20181204

湖北・湖東の紅葉を訪ねて 5: 永源寺 2




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今回で、湖北・湖東の紅葉の紹介を終わります。
小雨と薄暮にあっても幻想的な紅葉を楽しむことが出来ました。
これも山里やお寺のお世話があっての事だと感謝しています。


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日が暮れると共にライトアップの光が目立つようになって来ました。


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薄暮の中の紅葉はけっして鮮やかではないが、深みを感じさせる。


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上: 本堂。

下: 鐘楼。
この写真は11月22日、16:40のものですが、周囲はかなり暗くなっていました。
ISO1600で、手持ちで撮影し編集で明度を上げてこの状態です。


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この2枚の写真は、前回紹介した禅堂前を撮ったものです。
同じ所でも20分ぐらい時間が経つと、ライトアップの効果が際立つようになりました。
まるで豪華な日本らしい舞台のセットを見ているようです。


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薄暮から夕闇にかけて、ライトアップやフラッシュで撮影した光景。

右下: 最初の石段沿いにある16羅漢(岩壁に石像が彫られている)。


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1時間後に戻って来た時は、真っ暗になっていた。
橋の近くの広場には数軒の屋台が並んでいた。


  今回の紅葉巡りで感じたこと
これら紅葉は総合芸術、日本で洗練された文化だとつくづく実感した。

北欧やロシア、北米には雄大な一大紅葉地帯がある(一部しか見ていないが)。
それと比べると日本の場合、数百本程度の広葉樹が密集ではなく最適な位置に配されている。
また日本の紅葉の樹は高く伸びた大木と言うより、背が低く枝が横に広がる木が好まれているようだ。
境内の赤や黄色の広葉樹は苔むした岩や石灯篭、小さな池や建物の間に配される。
石畳や地面に積み上がり、池や小川、手水鉢に浮かぶ落ち葉すら重要な背景になる。
人々は境内の参道や回廊を巡る内に、様々に形を変え黄色や朱色の木々と様々な背景色の組み合わせの妙を楽しむことになる。


人類は原初来、赤色に神秘性を感じ、多くの宗教は聖なるものとして取り入れた。
そして特に東アジアは、今でも赤(朱色)を宮殿、神社仏閣に使用している。
中でも紅葉が広く見られる日本(韓国も)では、なぜか寺院の境内に紅葉が重視されるようになった
元来インド起源の仏教には朱色を愛でる習慣は無かったと思うのだが。

推測に過ぎないが、朱色に対する無意識の神聖感と、大乗仏教特有の死生観―末世に至る滅びと冬の到来を告げる紅葉が結びつけられ、広く受け入れられるようになったのだろう。

一方、キリスト教では、死後の世界は仏教と異なり希望溢れるものなので、落ち葉や冬を連想する紅葉は聖なる場所には不向きと見られたのだろう。
キリスト教圏では、宮殿に大規模な紅葉を取り入れるところはあっても、教会には無いように思う。
どちらかと言うと、春や誕生をイメージさせる花が多いように思う。

こんなことを感じながら、楽しい1日を過ごして来ました。


それでは終わります。


20181202

連載中 何か変ですよ 208: 「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」を読んで 5



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賃金低下と格差拡大が野放しにされている最大の理由を語ります。
放置すれば最悪の事態になる。
これで結びとします。


これまで著作の問題点を考察してきました。
A)     対策に実効性がない。
B)     真の原因を隠している。
C)     バブル崩壊を無視している。

これらは序の口に過ぎない、核心に迫ります。


D)   自然のままが最良と信じ、手を加えることに抵抗がある。

例え話で対策に「池の自然サイクルに干渉しない」ことを挙げた
著書にも同様のドグマ「健全な労働市場に規制を加えない」が貫かれている。
特に最低賃金は市場を歪め、効果が無いとまで言い切る。
これは自由放任主義経済への心酔が言わせたものです。
暗黙の前提「自由競争こそが最善」があり、これによりコスト低下などの効用の最大化が起こるとしている。

この前提が間違っていることを身近な実例で見ます。



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1.      最低賃金について
日本の最低賃金は先進国中ほぼ最低で、この規制が外されると間違いなく賃金相場は下がる(多くの外国人技能実習生の賃金はこれよりさらに低い)。
論者は最低賃金が失業率を上げると反論するだろうが、要は下位90%の国民の収入が下降し続ける現状から上昇させることの方が重要です(所得再分配で日本の酷い貧困率を改善出来る)。
逆に言えば低賃金だから求人が多いのであって、悪循環を繰り返すだけ(安い移民も)。

例えば、スウェーデンでは統一した最低賃金を設けていないが、職業毎の賃金相場がある。
ここでは移民労働者に対しても同一賃金を適用すると言う卓越した取り組みがなされている。
なぜなら産業側が移民を安く使おうとして賃金相場が下がり、また国内労働者の締め出しが起こるからです(多くの国でこうなっている)。

こうしてみると最低賃金(規制)は市場を歪めると言うより、明らかに社会の効用を高めている。
(規制緩和は必要です。多くは業界を守る規制が災いをもたらす。)



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2.      ゴーン会長の行為からわかること(法律違反とは別)

この事件は自由放任主義の欠点「優位者は自由市場を歪める」を示している。

自由放任主義者は「自由であれば人は創意に溢れて経済を活性化させ、その見返りに高給を得る。これが経済の好循環を生む」を信じる(富裕者に都合が良い)。
ところが経営トップが給与を自由勝手に決定出来てしまうと、この循環は断たれる。
彼は苦労して企業業績向上に努めるより、金額を書き換えれば済むのだから。

信奉者は「企業間競争や株主の圧力により、給与は妥当な水準になる」と反論する。
そうはならない、ほとんどの大企業の株は他のグループ会社によって持ち合いされており、結局同じ立場の経営者(数少ない超資産家)らによって運営されているから。
さらに労働組合が非力なので、彼らの身勝手な行動を牽制出来ない(組合組織率の高い北欧は可能)。
先導する米国はバブル崩壊時、救済された経営者すら平然と高給を掠め取った。
自由放任された市場は必ず機能不全に陥る。

これは日米欧で超富裕者の収入が急増する一方、90%の国民の賃金が延びないことと符合する。
悲しいことに日本だけは低下している。


 

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3.      自由競争の限界を知る

信奉者は、「広大な原野に狐と兎が共に生息していても均衡が保たれ、兎が絶滅することはない」をイメージし、この世は弱肉強食でうまく均衡していると納得する。
しかし間違いは簡単にわかる。

もし、この両者を球場の大きさで囲むとどうなるだろうか?
数か月の内に先ず兎が、最後に全滅するだろう。

残念ながら現在の経済学は現実社会のメカニズムを充分把握出来ていない(おそらく優位者に都合の良いように解釈する輩が多数なのだろう)。
ましてノーベル賞と縁のない日本の経済学では、まったくお手上げです。

ありもしない完全な自由競争にすがって成果のない経済政策を擁護する愚は止めるべきです。

             
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  最後に

もっとも重要なことは、自由放任主義と金融重視の経済政策から早く脱却しないと、大多数の国民はさらに苦境に追い込まれると知るべきです。
1980年代以降の欧米、それを猛追する日本は正にこの呪縛に絡めとられ、抜き差しならない状況にあります。

一方、北欧は半世紀ほど前から新た道を模索し成功した。
しかし、グローバル化の波に呑まれつつある中で、北欧にも欧米の毒がまわり始めている。

北欧が健全な内に、新たな道に進むことが出来ることを願って終わります。
ご清聴ありがとうございました。


追記
今の世界経済の状況を示すグラフを載せます。
すべて借用です。


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上のグラフ: 1980年以降、世界の中央銀行が金融緩和の為に通貨発行(茶線)を加速せる度に、バブル崩壊を招いている。
特にここ10年は通貨発行量がGDP(青線)すら越えてしまった。
これは歴史的な未体験ゾーンに突入したことを示す(危険領域)。

下のグラフ: 世界は金融政策、主に通貨発行(青線)で景気の好転を目指して来た。
しかし、かつての経済成長や低失業率は起こらず、インフレ(赤と緑線)すら起こらない。

 
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「マーシャルのk」はマネーサプライ(M2)/GDPです。
日本のマネーサプライ(赤線)が目立つのは、二つの理由があります。
一つはアベノミクス以前、日銀は貨幣供給を抑えていたのだが、なにせGDP成長率が年を追うごとにゼロになっていたからです。
アベノミクス以後は、日銀黒田のバズーカ砲によるものです。
いつしか、インフレターゲット論の信奉者が望む、世界屈指の貨幣供給量を誇るようになった。

しかし、結果がまったく現れない(インフレ、経済成長)。
不思議なことに、あれほど成果を豪語していた学者先生らは悪びれることもない。
日本の経済学と経済学者はこの程度なのです。





20181201

湖北・湖東の紅葉を訪ねて 4: 永源寺 1




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これから2回に分けて近江にある永源寺を紹介します。
紅葉で有名な禅寺です。
生憎の小雨まじりでしたが、夕暮れにライトアップされた紅葉が趣を増していました。


< 2. 永源寺の地図 >

赤線が散策した往路で、茶色線は復路です。
Sでバスを降りて、橋を渡り、石の階段を昇り、二つの門をくぐると本堂がある境内に出ます。
歩き始めたのが16:00少し前で、本堂の前に16:20に着き、折り返しSに戻ったのは17:00を過ぎていました。


< 3.いよいよ向かいます >

上の写真: 駐車場を後にして、橋の上から永源寺の方向を見る。
左手の急峻な山の斜面の木立の中に、永源寺の多くの伽藍が広がっている。
歩き始めた時は、空は完全に厚い雲に覆われ、やがて陽が沈み、戻って来る頃には真っ暗になっていました。

下の写真: これから上る石段の前から振り返り、渡って来た橋を見る。


< 4。 二つの門 >

上の写真: 雨傘の波の向こうに最初の門(総門)の屋根が見える。
この小さな門で、入場料を払う。

下の写真: 総門を抜けると大きな山門が石畳の参道の向こうに見え始めた。
ライトアップされた山門と紅葉の朱が競い合い、薄明りの中で際立っていた。


< 5. 本堂に向かう >

上の写真: 山門の前から振り返る。

下の写真: 左手に本堂が見える。


< 6. 本堂周辺 >


< 7. 様々な色彩 >

左上: 本堂と裏山の紅葉。
右上: 積もった落葉。
左下: お堂内にあった竹灯籠。
右下: 裏山の落葉と石灯篭。


< 8. 禅堂の前庭 >

この光景がもっとも印象的でした。
右手の大木の銀杏からの落ち葉が地面を覆い、真っ赤な1本の楓が屹立している。
この悪い天気でこれだけ見事な光景が見られるのなら、天気が良ければもっと・・。
それにしても、この光景は自然の造形によるものか、それとも人の作為によるものか、どちらのおかげなのか?



< 9.回廊からの紅葉 >

薄暗い中で、紅葉が黒の縁取りで引き締まって見える。
これも一興。


< 10. 老木と紅葉 >

梅の老木(?)と燃えるようなモミジの対比が、私を惹きつけた。
これに美を感じている自分に、日本人であることに感謝していた。

実に写真を撮るのが楽しい。
出来映えとは別ですが。


次回は後半になります。





20181130

連載中 何か変ですよ 207: 「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」を読んで 4


 
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前回に続き、論者が指摘する賃金が上がらない理由(弁明)を確認します。
その裏に真実が隠されています。    


(ア)      国際化で企業はコスト競争に晒され業績は悪化し、賃金アップの余裕がない。
厳しいコスト競争は円高に晒されていた輸出企業にとっては事実でした(逆に輸出業者や庶民には恩恵だった、でも過去のことになった)。
ところが、この低経済成長の20年間でも大手企業の業績は益々好調です。
それは内部留保や配当金の著しい増加や海外投資の増加で明白であり、逆に労働分配率の低下が弁明の矛盾を突いている。
これまた一切言及がない。



< 2. 配当金総額の推移、法人企業統計年報より >


() 企業の賃金評価表(成果主義)が賃金を抑制している。
論者は企業の賃金評価表が賃金全体を抑える仕組みになっていると指摘する。
これは事実だろう。
だが成果主義であろうが、かつての職務給であろうが、運用目的が賃金上昇を目指すのならどちらでも良い。
道具(評価表)の分析で終わるのではなく、その背景に切り込まないと何ら解決しない。



< 3. 労働分配率の推移 >


著作は、これ以外にも賃金が上昇しない、または上昇していないように見える根拠(弁明)を数多く挙げている。
これらは一応もっともらしく聞こえるのだが、既に見てきたように上面を撫ぜているにすぎない。

全体に言えることは、論者達はより根深い原因に「見ざる聞かざる言わざる」に徹している。
それは論者たちが賃金低下や格差拡大に何ら関心を持っていないからなのか、むしろ私は論者たちが賃金低下を納得させる為に偽装していると疑いたくなる。

皆さんはどう感じますか?

三番目の問題を検証します。


C)    繰り返されて来た池の汚染は二度と起こらないとしている。

例え話では、原因の一つに「過去に川上から汚水が流れ込んだことでフナが弱っている」を挙げ、これが再来することを触れませんでした。
実は、著作でも同じように再来するはずの不都合な真実から目をそらしている。

論者たちは就職氷河期に就職した人々が、その後も長きにわたり低賃金になっていることを明らかにしている。
しかし奇妙なことに論者の誰一人として、就職氷河期の再来や今後の景気後退についてまったく言及していない。
この経済学者らは就職氷河期を招いたのが二度のバブル崩壊(1990年、2008年)だと知らないのだろうか?
これは、著作内で度々出て来る「最近の傾向として正社員は穏やかながらも賃金上昇の恩恵を受け、また非正規割合の増加傾向が沈静化している」を伏線とし、楽観論を印象付ける為かもしれない。




< 4. バブルで繰り返される日本の失業率の悪化 >

グラフの説明: オレンジ線はバブル崩壊開始を示し、その左側で失業率は急低下し、その後は急速に悪化し、その悪化は繰り返しながら深刻さを増している(世界で同時進行)。


私は論者らが賃金低下を引き起こす状況を知っていながら、知らない振りを決め込むことに幻滅する。

今、日米英中を筆頭に大国は史上最大の貨幣供給(金融緩和)を続けており、これまでのバブル史に照らせば、必ず数年以内に最大の金融危機が起こるはずです。
起きれば好転に見える経済指標は一転して、ここ百年間で最大最長の落ち込みになるだろう。
さらに、これらの国々はバブル崩壊の度に景気浮揚策を行い、莫大な累積赤字を積み上げて来た。
これが足かせとなり、やがて身動きが取れなくなるだろう(景気浮揚策の原資がない)。
こうなれば、失業率低下や賃金上昇、非正規割合の低下は夢の跡に過ぎなくなるだろう。

実は、この手のエコノミストは残念ながら大勢を占め、バブル崩壊まで迎合するか煽り続けることになる。



次回に続きます。