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今回は、日本らしい経済政策を分析します。
これは菅元総務大臣の肝いりで始まった。
国民が羨望の眼差しで歓迎しているものです。
しかし百害あって一利なしの典型的な愚策です。
l それは「ふるさと納税」です
5年ほど前、私は「ふるさと納税」が国民を馬鹿にし、虐げていると二重の怒りを感じたものでした。
そして何人かの人に意見を聞くと、皆一様に肯定していました。
さらに突っ込んで聞こうとすると、政府を批判する変な奴という目で見られました。
この人達は、この税制で節税しようとするわけでなく、単にその政策が経済や自治体に良いことだと思っているようでした。
こうなると私には怒りを通り越して絶望しかなかった。
これでは日本の経済復興は不可能だ!
政府が様々な愚策を繰り返し、ここ30年以上も没落を深めているのに、誰も気づかず、共に没落を受け入れるとは。
感覚の鋭い方であれば弊害に気付かれるはずです。
この策は菅元総務大臣の肝いりで始まった。
2014年末、この拡大に熱心な菅元官房長官に、ある官僚が諫言した。
「拡充が高所得者を優遇し、自治体の返礼品競争を過熱させる恐れがあるから、規制が必要」だと。
菅は反論もせず、当然是正もせず、翌年この官僚を局長から部外に左遷した。
日本には寄付行為が浸透しておらず、また自治体は、通常の寄付先である赤十字などと比べれば寄付に頼る必要がなく、正常な寄付行為から逸脱するのは必至でした。
この策が世間に広まって行くと、やがて寄付は高所得者に広がり、寄付先は都市から地方へと移り、節税と返礼品目当てが露骨になっていった。
そして寄付額は勢いを増していった。
< 2. 人気急上昇 >
ふるさと納税の実態を見ます。
熊本県のふるさと納税実績では、2018年から2020年まで「個人1件当たり寄付額」は7万、25万、5万と推移、ところが「法人・団体からの1件当たり寄付額」90万、90万、270万と額が大きく増えている。
一方、その合計の1件当たりでは11万、28万、9万で、ブームによる変動がある。
総務省のふるさと納税実績で、2013年と2019年の間、一人当たり12万と変化していない。
この間、寄付者は11万から400万人に達し、一人当たり6件に分散して行っている(分散の方が減税・手続き簡易化になる)。
またこの間、税額控除額/寄附額の率は35%から71%へと増加し、減税が目当てになっている。
この7年間の寄付者の減税総額(税額控除)は8797億円で、2020年には1兆円を超えるだろう。
返礼品上限額は、かつて寄付額の50%を越え、今は30%だが、実際は自治体の熾烈な競争で、返礼品の相場額は寄付金と同額に近い(ふるさと納税サイトの返礼品還元率100%)。
100万円寄付すると2千円だけ引かれて99.8万円が還付される(年間所得3000万円以上なら可能)。
さらに現在でも寄付者の選んだ商品が市場価格で100万円近く届くことになる。
こうして高所得層の参加で益々繁盛している。
ここまで読んでも、まだ「これにより経済が活性化し、少なくとも地方自治体には良いこと」と見る向きもあるでしょう。
確かに、ふるさと納税のサイトは花盛りで、購買意欲が増し誘惑に負けそうです。
会計事務所のサイトでは、「是非、節税にふるさと納税を、特に高額納税者は見逃してはならない!」と謳っている。
批判的な記事やサイト見つけることは困難です。
l 何が問題か?
しかし問題はてんこ盛りです。
無駄を生む返礼品、藁をも掴む思いで競争に走る自治体、実際は消費を減らす策で、返礼品業者だけが潤い、寄付者の住む自治体と政府では赤字が増え、国民へのサービスが減少し、最後には国民がツケを払うことになる、そんな馬鹿げた策です。
寄付された自治体はわずかに得するでしょうが、最も得をするのは寄付者の高所得層(年収1千万円強が中心)で、税逃れとタダで同額の商品が貰えるからです。
実は、これ以外にも長期的に日本をダメにする深刻な問題があります。
しかし、いまだに政府はめげず、国民も掠め取られているとも露知らず羨望の眼で見ているだけです。
「ふるさと納税」は、需要喚起策の誤った典型例で、日本らしい愚策のオンパレードです。
< 3.寄付金に影響が出ている >
「青棒」全体の寄付金は増えているが、「赤棒」ふるさと納税が急激に本来必要な「国境なき医師団」や「国連世界食糧計画」などへの寄付を減らしている。
最大の問題は、国民へのサービスを減らし、消費を減らし、富裕者を減税していることです。
なぜこのような事になったのか?
愚かな政治家が人気とりでやり始めたが、経済と税制を知らず、あるタガを外した為に、市場が苛烈な競争に追い込まれたからです。
(タガとは、寄付税制特例と寄付先の認定です)
次回から2回に分けて「ふるさと納税」が経済に与える致命傷を説明します。