20140913

私達の戦争 38: 自衛とは




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これから、戦争にまつわる基本的な概念について見ていきます。
例えば、自衛、集団的自衛権、抑止力、核迎撃システムなどです。
私達は、何気なく聞いていますが、これらはかなり不正確で矛盾を含んだ概念です。

    

自衛とは何か
自衛は自分で防衛することで、特に不明瞭さがあるとは思えない。
相手が攻撃してくれば、それを防御し、必要ならば相手を打ち負かすこともあります。
前者は自衛であり、後者は正当防衛と呼ばれるものです。
しかし、正当防衛のつもりが過剰防衛になることもあります。

日本は自衛隊を持っていますが、日本国憲法第9条では陸海空軍の戦力保持が否認されています。
自衛隊が戦力ならば憲法違反になるでしょう。
一方、日本が加盟している国連憲章第7条では、安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間、自衛権の行使は出来るとされる。
国際的には自衛の戦力なら問題は無いことになります。
日本は憲法と国連憲章とどちらに制約されるのだろうか。
取り敢えず、日本の現状を容認する為に国連憲章の立場で話を進めます。
つまり自衛隊の戦力は自衛用であれば良いわけです。

    

自衛の戦力とは
それでは自衛用の戦力とは何を指すのでしょうか?
戦闘機、艦船、ミサイル、核兵器は自衛用でしょうか、それとも攻撃用でしょうか。
それぞれの兵器の能力、例えば航続距離1000km以下なら自衛用でしょうか。
それとも兵器の数量、例えば1万トン以下の艦船で5隻まででしょうか。

仮想敵国の戦力が巨大であれば、それに対抗すべき自衛の範囲は変わるのでしょうか。
そうとするなら、仮想敵国が加盟する軍事同盟の戦力はさらに巨大となるでしょう
当然、逆も真なりで、最小の自衛戦力しか持たない国が、強大な戦力を有する国と軍事同盟を結ぶと、仮想的国から見れば自衛戦力を逸脱したことになるでしょう。
例えば、核兵器を持たない国が核兵器保有国と同盟すれば、仮想敵国からどのように見なされるでしょうか。

何か変ですよね
問題点を整理します。
各国の自衛(防衛)と攻撃の境界は、個別の自衛力に限定しても、あらゆる想定をするなら不定となります。
さらに同盟国全体の自衛力で見るなら、その境界の判定はほとんど絶望的です。
結論は簡単で、各国の戦力を自衛の範囲内と規定することに無理があるのです。

当時、国連憲章第7条に個別的・集団的自衛権を盛り込むかで、大いに紛糾したのです。
国連において、中小国はこの条項にかなり反対したのですが、米ソ大国を署名させるために妥協せざるを得なかったのです。
これを単に言葉の綾ではないかといぶかるかもしれませんが、取り敢えず、憲法や国際条約で自衛権を規定することに矛盾があることに気が付いていただければ幸いです。

    

真の問題とは
当時の各国代表は、法文の矛盾に反対したのではなく、二度の大戦の失敗を繰り返さない為に反対したのです。
歴史が示すように、各国は仮想敵国の戦力と競うように軍拡競争する宿命にあったのです。
その始まりは漠然とした自衛の戦力からでした。
つまり不確定な自衛力を認めてしまうと、暴走し軍拡競争に陥りやすいのです。
このことが最大の反省点だったのです。

防ぐ手はあるのか
一つの例を見ましょう。
日本国内では、銃刀法により自衛出来る武器が大幅に制限されています。
多くの国では、拳銃の所持が認められており、自衛権が擁護されているように見えます。
米国ではさらに、州兵だけでなく民兵組織(小規模な集団的自衛権)まで認められています。
日本は、当然、破防法等により、これは認められていません。
この連載「銃がもたらすもの」でも考察したように、どちらが国民の安全保障に有利だったかは、一目瞭然です。

ポイントは、自衛権の制約と統一した武器の制約にあります。
これが最も成功しているのは、世界広しといえども日本だけです。

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しかし自衛の問題はこれだけではない
過去と現実に起きている問題を箇条書きします。

1.軍事衝突時の原因: 満州事変、ベトナム戦争のトンキン湾事件、ドイツ軍のポーランド侵攻のように正当防衛、挑発、虚構かの判定が困難です。紛争当事国が互いに正当防衛(自衛)と称することになる。

2.核ミサイル迎撃: この抑止理論(防衛理論)も千変万化であり、結論としては自衛ではなく攻撃が主になる。後に扱います。

3.諜報活動: 代表的なのが米国の国家安全保障局NSAと中央情報局CIAの暗躍です。これらの行うクーデター幇助、暗殺、情報操作、武器援助などによる他国の政敵排除は何処まで自衛なのでしょうか。CIAのある幹部は自衛の範囲と自著に記しているし、秘密裏に行われるので手の打ちようもない。

これらはどれも放置出来ない問題です。

最後に
少しややこしい話になりましたが、現実の適用や戦史を見る限り、その複雑さは想像を越えます。
大事なことは、当たり前と思っている大前提でも、これほど脆いのです。
それだけに社会の平和を維持することは困難なのです。




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