20181128

連載中 何か変ですよ 206: 「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」を読んで 3





前回に続き、ダメ出しです。
より本質的で嘆かわしい実態に迫ります。


前回、例え話で、池のフナの減少に役立たない発言を取り上げました。
今回は、その二つ目の問題を検証します。

B)  池以外の真の原因を無視している。

例え話では、原因の一つに「フナを食うブラックバスが増加傾向にある」を挙げ、これ以上の追及をしなかったが、著作もまったく同様なのです。
著作では、この類の原因(弁明)を数多く指摘しているが、追求することなくこれらを既定事実としている。

普通に考えれば、なぜブラックバスが増えたのか、この増加防止策や駆除策が最重要課題であるはずです。
当然追及すべきは、効果が期待できる外部要因の排除、例えばブラックバスの放流規制などにあるはずです。

不思議なことに、論者たちは直近の労働市場の現象以外には一様に口を閉ざしている。

著作で取り上げられた目立つ論点(弁明)を見ます。

(ア)      正規・非正規で大きな賃金格差がある。
論者は全体の格差しか見ず、同一労働における賃金格差に関心がないようです。

(イ)      非正規雇用割合の増加。
非正規雇用の増加には様々な背景があるが、政府主導の「労働者派遣事業の規制緩和」が大きく追い風となっている。
しかし論者たちはまったく意に介していない。
さらに論者はここ一二年の伸び率の低下に注目し、ここ二三十年の著しい増加に終止符が打たれるようだと匂わす。
しかし、やがて訪れるバブル崩壊で何が起きるかは明白です(後に詳しく見ます)。


< 2. 非正規比率の推移、社会実情データ図録より >


(ウ)      先進国で最下位の男女の賃金格差。
論者はこれを自覚しているが、これ以上の分析や提言がまったくない。
あたかも政府や経済界、経済学界に忖度し、批判に口をつぐんでいるように思える。

(エ)      定年退職者の大量の再雇用(団塊世代)。
論者たちは、全体の雇用者数の増加と賃金低下は団塊世代の定年後の再就職と大幅な賃金低下が大きいと理解している。
しかし、彼らが注目するのは定年退職者が「安い給料で働くから」と「それまでの分不相応な高給」であって、「同一労働なのに大幅な減給で働かざるを得ない」ことを問題にする者はいない。


< 3. 労働生産性の推移、日本生産性本部より >

(オ)      賃金アップには生産性上昇が不可欠。
奇妙なことに日本の生産性が上昇しているデータを誰も提示しない(グラフ3)。
よしんば生産性が低下したとしても、より生産性に影響を与える企業の設備投資額の長期減少について触れる者はこれまた皆無です。
単純に考えて、生産性の上昇が頭打ちなのは企業が国内投資を控え、余剰資産が海外投資(設備投資と金融投機)に向いているからです(グラフ4)。
(この状況は1世紀前の英国と同じで、日本の再生にはこの根本治療が必要であって、金融緩和ジャブジャブではバブルが巨大化し繰り返すだけです。)

論者は賃上げを阻害している企業や政府側の真因にはまったく触れていない。
彼らの追求は、ある所(弱者)にしか向かず、その一方で鬼門(強者)には向かないようです。


< 4. 設備投資額と海外投資額の推移 >



次回に続きます。





20181127

湖北・湖東の紅葉を訪ねて 2: 鶏足寺 2




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前回に続いて鶏足寺の後半です。
今回紹介する所が最大の見せ場です。



< 2.森を抜けると・・・真っ赤な >

竹藪や茶畑を横目に細い山道を抜けると、急に視界が開け、深紅と黄金色の一角が現れた。
ここは山腹の御堂に続く階段の両側に広がる紅葉エリアの最も下にあたる。


< 3. パンフレットで良く見る参道 >

落ち葉の風情を楽しむ為に、ここだけ立ち入り禁止になっている。

上の写真: 下側から望む。
下の写真: 上側から望む。

誰かが、この紅葉を称して「まるで血を撒いたようだ」と話していた。
始め、この言葉に抵抗を感じたが、しばらくするうちに納得するようになっていた。


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ちょうど小雨が降り始め、赤や黄色に色づいた葉がしっとりと濡れて少し輝きを増したようです。


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雨傘の列が、御堂からの石の階段を下りて行く。
ここの石段はほぼ自然石のまま並べられているので歩き難い。
非常に人が多く、上り下りに危険を感じている人もいた。
幸いにも小雨はすぐ止んだので、石段がそれほど濡れずに済んだ。


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今回は紅葉の最盛期に来られたようで幸いでした。
さすがに人が多く、人を避けて写真を撮ることは出来ませんでした。
雨は降ったが、傘を持たずに撮影できる程度だったのが不幸中の幸いでした。

誰がいつの頃にこれだけのもみじ植えてくれたのか、至福の時を得させて頂いたことに感謝し、ここを後にした。


次回は多良狭を紹介します。



20181126

連載中 何か変ですよ 205: 「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」を読んで 2








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この本の何がダメなのか。
これと言った賃金アップ策はなく、せいぜい「待てば海路の日和あり」を匂わすぐらい。
深刻なのは分析手法よりも学者たちの姿勢です。


< 2.賃金の推移、2016年度IMFデーター、http://editor.fem.jp/blog/?p=1862 >


  何が深刻なのか?
例え話で説明します。

ある池でフナが年々減る傾向にあり、村人が困っていました。
そこで偉い学者に調査してもらうことなった。

その学者は
「フナを食うブラックバスが増加傾向にある」
「過去に川上から汚水が流れ込んだことでフナが弱っている」
「フナが高齢化し稚魚の誕生が少ない」
「岸辺の藻が・・・・、葦が・・・」
と指摘を続けました。

村人はそんなことは皆知っている、対策を教えてくれと懇願した。

学者は自信たっぷりに話し始め
「フナだけに餌を与えるようにしなさい」
「フナの稚魚を放流しても、ブラックバスを増やすだけで効果はない」

さらに付け加え
「フナは成長しており、池の水質は悪くないので、このまま待てば増えるはず」
と話を締めくくりました。


< 3. 男女賃金格差、2012年度内閣府資料、https://frihet.exblog.jp/18011136/ >


  この学者の説明のどこに問題があるのか?

四つに絞って考えます。
A)     対策の実効性が疑わしい。
B)     真の原因は池以外にあるのに、これを無視している。
C)     繰り返されている汚染を想定外にしている。
D)    自然のままが最良と信じ、手を加えることに抵抗がある。

これは著作全体に流れているポリシーでもある。
著作の代表的な論点を検証します。


A)     対策の実効性が疑わしい。
例え話では「フナだけに餌を与えなさい」としたが、著作にも同様の怪しげな対策が吹聴されている。
それは「企業内の従業員教育を復活させろ」です。

「 最近の企業内教育の衰退は、従業員の士気と技能の低下を招いており、個人と企業の生産性を低下させている。
この為、企業は賃金アップが出来ない。
したがって企業はかってのように従業員教育を復活させるべきである。 」

一応もっともらしく聞こえるのだが矛盾がある。

著作では、企業内教育の衰退はコスト競争と非正規雇用の増加が主な原因とし、これ以上追求していない。
これに加え、米国流経営スタイルの普及とソ連(共産主義)崩壊によって、短期経営戦略、株主優先、金融優先、労働者権利軽視の風潮が蔓延している。

しかし論者はこれら原因への対策を語らず、またこの風潮を打破できるインセンティブを与えることなしに、ただ企業に再考を促すだけで満足している。
それなのに企業が一転して企業内教育を復活させると誰が信じるだろうか。

かつての日本はそうであったが、今後も職業教育を企業に頼ることが正しい方法かどうかは疑わしい。
例えば、北欧の職業教育は真逆であるが成功している。

それは三つの柱からなる(正確でないかもしれない)。
(ア)  労働者は転職時、無償の職業教育の機会を与えられ、休業期間の生活を保障される。
(イ)  国は教育を重視している。
     学費は無償で、高校以降、国内外の就労体験による休学が可能で、学生は社会を知り目標を持ってから勉学に励むことになる。
     外国語が必修で、デンマークの小学校では母国語以外に英語と、ドイツ語かフランス語を履修する。これは国際化に非常に有利。
(ウ)  全国的な職業別組合毎に賃金が定まっており、これが労働者にキャリアアップの為に転職を繰り返すことを可能にしている。
     日本での転職は、同一労働同一賃金が無視されているために賃金が大幅に低下してしまう(他の理由もあるが)。

企業内教育一つとっても、論者たちの姿勢に疑いを持ってしまう。
私のような素人から見ても、この著作はまともな分析や提言をせずに、狭い学問領域内の発表会で満足している。


次回に続きます。







20181125

湖北・湖東の紅葉を訪ねて 1: 鶏足寺 1



 *1



2018年11月22日、紅葉巡りのバスツアーに参加しました。
近江・美濃にある鶏足寺、多良峡、永源寺を訪ねました。
生憎の天気でしたが、紅葉は最盛期だったようです。
これから数回に分けて紹介します。


< 2.鶏足寺散策コース、上が北>

鶏足寺は滋賀県長浜市の山里にあります。
創建は8世紀と古く、後に小谷城主浅井家の祈願所となった。

コースは左のSから歩き始め、赤線に沿って右の赤いバルーン(鶏足寺)まで行き、折り返します。
素晴らしい紅葉が見られるのはゾーンABで、Bは圧巻です。
今回紹介するのはSからゾーンAを抜け、Bの手前までです。

写真はほぼ歩いた順に並んでいます。
撮影時間は10時45分から20分間です。


< 3. 村の中を行く >

下の写真: そこここに熟した柿が鈴なりに成っている木を見かけた。


< 4. 神社の参道に入る >

最初の紅葉が出迎えてくれた。
今回は紅葉の最盛期に来れたようだでした。
去年は別の寺ですが、紅葉の盛りを過ぎて訪れ悔しい思いをしていました。


< 5. 紅葉と黄葉 >

上の写真: 参道を振り返る。
曇り空でこの色ですから、快晴で陽光を浴びていればどれだけ光彩を放っていたでしょうか。

下の写真: 参道から村を見下ろす。
まるで朱色と金色が綾なす絵巻のようです。


< 6。 神社の参道と境内 >

上の写真: 参道を振り返った。

下の写真: 境内から参道を振り返った。
釣鐘堂と石灯篭、そして境内に降り積もる色とりどりの落ち葉、それを包み込むように緑の高木と紅葉した木々が取り囲む、まさにこれは日本の心象風景の一つでしょう。



< 7. 神社の境内 >


< 8. 神社を通り抜けて >

神社の境内を抜けて坂道を下り、向かいの山に向かって田んぼの小路を行く。


< 9. 田んぼの道を抜ける >

上の写真: 紅葉している所に茶屋があり、その奥の森の中を進むことになる。

下の写真: 来た道を振り返る。
中央の樹木に覆われた高台が歩いて来た参道です。


< 10. 森の中を進む >

小雨がぱらつき始めましたが、長くは続きませんでした。

次回は鶏足寺らしい圧巻の紅葉を紹介します。

次回に続きます。



20181124

連載中 何か変ですよ 204: 「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」を読んで 1


 

< 1.経済図書ベストワン >


この本を読んで期待は裏切られ、益々日本の将来に不安を抱いた。
これだけの学者が集い論考しているが、まったく不毛です。
日本はガラパゴス化し、大勢や大国に迎合するだけに成り下がったかのようです。





< 2. この本が解明しようとした課題 >

*著書「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」について
2017年刊、玄田有史編、慶応義塾大学出版会。
22名の労働経済学者やエコノミストが多方面から表題の課題を現状分析している。
この本は、日本経済新聞にて「エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10」の第1位に選ばれている。

それだけに私は期待して読んだ。
しかし1/3ほど読むと、期待は失望に変わった。
我慢して読み進めば進むほど賃金問題どころではなく、日本の経済学の覇気のなさを知らされた。
これではお茶を濁す経済政策しか出ず、日本経済の将来に期待できないだろう。

この本は私のような経済の素人にも読める体裁をとっている。
しかし、使用されている労働経済用語から言って初心者に懇切丁寧な説明を目指したものではなく、啓蒙書の類ではない。
これはエコノミスト向けに書かれたもので安易な推測や断定を排除し、分析に重きを置いた本だろう。
それはそれで良いのだが、今の賃金問題に疑問を持つ国民からすると、すこぶる難がある。

それは、「労働需給」「行動」「制度」「規制」「正規雇用」「能力開発」「年齢」などの様々な論点から論者が個々に分析していることにある。
これが矛盾した分析結果を含め羅列するだけになり、全体としてまとまりのない方向性の乏しいものにしている。
よしんば理解が進んだ読者でさえ、多岐にわたる要因が今の賃金問題を招いていると納得するだけで、多くは現状を追認するだけに終わるだろう。
あわよくば賃金が今後上昇するだろうと期待する向きもあるかもしれない。

一方で、多方面からの問題提起は素人が見逃しがちな労働経済に関わる様々な要因を気づかせてくれる良さもある。
以下のものが目につきました。

A. 高齢者の定年退職後の再雇用は、彼らの大幅な賃金低下によって賃金全体を低下せ、労働需給を緩和させてしまう(数人の論者はむしろ高齢者の高賃金を問題にしている節がある)。

B. 繰り返されるバブル崩壊は、その都度に生じる就職氷河期に就労した者が生涯にわたり低賃金で苦しむことになり、また経営サイドもこの期に賃金カットを出来なかった反動として好景気になっても賃金アップに慎重で有り続けることになる。

C. 介護職の賃金が国の規制によって低く抑えられている為に、対人サービス全体の賃金を抑制することになる(一方、バス会社の規制緩和が賃金上昇を生じなかった事例もある)。

他にも様々な知識が挙げられているが、上記の3点だけの指摘にすら、論者が見落としている不都合な真実が隠れている(敢えて指摘しないのかもしれないが)。

この本には大きな弱点が潜んでおり、私にはそれが日本経済の将来を救いがたいものにするように思える。
どれだけの人がこの点に気づいているのだろうか?
多くの人が気づいてくれれば日本の将来は救われると思えるのだが。


次回に続きます。