*1
日本の現状を見ていると不安がよぎる。
社会や経済は徐々に蝕まれているが、多くの国民はその日暮らしに追われている。
この悪化の構造は世界に蔓延しており、放置すれば危険です。
この事について見て行きましょう。
はじめに
国民は日本の現状をどのように見ているのだろうか?
今、籠池や加計問題などで首相が責められ、東京都議選で都民による現政府への批判が示された。
しかし、これは一首相への人気が一時醒めただけのことかも知れない。
おそらく、多くの日本人は現在悪化が進行しているとしても、これは一過性で景気が良くなれば解決すると思っているだろう。
しがって根本的な手立てが必要とは考えない。
ここで内閣府の世論調査の結果を見ます
< 2. 2009~2013年度の世論調査の比較 >
これによると5年間で満足度が上昇しており、満足度が高いのは60歳以上と言える。
この時期、内閣は麻生、鳩山、菅、野田、第二次安倍と目まぐるしく交代した。
経済は、2008年のリーマンショックから立ち直りつつあるところに東北大震災が起こり、低迷していた。
今年2017年1月と2007年1月の世論調査を比較します。
*良い方向に向かっている分野について、今回第一位は「医療・福祉」で31.4%、10年前の第一位は「科学技術」19.7%で、「医療・福祉」は第三位で16・5%であった。
*悪い方向に向かっている分野について、今回第一位は「国の財政」で37.1%、10年前の第一位は「教育」36.1%で、「国の財政」は第四位で32.7%であった。
*現在の世相で、明るいイメージについて、今回第一位は「平和である」で61.6%、10年前も第一位は「平和である」で50.9%であった。
*現在の世相で、暗いイメージについて、今回第一位は「無責任の風潮が強い」で39.5%、10年前も第一位は「無責任の風潮が強い」で58.3%であった。
今年2017年1月と2008年2月の世論調査を比較します。
*社会で満足している点について、今回第一位は「良質な生活環境が整っている」で43.2%、9年前も第一位は「良質な生活環境が整っている」で29.0%であった。
*社会で満足していない点について、今回第一位は「経済的なゆとりと見通しが持てない」(43.0%)、以下「若者が社会での自立を目指しにくい」(35.5%)、「家庭が子育てしにくい」(28.7%)と続く。
9年前も第一位は「経済的なゆとりと見通しが持てない」(42.4%)、以下「家庭が子育てしにくい」(32.1%)、「若者が社会での自立を目指しにくい」(31.6%)と続く。
調査年の2007年1月は、第一次安倍内閣の時で、世界的に株価が上昇し好景気であった。
2008年2月は、福田内閣の時で、前年後半から株価が下がり、リーマン・ショックが起こった。
二つの比較から、現在の世論は前回に比べ「医療・福祉」で良い方向に向い、「国の財政」は悪化しているとなっている。
不思議なことに、現在はより「平和」で、「無責任な風潮」が後退していると思われている。
現在、「良質な生活環境」がより整っているとして満足度は上昇しているが、「経済的なゆとり」「子育て」「若者の自立」は依然として改善されていないと思われている。
以上三つの世論調査の結果から察するに、国民は特に悪化が進んでいるとみなしていない。
どこに問題が隠れているのか?
現在、景気が良くなった実感を持つ人はあまり多くはないだろう。
だが失業率や株価などは、景気がやや良くなっていることを示している。
ここ数年、海外の好景気もあり見過ごされ易いが、悪化は進行しているのだろうか?
< 3.家計貯蓄率 1 >
このグラフは2015年1月の東洋経済の記事の一部借用です。
データーは少し古いのですが、これから日本の長期衰退の元凶の一つが見える。
上のグラフ: 高度経済成長時、日本の貯蓄率は際立って高く、貯蓄が産業投資を可能にしており、好循環を生んだ。
しかし2013年、ついに貯蓄率は始めてマイナスになった。
下のグラフ: ここ20年ほどの各年の金融資産の動きが示されている。
ここから重大な構造的要因が見えて来る。
一つは、各家庭の貯蓄率が減少し、マイナスになる中、遂に国の資産は企業の内部留保増加分だけになってしまった。
(内部留保とは企業が税引後利益から配当金や役員賞与などの社外流出額を差し引いて、残余を企業内に留保すること。)
今後、家計の金融資産(各家庭の貯金や保険など)で国の負債(国債)を賄うことが出来なくなった(日本の2017年3月の累積家計金融資産は1800兆円)。
実に歪な経済構造になった。
国民は所得が少ないから貯蓄を食いつぶし始めた。
一方で、企業だけが収益を毎年内部留保として蓄え続けるようになった。
この内部留保を賃上げに廻せば、消費を促し景気は良くなるだろう。
またこの資金で設備投資を行えば、現在、低くなってしまった日本の労働生産性が向上し、これまた景気拡大に繋がるだろう。
結局、法人税減税などを行っても、企業が貯め込んだ資金は実需に向かわず、金融で稼ぐだけとなり、これがまたバブルや格差拡大の災いを招くことになる。
もう一つ気になることは、今後、国が国債を増発する為には、買い手である企業を益々儲けさせなければならないことです。
これは1980年代から、米国を筆頭に先進国で行われて来た誤った規制緩和と減税が世界に蔓延してしまったことと、日本のセーフティネットが遅れていることが起因している。
< 4. 家計貯蓄率 2 >
上のグラフはAllAboutの2015年1月の記事の一部借用です。
日本の貯蓄率が先進国の中で、際立って低下していることがわかります。
下のグラフは2015年1月の東洋経済の記事の一部借用です。
棒グラフの家計可処分所得(各家庭が消費に回せる金額)が日を追って低下し、それに連れて貯蓄率が低下しているのがわかる。
< 5. 企業の内部留保 >
このグラフはBlogosの2016年12月の記事の一部借用です。
青の棒グラフは資本金10億以上の大企業の内部留保の累積額で、2015年度は313兆円でした。
赤線は非正規率(雇用者数に占める非正規雇用者数の割合)と実質賃金です。
内部留保増と雇用者の状況悪化には因果関係が伺えます。
この悪化は政府がこれまで進めて来た、企業の競争力向上に名を借りた雇用規制緩和が招いたと言えます。
こうして得られ退蔵されている内部留保を正規雇用や賃上げに廻せるように政府が牽引すれば良いのですが、今のところその兆候はない。
例えば、ブラック企業で名高い電通ですが、2015年の内部留保は8098億円で、5年間で42%の増加でした(凄いですね)。
電通の社員は4万人ほどいるので、一人当たり2000万円の蓄えとなります(関係ありませんが)。
これらから見えて来るものがあります。
一つは、世界的な法人税引き下げ競争と非正規雇用の拡大がこの結果を招き、さらに日本がこの低所得層への対策を怠って来たことです。
日本の経済成長の低迷が問題にも見えますが、企業収益から見ると、偏った見方だと言えます。
この実例は米国のここ半世紀の所得格差が示しており、高い経済成長があっても多くの雇用者の所得はほとんど上がっていないのですから。
現在の低経済成長は、アベノミクスで改善を目指している、これまでの低い貨幣供給量と円高にも起因しているが、これがすべてではない。
他に長期的な労働人口の低下が大きく、既に紹介した様々な歪が災いしている。
今回見た内部留保増大と賃金低下は、明らかに低経済成長と所得格差拡大を招いている。
これまでの間違った政策の蓄積が災いしている。
但し、これを改めるには、ここ半世紀で作られた既成概念の打破と、世界が協調して事に当たらなければならない。
次回に続きます。