも膨れ上がっていた。
この年の米国の名目GDPは1500兆円で、如何に膨大かがわかる。
当然、崩壊時の補償など出来るはずもなく、米国政府は税金と国債発行で300兆円を金融危機終息の為に注入せざるを得なかった。
出来もしない補償であろうがCDSを販売すれば儲かったのです(6800兆円の数%の手数料でも莫大)。

大雑把ですがポイントは以上です。
この悲惨な状況を生み出した最大の馬鹿げた理由は、貪欲な投機家や資産家、経営者達を野放したこと、つまり規制をしなかったことによるのです。
もうひとつ見落としがちなのは、資金力や情報力、政治力などの差により完全な自由市場などは存在しないことです。

この話は、少し分かり難いかもしれません。
しかし規制や取り決めがなく好き勝手にした為に社会が壊滅した事例は歴史上多いのです。



 
*4


* 歴史上、破滅した例

典型的な例はイースター島とアイスランドです。

人々が最初にこれらの島に入植した時は、木々が茂る緑豊かな所でした。
しかし、燃料などの為に伐採が進む内に自然は再生不能となり、イースター島では部族同士が激しく争い、人口は激減し、逃げ出すにもカヌーを作る木材さえなくなっていた。
アイスランドは木々の無い島となり、それこそ火と氷の島となったのです。


* 日本の事例

最後に日本の規制緩和の惨めな例を一つ挙げましょう。
労働者派遣法の適用拡大により、非正規雇用が拡大し続けています。

これも賛否両論があります。
ある人々は産業の競争力を高める為に、また産業や企業の盛衰に合わせ人材は流動的でなければならないと言う。
一方で、安易な首切りや低賃金の横行は基本的人権を侵害すると言う。

おそらく多くの人は、経済側の言に耳を傾け、泣き寝入りするするしかないと感じていることでしょう(これは日本人の奥ゆかしさかもしれない)。

この問題のポイントは是か非かではなく、どちらも正しいのです。
企業の競争力を高め、労働者の価値を高めるためには、人材の流動性が必要です。
当然、簡単に首を切られ、低収入や無収入に甘んじなければならないのは論外です。

つまり、労働者は失業中も収入が確保され、転職のための再教育や訓練が充分行われ、就職すれば当然、同一労働同一賃金であるべきなのです。

こんな夢のようなことは不可能だと思われるかもしれませんが、北欧(スウェーデン、デンマークなど)ではこれが当然のように行われているのです。

日本の悲しさは、産業競争力の責任を一方だけが背負い甘んじているのです。



 
*5


*まとめ

抑止力と規制緩和の問題点を簡単に見て来ましたが、ここで確認して欲しいことがあります。

抑止力については歴史的に見て完全なものではなく、むしろその強化を放置すれば災いを招くことがあったことを知ってください。

また規制緩和はここ半世紀ほど米国を筆頭に行き過ぎており、多くの問題が生じていることを知ってください。

抑止力と規制緩和の推進は軍需産業や金融業界、資産家に取って実に旨味のあることなのです。
東北大震災の福島原発事故のように、大きな産業と関係省庁が癒着してしまうと、体制維持に都合の良い情報だけが国民に流され続け、問題点が見え無くなってしまうのです。


* 日本が今歩んでいる道

 
< 6.銀行の金融資産と自己資本の比率、OECDより>

金融資産/自己資本は金融セクターの財務安定性を見るためのものです。
上のグラフ: 2004~2016年の金融資産/自己資本の推移。

多くの国、例えば英国、デンマーク、米国はリーマンショック後、健全化を進めているが、日本だけは悪化している。

下のグラフ: 2016年、この日本の比率はOECD35ヵ国の内、下位から
三番目です。

もし大暴落が始まればどの国が最も影響を受けるのでしょうか?



参考文献
「米国の規制緩和がもたらしたこと」に詳しい本

「世界金融危機」金子勝共著、岩波書店、2008年刊。
「世界経済を破綻させる23の嘘」ハジュン・チャン著、徳間書店、2010年刊。
「世界を破綻させた経済学者たち」ジェフ・マドリック著、早川書房、2015年刊。
「これから始まる『新しい世界経済』の教科書」ジョセフ・E・スティグリッツ著、徳間書店、2016年刊。