前回に続き、ダメ出しです。
より本質的で嘆かわしい実態に迫ります。
前回、例え話で、池のフナの減少に役立たない発言を取り上げました。
今回は、その二つ目の問題を検証します。
B) 池以外の真の原因を無視している。
例え話では、原因の一つに「フナを食うブラックバスが増加傾向にある」を挙げ、これ以上の追及をしなかったが、著作もまったく同様なのです。
著作では、この類の原因(弁明)を数多く指摘しているが、追求することなくこれらを既定事実としている。
普通に考えれば、なぜブラックバスが増えたのか、この増加防止策や駆除策が最重要課題であるはずです。
当然追及すべきは、効果が期待できる外部要因の排除、例えばブラックバスの放流規制などにあるはずです。
不思議なことに、論者たちは直近の労働市場の現象以外には一様に口を閉ざしている。
著作で取り上げられた目立つ論点(弁明)を見ます。
(ア)
正規・非正規で大きな賃金格差がある。
論者は全体の格差しか見ず、同一労働における賃金格差に関心がないようです。
(イ)
非正規雇用割合の増加。
非正規雇用の増加には様々な背景があるが、政府主導の「労働者派遣事業の規制緩和」が大きく追い風となっている。
しかし論者たちはまったく意に介していない。
さらに論者はここ一二年の伸び率の低下に注目し、ここ二三十年の著しい増加に終止符が打たれるようだと匂わす。
しかし、やがて訪れるバブル崩壊で何が起きるかは明白です(後に詳しく見ます)。
< 2. 非正規比率の推移、社会実情データ図録より >
(ウ)
先進国で最下位の男女の賃金格差。
論者はこれを自覚しているが、これ以上の分析や提言がまったくない。
あたかも政府や経済界、経済学界に忖度し、批判に口をつぐんでいるように思える。
(エ)
定年退職者の大量の再雇用(団塊世代)。
論者たちは、全体の雇用者数の増加と賃金低下は団塊世代の定年後の再就職と大幅な賃金低下が大きいと理解している。
しかし、彼らが注目するのは定年退職者が「安い給料で働くから」と「それまでの分不相応な高給」であって、「同一労働なのに大幅な減給で働かざるを得ない」ことを問題にする者はいない。
< 3. 労働生産性の推移、日本生産性本部より >
(オ)
賃金アップには生産性上昇が不可欠。
奇妙なことに日本の生産性が上昇しているデータを誰も提示しない(グラフ3)。
よしんば生産性が低下したとしても、より生産性に影響を与える企業の設備投資額の長期減少について触れる者はこれまた皆無です。
単純に考えて、生産性の上昇が頭打ちなのは企業が国内投資を控え、余剰資産が海外投資(設備投資と金融投機)に向いているからです(グラフ4)。
(この状況は1世紀前の英国と同じで、日本の再生にはこの根本治療が必要であって、金融緩和ジャブジャブではバブルが巨大化し繰り返すだけです。)
論者は賃上げを阻害している企業や政府側の真因にはまったく触れていない。
彼らの追求は、ある所(弱者)にしか向かず、その一方で鬼門(強者)には向かないようです。
< 4. 設備投資額と海外投資額の推移 >
次回に続きます。