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前回に続き、論者が指摘する賃金が上がらない理由(弁明)を確認します。
その裏に真実が隠されています。
(ア)
国際化で企業はコスト競争に晒され業績は悪化し、賃金アップの余裕がない。
厳しいコスト競争は円高に晒されていた輸出企業にとっては事実でした(逆に輸出業者や庶民には恩恵だった、でも過去のことになった)。
ところが、この低経済成長の20年間でも大手企業の業績は益々好調です。
それは内部留保や配当金の著しい増加や海外投資の増加で明白であり、逆に労働分配率の低下が弁明の矛盾を突いている。
これまた一切言及がない。
< 2. 配当金総額の推移、法人企業統計年報より >
(キ) 企業の賃金評価表(成果主義)が賃金を抑制している。
論者は企業の賃金評価表が賃金全体を抑える仕組みになっていると指摘する。
これは事実だろう。
だが成果主義であろうが、かつての職務給であろうが、運用目的が賃金上昇を目指すのならどちらでも良い。
道具(評価表)の分析で終わるのではなく、その背景に切り込まないと何ら解決しない。
< 3. 労働分配率の推移 >
著作は、これ以外にも賃金が上昇しない、または上昇していないように見える根拠(弁明)を数多く挙げている。
これらは一応もっともらしく聞こえるのだが、既に見てきたように上面を撫ぜているにすぎない。
全体に言えることは、論者達はより根深い原因に「見ざる聞かざる言わざる」に徹している。
それは論者たちが賃金低下や格差拡大に何ら関心を持っていないからなのか、むしろ私は論者たちが賃金低下を納得させる為に偽装していると疑いたくなる。
皆さんはどう感じますか?
三番目の問題を検証します。
C)
繰り返されて来た池の汚染は二度と起こらないとしている。
例え話では、原因の一つに「過去に川上から汚水が流れ込んだことでフナが弱っている」を挙げ、これが再来することを触れませんでした。
実は、著作でも同じように再来するはずの不都合な真実から目をそらしている。
論者たちは就職氷河期に就職した人々が、その後も長きにわたり低賃金になっていることを明らかにしている。
しかし奇妙なことに論者の誰一人として、就職氷河期の再来や今後の景気後退についてまったく言及していない。
この経済学者らは就職氷河期を招いたのが二度のバブル崩壊(1990年、2008年)だと知らないのだろうか?
これは、著作内で度々出て来る「最近の傾向として正社員は穏やかながらも賃金上昇の恩恵を受け、また非正規割合の増加傾向が沈静化している」を伏線とし、楽観論を印象付ける為かもしれない。
< 4. バブルで繰り返される日本の失業率の悪化 >
グラフの説明: オレンジ線はバブル崩壊開始を示し、その左側で失業率は急低下し、その後は急速に悪化し、その悪化は繰り返しながら深刻さを増している(世界で同時進行)。
私は論者らが賃金低下を引き起こす状況を知っていながら、知らない振りを決め込むことに幻滅する。
今、日米英中を筆頭に大国は史上最大の貨幣供給(金融緩和)を続けており、これまでのバブル史に照らせば、必ず数年以内に最大の金融危機が起こるはずです。
起きれば好転に見える経済指標は一転して、ここ百年間で最大最長の落ち込みになるだろう。
さらに、これらの国々はバブル崩壊の度に景気浮揚策を行い、莫大な累積赤字を積み上げて来た。
これが足かせとなり、やがて身動きが取れなくなるだろう(景気浮揚策の原資がない)。
こうなれば、失業率低下や賃金上昇、非正規割合の低下は夢の跡に過ぎなくなるだろう。
実は、この手のエコノミストは残念ながら大勢を占め、バブル崩壊まで迎合するか煽り続けることになる。
次回に続きます。