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前回、日本の先輩格である英米で進行している衰退を見ました。
今日は、日本の悲惨な賃金の未来を考えます。
簡単な試算により、若い人の未来が明確になるはずです。
はじめに
一国の経済指標の変動や産業の盛衰を予測することは、たとえ数年から10年先であってもほとんど外れています。
1972年のローマクラブ発表の資源枯渇の予測も外れたと言えるでしょう。
これら予測が外れる理由は、極論すれば人々の欲望(嗜好)や危機意識(節制)が働き、状況が変わってしまったからと言えます。
日本政府がこれまでの政策を踏襲するとして、つまり抜本的な改革を行わないとして、40年後の未来を予測します。
ここで少し確認しておく必要があります。
実は、アベノミクスは日本経済を覚醒させる画期的な政策ではないのです。
日本はこの半世紀、画期的な復興をやり遂げる中で、初期には米国に助けてもらいながらも徐々に米国の言いなりになり、それが現在の社会経済の形を作りあげて来ました。
そしてアベノミクス以降、日本は英米主導のリフレ策(貨幣供給中心)に益々傾斜しています。
この結果は既に見たように、90%の米国民に惨めな結果を招いています。
結局、日本政府は「自由放任主義経済と金融重視」と「福祉政策縮小」によって、経済大国の夢を追い続ける従来の路線を強化しているだけなのです。
あなた方の生涯賃金
現在、日本の株価と企業業績は順調で好景気と言われています。
しかし私達労働者の賃金はここ20年ほど下がり続けています。
これは一時の好景気で修正出来ないことを前回確認しました。
なぜ労働者の賃金は下がり続けるのでしょうか?
現在、日本では不思議なことが起こり、特に日本が先頭を切って悪化しています。
この全体像は私達には見え難いものです。
< 図2.生涯賃金の推移、 独立行政法人労働政策研究・研修機構より >
「ユースフル労働統計2016 ―労働統計加工指標集―」を借用。
このグラフは、同じ企業に勤めている社員で、後から入社する者は先に入社した者より、年々生涯賃金が低下していることを示しています。
この低下傾向は1990年代中頃から始まっています。
これは「何が問題か? 10: そこにある未来」の図9の高額所得者の所得シェアが上昇する時期とも合致します。
また「何が問題か? 3」の図3の企業所得の上昇時期、逆に賃金の下降時期とも一致します。
国民の賃金の低下を間接的に示すグラフを二つ示します。
< 図3. 平均可処分所得の推移、ガベージニュースより >
可処分所得とは家計の収入から、税金や社会保険料を引いた値で、自由に使えるお金のことです。
ここでも1998年をピークに下がり、横這いを続けています。
既に、15年間で15%ほど、私達の自由に使える金が減っているのです。
つまり40年後は可処分所得が今より単純に40%(=40年/15年X15%)減ることになります。
その時は更に、極限の累積赤字額と少子高齢化の為に増税と社会保障負担金増が追い打ちをかけることになる。
< 図4.主要先進国の家計貯蓄率、「投資を楽しむ」より >
日本とイギリスは共に家計貯蓄率が急激に低下しています。
日本の家庭は1991年をピークをつけ、その後、貯蓄に廻すお金が減り続け、遂に2014年には貯蓄を引き出す羽目にまで落ち込んだのです。
かつての日本は貯蓄の高さを誇り、これが高度経済成長(投資資金に廻ることにより)を支えたと言われていましたが、まるで夢のようです。
これらのグラフを見れば、日本の賃金が下がり続けていることが理解できると思います。
しかし、これでもまだアベノミクスに期待し、景気の好転がこの悪化を食い止めるはずだと信じる人もいるでしょう。
そこで、この賃金低下は景気とは別の根本的な要因によって起きていることを見ます。
何が国民の賃金を低下させているのか?
難しい話ではありません。
あなた方の身の周りで起きていることを少し疑うだけで、真実が見えるはずです。
< 図5. 正・非正規雇用者数の推移、厚生労働省より >
「平成24年版 労働経済の分析」から借用。
正規雇用者数が長期にわたり増えない一方、非正規雇用者比率は益々増加傾向にあり、現在は40%に近いでしょう。
皆さんの多くは非正規雇用は仕方のないことと思っているはずです。
なぜなら政府や著名な経済学者、経済界は「産業構造の変化に対応して人材の流動性が必要」と説明しているからです。
実はこれは間違っていないのですが、問題はこの後にあるのです。
なぜ皆さんは、国が「同一労働同一賃金」「離職後の生活補助と再雇用向けの教育」を放置していても怒りの声を上げないのでしょうか?
ここが日本の致命傷とも言えるのですが、人権意識や民主主義が希薄なのです。
このことを放置している国は、やがて米英のようになってしまうでしょう。
これを守りながら経済成長を続けている北欧などが存在する事実は重要です。
< 図6.正規・非正規の賃金カーブ、年収ガイドより >
このグラフは致命的です。
これを一人の生涯賃金のグラフと見立ててれば、正規と非正規の生涯年金の差は歴然としています。
しかもこの賃金グラフは年々低下する傾向にあります(後にわかります)。
さらに悪いことに、この半分しかない生涯賃金の非正規雇用が年々増加しているのですから、日本の労働者の所得は低下するのが当然です。
< 図7. 正規・非正規の生涯賃金の差、年収ガイドより >
2015年度で男性の非正規の生涯賃金は正規の56%しかなく、女性で60%でした。
おそらく今後、正規の賃金も引きずられて低下するでしょう。
さらなる理由があります
賃金低下を招いている大きな理由の一つは非正規雇用とその雇用者数の増大、そして首切りの容易さと再就職の困難さです。
更に重要なことは、通貨供給一辺倒でバブルを繰り返す経済成長よりも、この是正措置の方が遥かに容易に賃金上昇(格差是正)と消費需要の喚起による経済成長が得られることです。
1980年代以降益々衰退を深めている背景に、大多数の労働者の劣悪化を放置し歓迎さえしている政府や経済界の姿勢があります。
< 図8.先進国の労働分配率、独立行政法人産業研究所より >
労働分配率とは、企業の生産額から費用を差引いた額に占める労働者の賃金の比率です。
つまりグラフのように労働分配率が長期低下傾向にあり、日本の労働者の賃金は低下せざるを得ないのです。
米国も低下しているが、日本は真っ逆さまと言えます。
経済学者は、この労働分配率の低下をITが普及した為とか、様々な理由を挙げているが、私は合点がいかない。
現在行われている容易な派遣切り、長期失業者の増加、著しい賃金低下を放置していることが企業収益に安直に貢献している限り、賃金低下は今後も続くのは当然です。
これを何ら規制せず、また保護政策を採らないことが最大の問題なのです。
まとめ
皆さんの40年後の生涯賃金の低下を試算します。
< 図9. 男性大卒の生涯賃金と日本の労働生産性の推移、独立行政法人労働政策研究・研修機構より >
このグラフは図2の男性大卒の生涯賃金と別の労働生産性のデーターを使用したものです。
横軸目盛りは1990年から2014年までの25年間です。
赤線は労働生産を、赤の破線はこの近似曲線を示し、右側縦軸にその%値を示す。
青と緑線は男性大卒の生涯賃金を、緑線はピークであった1994年以降を示す。緑色の破線はこの近似曲線を示し、左側縦軸にその金額(百万円)を示す。
40年後の男性大卒の生涯賃金は、近似式の「-2.397」X40年=96百万の低下になり、1994年の321百万の30%低下となります。
同様に40年後の労働生産性は、1991年の67より更に17%減少し、50%になっていることでしょう。
おそらく皆さんは、この計算結果を信じられないことでしょう。
これは大雑派な試算ではあるが、前述したように今の日本ではこれを上昇させる力がまったくないのです。
前回、英米の経済状況で確認したように景気は変動の末、悪化するだけ、さらに今後、日本は少子高齢化の影響で2060年までGDPの伸びは期待できない。
例え上昇しても今の税制や再分配制度(セフテイネット)では今後、一握りの高額所得者に所得が集中するだけです。
残念ながら、このような日本にしてしまった最大の要因は日本の文化や国民性にあります。
嘆いても仕方がありません。
一つ一つ、正しい方向に導いて行くしかないのです。
次回に続きます。
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