* 1
前回、国家がいとも簡単に戦争を始めることを見ました。
今回から、戦争が国民に如何に広範囲に甚大な災厄をもたらすかを見ます。
それは、想定していた国益や損出と比べもにならない悲惨な結果を招きます。
戦争による損出
戦争には人的損出、経済的損出、社会的損出が目立つが、人権や精神的な損出も著しい。
戦争の影響が、終戦後も長く災いをもたらし続け、これがまた次の戦争を呼び込むことになる。
人的損出
* 2
第二次世界大戦の場合、資2(末尾の参考資料の番号)
大戦の死者は総数5000万~8000万人で、軍人は2200万~2500万人、民間人は3800万~5500万人です。
軍人は戦闘、傷病、捕虜などで死ぬが、民間人は爆撃、虐殺以外に強制労働、難民、飢饉などによる病死や餓死も多く、飢饉病気で1300万~2000万が死んだ。
飢饉では、日本軍の統治時代(1944年)、ベトナム北部で民間人40万人が餓死した。
この主因は天候不順で、他の要因も絡むが日本軍の転作政策や徴発が災いした。
爆撃では、米軍による東京大空襲(1945年)によって、1日で民間人8万人が死に4万人が負傷した。
この都市爆撃はこの大戦からドイツ、日本、連合国により多用された。
捕虜の強制労働では、ソ連によるシベリア抑留で、各国からの捕虜390万人の内、57万人が死亡し、54万人が未帰還となった(日本の抑留者60万人)。
これは苛酷な環境での強制労働が原因だが、ドイツや日本も捕虜に対して同様だった。
虐殺では、ドイツ軍によるユダヤ人600万人が最大だが、規模に差はあるが日本や多くの国が行った。
中国の民間死者は700万人~1600万人と多い。
これは日本軍や国民党軍、共産党軍以外に地方軍閥、馬賊、ゲリラが割拠しており、各勢力の戦闘に巻き込まれ、食料徴発や焦土作戦による病死や餓死が多く出たことも一因です。
アジア太平洋戦争時の日本の人的損出、資1
太平洋戦争開戦の1941年の総兵力は241万人、終戦の45年は717万人だった。
アジア太平洋戦争を通して906万人(人口約7100万人)が兵士動員され、その29%(260万人資2)が死んだ。
45年以降の米軍の大空襲により、全国で死者約50万人、負傷者102万人、罹災者約970万人が出た。
*3
太平洋戦争末期の沖縄戦の人的損出、資3
沖縄では本土決戦への時間稼ぎの為に、消耗戦を強いられた。
県民60万人の沖縄で連合軍18万人と日本軍9万が戦った。
日本の戦死者は軍人9万人、民間9万人で、このうち沖縄県民の死者は病死・餓死を含めると15万人に達した。
戦力不足を補う為に少年から老人まで沖縄男子2万人が根こそぎ動員され、さらに男女の学徒が動員された。
また県民は労働力・食料の徴発、戦闘中の壕からの追い出し、スパイ容疑処分、自決強要などを日本軍から受け死者が増大した。
結果、日本軍は壊滅状態、県民60万人のうち4人に一人が戦死した。
第二次世界大戦の人的損出、資2
戦争当事国60ヵ国の軍民死者の人口比は平均3.6%でした。
主要国の軍民死者の人口比はソ連12.6%、ドイツ9.3%、日本4%、中国2.9%。
軍民死者の人口比が著しく高い国は、欧州ではドイツやソ連に接した東欧やバルト三国でポーランド17%、リトアニア14%。
アジアは軍民死者の人口比が総じて高く、インド、仏領インドシナ、フィリピン、シンガポールで4~7%となり、日本軍と連合軍が戦った東南アジアに多い。
*4
最近の戦争での民間人被害、資2、資4
最近の戦争では、爆撃により民家、施設、環境が軒並み破壊され、生活物資が入手困難になり、餓死を待つか難民にならざるを得ない。
コソボ紛争(1996年~)では、全戦死者は数千人だが、難民は100万人を越えた。
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(1992年~)では、人口430万人で難民200万人が発生した。
民族問題が絡むと難民は増大する。
2003年に始まるイラク戦争では、全戦死者2万人だが民間死者は50万~100万人とされる。
1997年のコンゴ紛争では、飢饉や伝染病蔓延などで540万人以上が死んだ。
*5
まとめ
全体主義に陥った国家(ソ連、ドイツ、日本)は第二次世界大戦を始め、他国の侵略だけでなく自国民にすら多大な犠牲を強いた。
これらの国は一党独裁、領土拡大、軍事優先、異民族蔑視で共通している。
このような体制の指導者は国益優先と称して、自国の兵士や民間人、まして他国民など眼中に無い。
沖縄戦のような惨状は、太平洋上のペリリュー島の戦い、インドのインパール作戦で既に始まっていた。
重要なことは、国が一人の異常者や主義によりミスリードされたのではなく、全体主義を招く風土が、これらの国にはあるのです。資5
参考資料
資1:「太平洋戦争 近代日本の軌跡5」由井正臣編、吉川弘文館、1995年刊
資2:Wikipedia「第二次世界大戦」他
資3:「アジア・太平洋戦争 日本の歴史20」森武麿著、集英社、1993年刊
資4:「よくわかる世界の紛争」毎日新聞社編、毎日新聞社、2011年刊
資5:「新ヨーロッパ大全Ⅰ、Ⅱ」エマニュエル・トッド著、藤原書店、1993年刊。この本はヨーロッパの宗教改革がなぜドイツ中西部で起きたかを、ヨーロッパ全土を人類学的に分析・解明したものです。中で全体主義に陥りやすい文化について触れています。
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