20181130

連載中 何か変ですよ 207: 「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」を読んで 4


 
*1


前回に続き、論者が指摘する賃金が上がらない理由(弁明)を確認します。
その裏に真実が隠されています。    


(ア)      国際化で企業はコスト競争に晒され業績は悪化し、賃金アップの余裕がない。
厳しいコスト競争は円高に晒されていた輸出企業にとっては事実でした(逆に輸出業者や庶民には恩恵だった、でも過去のことになった)。
ところが、この低経済成長の20年間でも大手企業の業績は益々好調です。
それは内部留保や配当金の著しい増加や海外投資の増加で明白であり、逆に労働分配率の低下が弁明の矛盾を突いている。
これまた一切言及がない。



< 2. 配当金総額の推移、法人企業統計年報より >


() 企業の賃金評価表(成果主義)が賃金を抑制している。
論者は企業の賃金評価表が賃金全体を抑える仕組みになっていると指摘する。
これは事実だろう。
だが成果主義であろうが、かつての職務給であろうが、運用目的が賃金上昇を目指すのならどちらでも良い。
道具(評価表)の分析で終わるのではなく、その背景に切り込まないと何ら解決しない。



< 3. 労働分配率の推移 >


著作は、これ以外にも賃金が上昇しない、または上昇していないように見える根拠(弁明)を数多く挙げている。
これらは一応もっともらしく聞こえるのだが、既に見てきたように上面を撫ぜているにすぎない。

全体に言えることは、論者達はより根深い原因に「見ざる聞かざる言わざる」に徹している。
それは論者たちが賃金低下や格差拡大に何ら関心を持っていないからなのか、むしろ私は論者たちが賃金低下を納得させる為に偽装していると疑いたくなる。

皆さんはどう感じますか?

三番目の問題を検証します。


C)    繰り返されて来た池の汚染は二度と起こらないとしている。

例え話では、原因の一つに「過去に川上から汚水が流れ込んだことでフナが弱っている」を挙げ、これが再来することを触れませんでした。
実は、著作でも同じように再来するはずの不都合な真実から目をそらしている。

論者たちは就職氷河期に就職した人々が、その後も長きにわたり低賃金になっていることを明らかにしている。
しかし奇妙なことに論者の誰一人として、就職氷河期の再来や今後の景気後退についてまったく言及していない。
この経済学者らは就職氷河期を招いたのが二度のバブル崩壊(1990年、2008年)だと知らないのだろうか?
これは、著作内で度々出て来る「最近の傾向として正社員は穏やかながらも賃金上昇の恩恵を受け、また非正規割合の増加傾向が沈静化している」を伏線とし、楽観論を印象付ける為かもしれない。




< 4. バブルで繰り返される日本の失業率の悪化 >

グラフの説明: オレンジ線はバブル崩壊開始を示し、その左側で失業率は急低下し、その後は急速に悪化し、その悪化は繰り返しながら深刻さを増している(世界で同時進行)。


私は論者らが賃金低下を引き起こす状況を知っていながら、知らない振りを決め込むことに幻滅する。

今、日米英中を筆頭に大国は史上最大の貨幣供給(金融緩和)を続けており、これまでのバブル史に照らせば、必ず数年以内に最大の金融危機が起こるはずです。
起きれば好転に見える経済指標は一転して、ここ百年間で最大最長の落ち込みになるだろう。
さらに、これらの国々はバブル崩壊の度に景気浮揚策を行い、莫大な累積赤字を積み上げて来た。
これが足かせとなり、やがて身動きが取れなくなるだろう(景気浮揚策の原資がない)。
こうなれば、失業率低下や賃金上昇、非正規割合の低下は夢の跡に過ぎなくなるだろう。

実は、この手のエコノミストは残念ながら大勢を占め、バブル崩壊まで迎合するか煽り続けることになる。



次回に続きます。



20181129

湖北・湖東の紅葉を訪ねて 3: 多良峡






< 1. 人で溢れる吊り橋 >



今回は美濃、大垣にある多良峡を紹介します。
この辺りはまったく来たことがありませんでした。
ここは広い森林公園になっています。



< 2.今回の日帰り旅行の訪問地、上が北 >

観光地としては番号1の鶏足寺、2の多良峡、3の永源寺です。
この順序で観光しました。
途中、昼食のレストランが「花伊吹」です。


< 3. 多良峡の地図、上が北 >

上の地図: 多良峡は赤丸で、鶏足寺から多良峡へのルートを赤線で、多良峡から永源寺へのルートは黄色の線で示す。

下の地図: 多良峡の拡大写真。川は北に向かって流れている。
渓谷沿いの車一台がやっと通れる林道のS地点でバスを降りて、赤線に沿って吊り橋まで行きました。
この道では車は一方通行で、私たちが戻るのに合わせて順番に観光バスが迎えに来ます。
黄色の線が吊り橋で、これを往復してまた来た道を戻りました。


< 4.いざ多良峡へ >

上の写真: 車窓から見た伊吹山付近の景色。
この写真は道路を挟んで伊吹山の反対側を見ています。
この時の伊吹山は上半分が厚い雲に覆われていました。
翌日、伊吹山は今年の初冠雪になりました。

下の写真: バスを降りて、渓谷沿いの細い道を歩きます。



< 5. 吊り橋の上から >

上の写真: 下流を望む。
下の写真: 上流を望む。

残念ながら紅葉は期待したほどではありませんでした。
しかし、春の新緑や夏の川遊びには良い所でしょう。


< 6. 紅葉 >

少しの晴れ間から日が差すと、紅葉が輝きを始めました。


< 7. 森と渓谷そして山の彩 >


< 8. 多良峡から関ヶ原までの景色 >


次回は、永源寺を紹介します。



20181128

連載中 何か変ですよ 206: 「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」を読んで 3





前回に続き、ダメ出しです。
より本質的で嘆かわしい実態に迫ります。


前回、例え話で、池のフナの減少に役立たない発言を取り上げました。
今回は、その二つ目の問題を検証します。

B)  池以外の真の原因を無視している。

例え話では、原因の一つに「フナを食うブラックバスが増加傾向にある」を挙げ、これ以上の追及をしなかったが、著作もまったく同様なのです。
著作では、この類の原因(弁明)を数多く指摘しているが、追求することなくこれらを既定事実としている。

普通に考えれば、なぜブラックバスが増えたのか、この増加防止策や駆除策が最重要課題であるはずです。
当然追及すべきは、効果が期待できる外部要因の排除、例えばブラックバスの放流規制などにあるはずです。

不思議なことに、論者たちは直近の労働市場の現象以外には一様に口を閉ざしている。

著作で取り上げられた目立つ論点(弁明)を見ます。

(ア)      正規・非正規で大きな賃金格差がある。
論者は全体の格差しか見ず、同一労働における賃金格差に関心がないようです。

(イ)      非正規雇用割合の増加。
非正規雇用の増加には様々な背景があるが、政府主導の「労働者派遣事業の規制緩和」が大きく追い風となっている。
しかし論者たちはまったく意に介していない。
さらに論者はここ一二年の伸び率の低下に注目し、ここ二三十年の著しい増加に終止符が打たれるようだと匂わす。
しかし、やがて訪れるバブル崩壊で何が起きるかは明白です(後に詳しく見ます)。


< 2. 非正規比率の推移、社会実情データ図録より >


(ウ)      先進国で最下位の男女の賃金格差。
論者はこれを自覚しているが、これ以上の分析や提言がまったくない。
あたかも政府や経済界、経済学界に忖度し、批判に口をつぐんでいるように思える。

(エ)      定年退職者の大量の再雇用(団塊世代)。
論者たちは、全体の雇用者数の増加と賃金低下は団塊世代の定年後の再就職と大幅な賃金低下が大きいと理解している。
しかし、彼らが注目するのは定年退職者が「安い給料で働くから」と「それまでの分不相応な高給」であって、「同一労働なのに大幅な減給で働かざるを得ない」ことを問題にする者はいない。


< 3. 労働生産性の推移、日本生産性本部より >

(オ)      賃金アップには生産性上昇が不可欠。
奇妙なことに日本の生産性が上昇しているデータを誰も提示しない(グラフ3)。
よしんば生産性が低下したとしても、より生産性に影響を与える企業の設備投資額の長期減少について触れる者はこれまた皆無です。
単純に考えて、生産性の上昇が頭打ちなのは企業が国内投資を控え、余剰資産が海外投資(設備投資と金融投機)に向いているからです(グラフ4)。
(この状況は1世紀前の英国と同じで、日本の再生にはこの根本治療が必要であって、金融緩和ジャブジャブではバブルが巨大化し繰り返すだけです。)

論者は賃上げを阻害している企業や政府側の真因にはまったく触れていない。
彼らの追求は、ある所(弱者)にしか向かず、その一方で鬼門(強者)には向かないようです。


< 4. 設備投資額と海外投資額の推移 >



次回に続きます。





20181127

湖北・湖東の紅葉を訪ねて 2: 鶏足寺 2




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前回に続いて鶏足寺の後半です。
今回紹介する所が最大の見せ場です。



< 2.森を抜けると・・・真っ赤な >

竹藪や茶畑を横目に細い山道を抜けると、急に視界が開け、深紅と黄金色の一角が現れた。
ここは山腹の御堂に続く階段の両側に広がる紅葉エリアの最も下にあたる。


< 3. パンフレットで良く見る参道 >

落ち葉の風情を楽しむ為に、ここだけ立ち入り禁止になっている。

上の写真: 下側から望む。
下の写真: 上側から望む。

誰かが、この紅葉を称して「まるで血を撒いたようだ」と話していた。
始め、この言葉に抵抗を感じたが、しばらくするうちに納得するようになっていた。


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ちょうど小雨が降り始め、赤や黄色に色づいた葉がしっとりと濡れて少し輝きを増したようです。


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雨傘の列が、御堂からの石の階段を下りて行く。
ここの石段はほぼ自然石のまま並べられているので歩き難い。
非常に人が多く、上り下りに危険を感じている人もいた。
幸いにも小雨はすぐ止んだので、石段がそれほど濡れずに済んだ。


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今回は紅葉の最盛期に来られたようで幸いでした。
さすがに人が多く、人を避けて写真を撮ることは出来ませんでした。
雨は降ったが、傘を持たずに撮影できる程度だったのが不幸中の幸いでした。

誰がいつの頃にこれだけのもみじ植えてくれたのか、至福の時を得させて頂いたことに感謝し、ここを後にした。


次回は多良狭を紹介します。



20181126

連載中 何か変ですよ 205: 「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」を読んで 2








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この本の何がダメなのか。
これと言った賃金アップ策はなく、せいぜい「待てば海路の日和あり」を匂わすぐらい。
深刻なのは分析手法よりも学者たちの姿勢です。


< 2.賃金の推移、2016年度IMFデーター、http://editor.fem.jp/blog/?p=1862 >


  何が深刻なのか?
例え話で説明します。

ある池でフナが年々減る傾向にあり、村人が困っていました。
そこで偉い学者に調査してもらうことなった。

その学者は
「フナを食うブラックバスが増加傾向にある」
「過去に川上から汚水が流れ込んだことでフナが弱っている」
「フナが高齢化し稚魚の誕生が少ない」
「岸辺の藻が・・・・、葦が・・・」
と指摘を続けました。

村人はそんなことは皆知っている、対策を教えてくれと懇願した。

学者は自信たっぷりに話し始め
「フナだけに餌を与えるようにしなさい」
「フナの稚魚を放流しても、ブラックバスを増やすだけで効果はない」

さらに付け加え
「フナは成長しており、池の水質は悪くないので、このまま待てば増えるはず」
と話を締めくくりました。


< 3. 男女賃金格差、2012年度内閣府資料、https://frihet.exblog.jp/18011136/ >


  この学者の説明のどこに問題があるのか?

四つに絞って考えます。
A)     対策の実効性が疑わしい。
B)     真の原因は池以外にあるのに、これを無視している。
C)     繰り返されている汚染を想定外にしている。
D)    自然のままが最良と信じ、手を加えることに抵抗がある。

これは著作全体に流れているポリシーでもある。
著作の代表的な論点を検証します。


A)     対策の実効性が疑わしい。
例え話では「フナだけに餌を与えなさい」としたが、著作にも同様の怪しげな対策が吹聴されている。
それは「企業内の従業員教育を復活させろ」です。

「 最近の企業内教育の衰退は、従業員の士気と技能の低下を招いており、個人と企業の生産性を低下させている。
この為、企業は賃金アップが出来ない。
したがって企業はかってのように従業員教育を復活させるべきである。 」

一応もっともらしく聞こえるのだが矛盾がある。

著作では、企業内教育の衰退はコスト競争と非正規雇用の増加が主な原因とし、これ以上追求していない。
これに加え、米国流経営スタイルの普及とソ連(共産主義)崩壊によって、短期経営戦略、株主優先、金融優先、労働者権利軽視の風潮が蔓延している。

しかし論者はこれら原因への対策を語らず、またこの風潮を打破できるインセンティブを与えることなしに、ただ企業に再考を促すだけで満足している。
それなのに企業が一転して企業内教育を復活させると誰が信じるだろうか。

かつての日本はそうであったが、今後も職業教育を企業に頼ることが正しい方法かどうかは疑わしい。
例えば、北欧の職業教育は真逆であるが成功している。

それは三つの柱からなる(正確でないかもしれない)。
(ア)  労働者は転職時、無償の職業教育の機会を与えられ、休業期間の生活を保障される。
(イ)  国は教育を重視している。
     学費は無償で、高校以降、国内外の就労体験による休学が可能で、学生は社会を知り目標を持ってから勉学に励むことになる。
     外国語が必修で、デンマークの小学校では母国語以外に英語と、ドイツ語かフランス語を履修する。これは国際化に非常に有利。
(ウ)  全国的な職業別組合毎に賃金が定まっており、これが労働者にキャリアアップの為に転職を繰り返すことを可能にしている。
     日本での転職は、同一労働同一賃金が無視されているために賃金が大幅に低下してしまう(他の理由もあるが)。

企業内教育一つとっても、論者たちの姿勢に疑いを持ってしまう。
私のような素人から見ても、この著作はまともな分析や提言をせずに、狭い学問領域内の発表会で満足している。


次回に続きます。