20201201

デマ、偏見、盲点 31: 嘘は本当か?

  

*1

 

 

ここ10年ほど、日米で絶望的な社会現象が進行している。

それは議論をしようとすると、「それは嘘だ!」と全否定されてしまうことです。

この問題を解き明かします。

 

 

 

*2

 

 

* 「それは嘘だ!」と言った海外の人

 

A: 私がサンクトペテルブルクを旅行している時でした。

若い女性のロシア人通訳に、私はこっそり聞いた。

「プーチン大統領は欧米で評判が悪いが、どう思いますか?」

 

既に彼女とは、ロシアの世情や外交について話していたが、肯定的な答えしか返ってこなかった。

知的で温和だった彼女は一言、「欧米のマスコミは嘘ばかり」と吐き捨てた。

モスクワで会った通訳は、徹底したプーチン信奉者でしたので、まったく噛み合わなかった。

 

 

B: ワルシャワを旅行している時でした。

 

若いポーランド女性の通訳に聞いた。

「私は映画『シンドラーのリスト』を見たが、大戦時、ポーランド側のユダヤ人の扱いも悪かったのではないですか?」

 

既に、私はワルシャワのゲットー跡を観光し、彼女から説明を聞き、更に突っ込んで大戦時の状況を聞いていた。

彼女は、「そんなことは無い。その映画の監督はユダヤ人だから酷く描いている!(嘘だ!)」ときっぱりと言った。

 

私にしてみれば、当時のポーランドが非道に加担していたからと言っても問題にはならないと思うのだが。

 

 

 

*3

 

C: 来日している米国の若い女性と話をした。

 

今年初め、私は彼女に聞いた。

「トランプさんは米国のマスコミの評判が良くないが、どう思われますか?」

 

彼女はトランプ大統領の支持者で、私はトランプ氏の政策や行状について幾つか指摘したが、当然、彼女はトランプ氏を擁護し続けていた。

彼女は、「マスコミは嘘ばかりです!」と言い切り、それ以上、話は出来なかった。

彼女はFox Newsを見ているとのことでした。

 

 

* 日本の状況はどうでしょうか?

 

政府の議会運営や歴史認識などを論じようとすると、決まって「マスコミ、朝日は嘘ばかりだ!」と言われて幕切れとなります。

話がまったく噛み合わない。

 

 

 

* 何処に問題があるのか? 

 

都合の悪い情報を、みな嘘にして無視してしまうと生産的な話が出来ない。

今まさに日米でこの状況が進んでいる。

真偽を確かめる姿勢が完全に失われてしまった。

 

嘘が悪い事は自明ですが、どちらが嘘をついているかが問題です。

「大統領、首相が嘘を言っているとマスコミは報じているが、マスコミが嘘を言っているに過ぎない」

 

この難題を解明する手立てはあるのでしょうか?

 

幾つか真贋を見分けるヒントがあります。

 

順位、  国、   報道の自由度の状況

45位、 米国、   満足できる状況

62位、 ポーランド、顕著な問題

66位、 日本、   顕著な問題

149位、ロシア、  困難な状況

177位、中国、   深刻な問題

 

これは2020年度の世界報道自由度ランキングで、良い方から並べました(各国の弁護士やジャーナリストの意見集約結果)。

下になるほど、その国の報道の自由が侵害されている。

言い換えれば、暴力や権力によって正しい報道が出来ない状況にあります

 

このことから米国の報道は、ロシアや日本よりは、政府に対して堂々と批判出来ていると言えます(完璧ではないが)。

(但し日本と米国はここ10年ほど悪化しています)

 

それでもFox Newsのように、視聴率が2位でも信頼度では、Wall Street JournalABC NewsNew York Times等より落ちて13位に過ぎないマスコミもあります。

このように信頼出来ないが、影響力のあるマスコミも混在します。

(このランキングはReuters Institute Digital News Report 2019のもので、各国のオンラインニュース視聴者の世界的な調査結果です)

 

逆に言えば、日本のマスコミは真実を報道し難いのです。

つまり大半のマスコミは政府に都合の悪い事実を隠蔽し、政府に忖度した虚偽報道している可能性が高い(かつての東欧の放送がそうでした)。

逆に、真実を伝えようとする報道機関は政府から非難され圧力を受けます。

 

これは単純明快な事実です。

太平洋戦争時、日本の民間も政府も虚偽報道を続け、これはナチス時代のドイツも同じで、破局へと突き進みました。

ベトナム戦争時、当初米国の報道機関は真実を伝えることが困難でしたが、やがてテレビによって真実を伝えるようになり、反戦機運が盛り上がりました。

当然、ロシアや中国の体制では、真実の報道は期待出来ない。

 

つまり、「嘘」と簡単に言い切る人は、既に体制側の虚偽報道や発言に洗脳されていると自分を疑ってください。

 

 

 

 

*4

 

* どちらの嘘が深刻か?

 

嘘でも可愛い嘘もあり、悪意が無くても深刻なダメージを与える嘘もある。

政府側や権力側の嘘と、報道機関側の嘘とどちらが深刻かを考えます。

 

歴史を振り返ると、両者の嘘の重みが見えて来ます。

 

報道機関が政府を批判する為に虚偽報道を行って騒乱が起きることはあります。

一方で、政府が虚偽報道によって戦争を正当化し開戦したり、反対勢力を弾圧することは数知れずあります。

大統領の嘘は、独裁の始まりであり、進めば独裁政権誕生です。

これは先日掲載した「連載中 何か変ですよ 219: 恐れろ!怒れ!止めろ!」で事例を挙げています。

 

国民にとって、深刻なのは権力側による虚偽報道・発言です。

なにせ権力によって報道機関や言論を抑圧することが容易で、実力行使出来るのですから。

 

特に、報道の自由度が低い国(日本、ロシア)では、御用新聞が幅を利かし、真実を暴くことはかなり困難が伴うのです。

つまり報道の自由度が低い国ほど、多くのマスコミは政府に都合の良い嘘をつくのです。

 

 

* 嘘を見抜く

 

人間には、嘘をつく人間を注視し遠ざける本能のようなものがあります。

心理学の実験で確かめられています。

そうは言っても、いつの世にも詐欺師は横行しており、多くの人には判別は難しい。

大戦前、ヒトラーの嘘(本性)を見抜けたドイツ人はほんの一握りでした。残念ながら、独ソ戦で優秀な日本政府や軍部首脳も裏切られましたが。

ヒトラーは嘘が上手く、それ以上に大衆を煽動する悪知恵に長けていた(彼は表で清廉潔白を装い、裏で策動を繰り返していた)。

 

少なくと、嘘を平気で繰り返す人物に国を託すことは絶対やってはいけない。

つまり、政府首脳が嘘をついているかどうかを確認することは必須なのです。

 

 

* 結論

 

「嘘」の問題点と見分け方を整理します。

 

証拠を嘘だとして拒否することは簡単だが、賢明ではない。

 

あなたは国の報道統制下に染まっており、何が嘘か見えていない可能性があると疑うべきです。

 

嘘を疑うなら、権力者や政府の発言・報道こそ注視すべきです。彼らの嘘は通り易く、実害が大なのですから。

 

幾ら心地良いことを言っても、嘘をつく人物を信用してはならない。まして国を任すのはもってのほかです。

 

単純な話だが、欲や感情に支配され惑わされる人々は、いつの世にも一定数存在します。

このような人々がナチス時代を先導し、悲劇が繰り返されるのです。

 

 

これで終わります。

 

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