20140109

社会と情報 4: 内部告発の威力

 

前回、紹介した映画「インサイダー」の実在の主人公はワイガンド博士です。
始めに、彼がどれだけ世界に貢献したかを見ます。


日本のタバコによる死亡数

< 日本のタバコによる死亡数: 厚生労働省より >

彼の貢献
米国で、彼は「タバコが有害である」ことをタバコ会社に認めさせた。
これが当時盛り上がりつつあった嫌煙運動に火を着けることになった。
その成果は、米国タバコ産業の損害賠償額40兆円の支払いに留まらない。
WHO(世界保健機構)は喫煙による世界の死亡者は500万人以上、日本では11万人としている。
日本の厚生労働省は喫煙による1990年の社会的損出額5.6兆円と試算している。
彼の行動により、将来、世界のタバコ被害は減っていくことになる。
ただ放射線被害と一緒で、被害と抑止効果は20年ほど遅れる。


主要国のたばこ喫煙人口比率の推移

< 主要国のたばこ喫煙人口比率の推移:「社会実情データ図録」より >

彼の何が凄いのか
彼は数社で売上高10兆円を越える巨大企業に一人で闘いを挑んだ。
その企業が使える世論対策の費用は、おそらく年間数千億円だろう。
その使い道は、マスメデイアの広告、議会のロビー活動、学会や研究所への援助、訴訟対策の弁護団、批判者や告発者への裏対策などです。
彼はこれら大軍団に一人で立ち向かわざるを得なくなった。

公共機関の研究者らによってタバコの害の調査は進んでいたが、実態を最も良く知る企業内からの情報開示がなければ、最終的な決着は困難であった。
米国タバコ産業に属する人々は、20万人を越えたはずだが、そのことを確実に実効出来、大きな自己犠牲を払ったのは彼一人だけだった。


Jeffrey Wigand
< Jeffrey Wigand >

彼の足跡を追う
彼は1988年、25年間の生化学研究の経験を生かして、タバコ会社BWの研究開発責任者に転じた。
年収4千万円と「より安全なタバコ」の開発担当が魅力だった。
しかし失望するのは早かった。
入社すると、科学で素人の弁護士が彼に、「タバコの健康被害は存在しない」と信じるように要求した。
1年後、彼は開発責任者会議で安全なタバコの開発に議論し、皆が率直に意見を交わした。
経営トップがその議事録を目に止め、ほとんど抹消し、関連文章を国外に移送し、「安全なタバコの開発」を中止した。
その後、彼の開発会議や情報発信には弁護士が立ち会うようになった。


機密、「インサイダー」より

< 機密、「インサイダー」より >

1993年、ついに彼は解雇された。
当時、米国議会は禁煙法成立の攻防中で、彼に情報の提供を求めてきた。
しかし彼は、会社と秘密保持契約を結んでおり、情報漏洩は巨額の賠償と年金喪失を招く。
彼は、「守るべきは家族か死んでいく米国民か」で苦悶する日々が続いた。

解雇された1ヶ月後、自宅に男の声で電話があった。
「タバコのことはかまうな。さもなければ、子どもが傷つくぞ。かわいい女の子になったな。」
彼は吹っ切れた。
強い義憤を持つ人ほど、このような悪魔の囁きに反発し、悪魔側はこのことを見落とし、やがて墓穴を掘ることになる。

次回、後半を紹介します。













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