20140805

私達の戦争 21: 銃がもたらすもの 5


     


今日も、前回に続いて銃所持推進派の指摘を検討します。
おそらくこの指摘が最も深層心理を突いているでしょう。
そこからは深い人間の葛藤と社会の闇が見えて来ます。

指摘1: 銃を規制すれば暴力犯罪が増える



< グラフ1. 英国の暴力・銃犯罪と登録銃の関係、19951999年、by Gun Facts >

このグラフからは、英国の1997年の銃規制によって犯罪が増えているように見える。
しかし奇妙なことに、暴力犯罪件数と登録銃の数が少なく、検討期間が短すぎる。



< グラフ2. England and Walesの暴力犯罪の長期推移、by Office for National Statistics

このグラフでは1997年の銃規制後、強盗を除いて暴力犯罪(暴行、傷害)が半減している。
GunPolicyによると、England and Walesの銃による死者数/10万人は1995年の0.39から下がり続け、2011年に0.22と半減している。
この間、殺人件数/10万人は0.05から0.06に微増し、1件当たりの死者数が7.8から3.6と半減している。
この1件当たりの死者数の減少は米国と同様で、銃による殺人の特徴が顕著です。
この間、銃を含む全殺人件数/10万人は1.3から2002年に1.8まで上昇し、その後低下し1.0になった。
この2002年の全殺人件数が増加した時でも、銃による死者は増加していない。
The guardian(メディア)によると、銃の総数は1996年を100として、2001年に92まで減り、反転して2009年の103に増えた。
英国の銃所持率は、米国の101%に比べで6.2%(2007年)と低く、銃殺人による死者数/10万人は10.3に対して0.22とそれ以上に低い。

指摘1の検討結果
明らかに、英国は銃規制を英断したことにより、暴力犯罪と銃による死者を減らした。
しかし残念なことに、途中から銃の総量が減らず、暴力犯罪の減少が進んでいないようだ。
グラフ1は、銃擁護の為に都合の良いデータを抜き出したのだろう。


指摘2: 銃こそが強盗を防ぐ



< グラフ3. 米国各州の銃の所帯保有率%と強盗件数/10万人、2010年、by date of FBI > 

銃保有率20~40%でバラツキが大きく信頼性は低いが、銃の保有率の増加に対して両強盗事件は共に、始め増加し後に減少する。
「すべての強盗」については、銃の保有率が高い方で犯罪が減少しているようだ。
グラフ2で、英国が銃を規制しても強盗だけはあまり減らなかったの同じだ。
おそらくこのことが米国の市民感情を最も捉えて放さない「銃の必要性」だろう。

原野の一軒屋、夜中、玄関の外で鍵をこじ開ける音がする。
あなたは「おれは銃を持っているぞ!」と、見えない相手に向かって怒鳴る。
この気持ち、わかるような気がします。


< グラフ4. 米国各州の銃の所帯保有率%と暴行件数/10万人、2010年、by date of FBI > 

婦女子への暴行(加重暴行)と銃使用による暴行は共に、銃の保有率の増加に連れて若干増加するように見える。

考慮すべきこと
ここで重要なことは、仮に銃所持が強盗への抑止力になったとしても、殺人と暴行犯罪を増加させていることです。
18話のグラフ、この3、4のグラフから、銃保有率の増加による被害の増減を予想できる。
10万人当たりで見ると、すべての強盗は75から50件に減るが、銃殺人の死者は5から15人に増え、婦女子への暴行は150から250件に増える(正確ではない)。
さらに他に銃に関わる自殺や犯罪被害が加わる。

つまり、すべての犯罪被害を勘案すれば銃所持にメリットはないだろう。

もう一つ検討すべき課題がある
銃で強盗を追い払えるとも言えるが、逆に銃が強盗を容易にしているのではないか。
同様に、あらゆる暴力犯罪を増加させている可能性がある。
第18話のグラフ、この3、4、5のグラフに共通している銃保有率の低い時の犯罪の少なさは、それを物語るのではないか。
銃は攻撃力であり抑止力であり、それが相殺されながら上記のグラフ結果になっている。
相殺の度合いに影響しているのが、様々な銃規制法や社会・治安状況、暴力の文化などだろう。


< グラフ5. 世界各国の暴行・強盗犯罪件数/10万人と銃所持率%、2006年、by REAL CLEAR SCIENCE

対象国は先進国のようですが、不明。
銃所持率と暴行・強盗の犯罪率との関係は大きくばらついている。
それでも銃所持率が0%から10%に上昇するにつれ、強盗事件が急激に増加している。
暴行事件と銃所持率の大小には相関が無いようだ。


< グラフ6.主要国の銃所持率%と全犯罪率/10万人、2007年、by The American Journal of Medicine

対象国は欧米と先進国が主で社会状況は似ているはずだが、それでもバラツキが大きい。一応、全犯罪率と銃所持率には弱い相関がある。
グラフ5、6から言えることは、犯罪の多寡は銃所持率にも影響されているが、それよりも、その国の社会や文化状況に大きく依存していると言える。

結論
別の言い方をすれば、銃が無くても起こる強盗や暴行傷害に極度な不安を感じ、それらの犯罪を増やす銃で犯罪を減らす考えは、それこそ矛盾(ほことたて)している。
結局、一時的な不安や恐怖感が銃規制への抵抗を生み、暴力犯罪を減らす機会を失っている。
それを実現し、世界の模範になり、リード出来るのは日本だけかもしれない。

次回は、米国がこの事実にどう向き合っているのかを見ます。
そこからは戦争を肯定する姿勢も見え隠れします。





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