20171218

何か変ですよ! 88: 何が問題か? 11: 生涯賃金の末路



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前回、日本の先輩格である英米で進行している衰退を見ました。
今日は、日本の悲惨な賃金の未来を考えます。
簡単な試算により、若い人の未来が明確になるはずです。



はじめに
一国の経済指標の変動や産業の盛衰を予測することは、たとえ数年から10年先であってもほとんど外れています。
1972年のローマクラブ発表の資源枯渇の予測も外れたと言えるでしょう。

これら予測が外れる理由は、極論すれば人々の欲望(嗜好)や危機意識(節制)が働き、状況が変わってしまったからと言えます。

日本政府がこれまでの政策を踏襲するとして、つまり抜本的な改革を行わないとして、40年後の未来を予測します。

ここで少し確認しておく必要があります。
実は、アベノミクスは日本経済を覚醒させる画期的な政策ではないのです。
日本はこの半世紀、画期的な復興をやり遂げる中で、初期には米国に助けてもらいながらも徐々に米国の言いなりになり、それが現在の社会経済の形を作りあげて来ました。
そしてアベノミクス以降、日本は英米主導のリフレ策(貨幣供給中心)に益々傾斜しています。
この結果は既に見たように、90%の米国民に惨めな結果を招いています。

結局、日本政府は「自由放任主義経済と金融重視」と「福祉政策縮小」によって、経済大国の夢を追い続ける従来の路線を強化しているだけなのです。


あなた方の生涯賃金
現在、日本の株価と企業業績は順調で好景気と言われています。
しかし私達労働者の賃金はここ20年ほど下がり続けています。
これは一時の好景気で修正出来ないことを前回確認しました。

なぜ労働者の賃金は下がり続けるのでしょうか?
現在、日本では不思議なことが起こり、特に日本が先頭を切って悪化しています。
この全体像は私達には見え難いものです。


 

< 図2.生涯賃金の推移、 独立行政法人労働政策研究・研修機構より >
「ユースフル労働統計2016 ―労働統計加工指標集―」を借用。

このグラフは、同じ企業に勤めている社員で、後から入社する者は先に入社した者より、年々生涯賃金が低下していることを示しています。
この低下傾向は1990年代中頃から始まっています。
これは「何が問題か? 10: そこにある未来」の図9の高額所得者の所得シェアが上昇する時期とも合致します。
また「何が問題か? 3」の図3の企業所得の上昇時期、逆に賃金の下降時期とも一致します。


国民の賃金の低下を間接的に示すグラフを二つ示します。


 

< 図3. 平均可処分所得の推移、ガベージニュースより >

可処分所得とは家計の収入から、税金や社会保険料を引いた値で、自由に使えるお金のことです。
ここでも1998年をピークに下がり、横這いを続けています。
既に、15年間で15%ほど、私達の自由に使える金が減っているのです。
つまり40年後は可処分所得が今より単純に40%(=40年/15年X15%)減ることになります。
その時は更に、極限の累積赤字額と少子高齢化の為に増税と社会保障負担金増が追い打ちをかけることになる。

 

< 図4.主要先進国の家計貯蓄率、「投資を楽しむ」より >

日本とイギリスは共に家計貯蓄率が急激に低下しています。
日本の家庭は1991年をピークをつけ、その後、貯蓄に廻すお金が減り続け、遂に2014年には貯蓄を引き出す羽目にまで落ち込んだのです。
かつての日本は貯蓄の高さを誇り、これが高度経済成長(投資資金に廻ることにより)を支えたと言われていましたが、まるで夢のようです。

これらのグラフを見れば、日本の賃金が下がり続けていることが理解できると思います。
しかし、これでもまだアベノミクスに期待し、景気の好転がこの悪化を食い止めるはずだと信じる人もいるでしょう。

そこで、この賃金低下は景気とは別の根本的な要因によって起きていることを見ます。



何が国民の賃金を低下させているのか?
難しい話ではありません。
あなた方の身の周りで起きていることを少し疑うだけで、真実が見えるはずです。


 

< 図5. 正・非正規雇用者数の推移、厚生労働省より >
「平成24年版 労働経済の分析」から借用。

正規雇用者数が長期にわたり増えない一方、非正規雇用者比率は益々増加傾向にあり、現在は40%に近いでしょう。

皆さんの多くは非正規雇用は仕方のないことと思っているはずです。
なぜなら政府や著名な経済学者、経済界は「産業構造の変化に対応して人材の流動性が必要」と説明しているからです。
実はこれは間違っていないのですが、問題はこの後にあるのです。

なぜ皆さんは、国が「同一労働同一賃金」「離職後の生活補助と再雇用向けの教育」を放置していても怒りの声を上げないのでしょうか?

ここが日本の致命傷とも言えるのですが、人権意識や民主主義が希薄なのです。
このことを放置している国は、やがて米英のようになってしまうでしょう。
これを守りながら経済成長を続けている北欧などが存在する事実は重要です。


 

< 図6.正規・非正規の賃金カーブ、年収ガイドより >

このグラフは致命的です。
これを一人の生涯賃金のグラフと見立ててれば、正規と非正規の生涯年金の差は歴然としています。
しかもこの賃金グラフは年々低下する傾向にあります(後にわかります)。
さらに悪いことに、この半分しかない生涯賃金の非正規雇用が年々増加しているのですから、日本の労働者の所得は低下するのが当然です。


 

< 図7. 正規・非正規の生涯賃金の差、年収ガイドより >

2015年度で男性の非正規の生涯賃金は正規の56%しかなく、女性で60%でした。
おそらく今後、正規の賃金も引きずられて低下するでしょう。


さらなる理由があります
賃金低下を招いている大きな理由の一つは非正規雇用とその雇用者数の増大、そして首切りの容易さと再就職の困難さです。
更に重要なことは、通貨供給一辺倒でバブルを繰り返す経済成長よりも、この是正措置の方が遥かに容易に賃金上昇(格差是正)と消費需要の喚起による経済成長が得られることです。

1980年代以降益々衰退を深めている背景に、大多数の労働者の劣悪化を放置し歓迎さえしている政府や経済界の姿勢があります。


 

< 図8.先進国の労働分配率、独立行政法人産業研究所より >

労働分配率とは、企業の生産額から費用を差引いた額に占める労働者の賃金の比率です。
つまりグラフのように労働分配率が長期低下傾向にあり、日本の労働者の賃金は低下せざるを得ないのです。
米国も低下しているが、日本は真っ逆さまと言えます。

経済学者は、この労働分配率の低下をITが普及した為とか、様々な理由を挙げているが、私は合点がいかない。

現在行われている容易な派遣切り、長期失業者の増加、著しい賃金低下を放置していることが企業収益に安直に貢献している限り、賃金低下は今後も続くのは当然です。
これを何ら規制せず、また保護政策を採らないことが最大の問題なのです。



まとめ
皆さんの40年後の生涯賃金の低下を試算します。

 

< 図9. 男性大卒の生涯賃金と日本の労働生産性の推移、独立行政法人労働政策研究・研修機構より >
このグラフは図2の男性大卒の生涯賃金と別の労働生産性のデーターを使用したものです。

横軸目盛りは1990年から2014年までの25年間です。
赤線は労働生産を、赤の破線はこの近似曲線を示し、右側縦軸にその%値を示す。
青と緑線は男性大卒の生涯賃金を、緑線はピークであった1994年以降を示す。緑色の破線はこの近似曲線を示し、左側縦軸にその金額(百万円)を示す。

40年後の男性大卒の生涯賃金は、近似式の「-2.397」X40年=96百万の低下になり、1994年の321百万の30%低下となります。

同様に40年後の労働生産性は、1991年の67より更に17%減少し、50%になっていることでしょう。
おそらく皆さんは、この計算結果を信じられないことでしょう。
これは大雑派な試算ではあるが、前述したように今の日本ではこれを上昇させる力がまったくないのです。

前回、英米の経済状況で確認したように景気は変動の末、悪化するだけ、さらに今後、日本は少子高齢化の影響で2060年までGDPの伸びは期待できない。
例え上昇しても今の税制や再分配制度(セフテイネット)では今後、一握りの高額所得者に所得が集中するだけです。

残念ながら、このような日本にしてしまった最大の要因は日本の文化や国民性にあります。
嘆いても仕方がありません。
一つ一つ、正しい方向に導いて行くしかないのです。

次回に続きます。





20171216

フランスを巡って 49: ベルサイユ宮殿へ




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今日は、シャルトルの町からベルサイユ宮殿までを紹介します。
この日は2017年5月26日(金)で快晴でした。
このフランス旅行もこの日の午後と明日のパリ観光で終わります。


 
< 2. ベルサイユ宮殿 >

今日紹介する写真の撮影場所は主に二カ所の赤丸です。


 
< 3. シャルトルの町を去ります >

 
< 4. シャルトル大聖堂 >

カトリック教会が新たな息吹を込めたゴシック建築と共に隆盛を迎えた時代、そんな息吹きを少し感じることが出来ました、
この時期は、まさにフランスだけでなくヨーロッパ全体が十字軍遠征やサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼でキリスト信仰に沸き立った時代でした。


 
< 5. 途中の車窓から >

 
< 6. ベルサイユの町へ >


 
< 7. ベルサイユ宮殿前の広場 >

私のベルサイユ宮殿訪問は二回目ですが、30年以上前も非常にたくさんの人出でした。


 
< 8. やっと宮殿敷地内に入れました >

予約時間より早く着いいたので、入場するまでに半時間以上待ちました。



< 9. やはり豪華、贅沢な外観です >


 
< 10. 多くの人が待つ広場を望む >


次回に続きます。


20171214

何か変ですよ! 87: 何が問題か? 10: そこにある未来





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今回は、日本の未来を考えます。
これはバラ色ではないはずです。
なぜなら日本は疲弊していく先進国と同じ道を辿っているからです。


はじめに
既に、私のブログで憂うべき状況を幾度も取り上げてきましたが、今回は若い人々の未来に焦点を当てます。

将来、日本で深刻度が増す問題
A: 年金と退職金の大幅な減額
B: 生涯賃金の大幅な減少
C: 介護費と医療費の負担増

多くの若い人は未来に不安を抱いていないように見える。
彼らは、今までもそうであったようにこれからもうまく行くと信じたいはずです。
まして現在、日本は好景気なのだから、きっとこのまま良くなって行くと期待さえしているかもしれません。

しかし、私の想定する40年後の未来(今の20~30才代の人が60~70才代になる頃)は生活がかなり苦しくなっているでしょう。
今の60~70才代に比べ、彼らが自由に使えるお金はおそらく2~3割減るでしょう。
当然、彼らのこれから受け取る生涯賃金もかなり減り、貯蓄は益々困難になり、老後資金はかなり不足するはずです。

聞きたくも信じたくもないだろうが、悲惨な結果を容易に予測できます。
この予測を行う前に、悪化が現実に起きている事を知ってもらいたい。
その先例が既に日本が手本とする先進国で起こっているのです。


先進国で今、起きていること
経済が豊かであるはずの先進国で今、何が起きているのでしょうか?




< 図2.米国のマルチ世代家族の人口比率と人口、by Pew

上のグラフ: マルチ世代家族で暮らす人口の比率。
下のグラフ: マルチ世代家族で暮らす人口、単位百万人。
米国の総人口は現在3.2億人。

このグラフから米国のマルチ世代家族(祖父母と親子の三世代家族)の人口が1980年代から増え始め、この傾向が加速している様子が見て取れます。
特に2008年以降、急増しています。
皆さんの中には、これは移民が増えた結果ではないかと疑う人もいるでしょう。



< 図3. 米国の人種毎のマルチ世代家族の人口比率の変化、by Pew  >http://www.pewresearch.org/fact-tank/2016/08/11/a-record-60-6-million-americans-live-in-multigenerational-households/


このグラフから、確かにマルチ世代家族は白人以外で多いが、むしろ白人家族の増加率は多人種より若干多いと言える。
この変化は人種に関わらず米国のすべての家族で起きていると言えます。




< 図4.英国で増え続けるマルチ世代家族数 >
 Multi-family households, 1996 to 2013, UK by Office for National Statistics

これは英国のマルチ世代家族の最近の傾向を示しています。
ここでもマルチ世代家族の家族数の増加が見られます。
特に2008年と2012年には急増しています。
但し英国の場合、総家族数(2016年1890万家族数)に占めるマルチ世代家族の割合は直近で1.5%に過ぎない。

この米英で起きている現象は、ある重要な経済の変化と関りがある。


この背景にあるもの


< 図5. 米国の失業率の推移 >

このグラフから長期失業者が増加傾向にあることがわかります。
また1980年代前半と2008年以降(リーマンショック)は高失業率に見舞われています。
この時期と図2のマルチ世代家族の増加の時期はよく符合しています。



< 図6. 英国の失業率とGDPの推移 >

このグラフからリーマンショック以降、増加した失業率が高止まりしており、このグラフでは分からないがその余波は2012年まで続いた。
ここでも図4のマルチ世代家族の2回の増加時期が符合している。

つまり、マルチ世代家族が増えた背景には、失業率の増大があったのです。
失業者が増えると、その家族達が支え合うようになったと考えられます。
これを昔の温かい家族形態への回帰と諸手を挙げて喜ぶべきではないでしょう。
当然、所得の低下も起きています。

これには更に根の深い問題があるのです。


1980年代から英米で何が起きているのか?




< 図7. 米国の所得階層毎の所得の推移、by TheAtlantic

このグラフはバブル絶頂期(リーマンショック前)までの所得推移を示しているが、所得下位の60%までは1979年から30年間で17~59%も所得を減らしている。
それも上位1%の層が309%増やしているにも関わらず。

ここで是非とも知って頂きたい事は、経済が好調になれば所得が一時回復し失業率も低下するのですが、バブル崩壊を繰り返す内に確実に益々多くの人が所得を低下させ、長期失業者が増えると言う現実です。
このことは図5と図7からわかります。

もしあなたが、2007年の時点で図7の所得推移を見ているとしたら、きっと未来は洋々とし復活が約束されていると思ったことでしょう。
しかし、現実は非情でした。




< 図8.米国の所得階層毎の平均所得の推移、by Business Insider 

リーマンショック後の2011年には下位90%(赤線)の人までが1970年代よりも所得を10%以上減らすことになった。
実は、このことはITバブル崩壊後の2003年(図7)でも同様のことが起きていました。

もし今の日本の好景気が世界のバブル経済に起因しているのであれば、確実にこの先、2008年のリーマンショックを遥かに越える金融危機が世界を襲うでしょう。

現在、大国(米国、ユーロ圏、日本、中国)は歴史的な貨幣供給を行って来ており、日本だけはまだ継続さえしている。
従ってバブル崩壊はほぼ間違いないでしょう、いつ起こるかは予測できませんが。

なぜこのような不条理が米国中心に起きているのでしょうか?



< 図9.高額所得者(1%)の所得シェアの推移、社会実情データ図録より >

このグラフから平等を守ろうするフランスを除いて、特に米英で高額所得者の所得シェアが1980年代から急増しているのがわかります。
残念なことに、日本も少し遅れて1990年代後半から格差が拡大しています。
この時期は日本政府が米国流の金融改革(金融ビッグバンなどの自由化)を1996年から始めたのに対応しています。



< 図10. 各国のGDPに対する社会的支出割合(福祉政策)、by wikipedia

この図から各国の社会的支出割合(再分配)の程度が分かり、右の方がより高い。
米英でのマルチ世代家族数の違いは、所得格差を是正するはずの社会的支出が両国で違うことによるのでしょう。
米国は赤線、英国は茶色線、日本は黒線、カナダは左側欄外にある。
福祉国家と呼ばれる北欧とフランスを青線で示す。



まとめ
つまり英米で起きている家族形態の変化は、繰り替えされるバブル崩壊によって引き起こされた長期失業者の増大と国民の所得低下がもたらしたものでした。

そしてこの失業率の増大と国民の所得低下、逆に高額所得者の著しい所得増加は1980年代から起きている。

これは既に紹介しているサッチャーとレーガンによる政策「自由放任主義経済と金融重視」と「小さな政府による福祉政策(再分配)の切り捨て」への転換が始まりです。
前者の経済政策については、多くの先進国で大なり小なり実施されており、特に日本は益々その度を強めています。
後者の社会政策についても、多くの先進国が倣っていますが、逆に北欧やフランスのように強めている国もあります。

したがって、日本が現状の米国追従の経済政策を続ける限り、やがて米国と同じか、さらに急激な少子高齢化が重なり悪化は深刻化するでしょう。

つまり日本の将来は大多数の国民にとって経済的困窮が必然なのです。

しかし、一つだけ希望があります。
北欧は同じ資本主義国家でありながら、その経済・社会政策(福祉国家)により高い幸福度と高い経済力を維持していることです。
いずれ紹介します。


次回は、日本の勤労者の惨めな未来を予測します。