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この本の何がダメなのか。
これと言った賃金アップ策はなく、せいぜい「待てば海路の日和あり」を匂わすぐらい。
深刻なのは分析手法よりも学者たちの姿勢です。
* 何が深刻なのか?
例え話で説明します。
ある池でフナが年々減る傾向にあり、村人が困っていました。
そこで偉い学者に調査してもらうことなった。
その学者は
「フナを食うブラックバスが増加傾向にある」
「過去に川上から汚水が流れ込んだことでフナが弱っている」
「フナが高齢化し稚魚の誕生が少ない」
「岸辺の藻が・・・・、葦が・・・」
と指摘を続けました。
村人はそんなことは皆知っている、対策を教えてくれと懇願した。
学者は自信たっぷりに話し始め
「フナだけに餌を与えるようにしなさい」
「フナの稚魚を放流しても、ブラックバスを増やすだけで効果はない」
さらに付け加え
「フナは成長しており、池の水質は悪くないので、このまま待てば増えるはず」
と話を締めくくりました。
* この学者の説明のどこに問題があるのか?
四つに絞って考えます。
A)
対策の実効性が疑わしい。
B)
真の原因は池以外にあるのに、これを無視している。
C)
繰り返されている汚染を想定外にしている。
D)
自然のままが最良と信じ、手を加えることに抵抗がある。
これは著作全体に流れているポリシーでもある。
著作の代表的な論点を検証します。
A)
対策の実効性が疑わしい。
例え話では「フナだけに餌を与えなさい」としたが、著作にも同様の怪しげな対策が吹聴されている。
それは「企業内の従業員教育を復活させろ」です。
「 最近の企業内教育の衰退は、従業員の士気と技能の低下を招いており、個人と企業の生産性を低下させている。
この為、企業は賃金アップが出来ない。
したがって企業はかってのように従業員教育を復活させるべきである。 」
一応もっともらしく聞こえるのだが矛盾がある。
著作では、企業内教育の衰退はコスト競争と非正規雇用の増加が主な原因とし、これ以上追求していない。
これに加え、米国流経営スタイルの普及とソ連(共産主義)崩壊によって、短期経営戦略、株主優先、金融優先、労働者権利軽視の風潮が蔓延している。
しかし論者はこれら原因への対策を語らず、またこの風潮を打破できるインセンティブを与えることなしに、ただ企業に再考を促すだけで満足している。
それなのに企業が一転して企業内教育を復活させると誰が信じるだろうか。
かつての日本はそうであったが、今後も職業教育を企業に頼ることが正しい方法かどうかは疑わしい。
例えば、北欧の職業教育は真逆であるが成功している。
それは三つの柱からなる(正確でないかもしれない)。
(ア) 労働者は転職時、無償の職業教育の機会を与えられ、休業期間の生活を保障される。
(イ) 国は教育を重視している。
①
学費は無償で、高校以降、国内外の就労体験による休学が可能で、学生は社会を知り目標を持ってから勉学に励むことになる。
②
外国語が必修で、デンマークの小学校では母国語以外に英語と、ドイツ語かフランス語を履修する。これは国際化に非常に有利。
(ウ) 全国的な職業別組合毎に賃金が定まっており、これが労働者にキャリアアップの為に転職を繰り返すことを可能にしている。
①
日本での転職は、同一労働同一賃金が無視されているために賃金が大幅に低下してしまう(他の理由もあるが)。
企業内教育一つとっても、論者たちの姿勢に疑いを持ってしまう。
私のような素人から見ても、この著作はまともな分析や提言をせずに、狭い学問領域内の発表会で満足している。
次回に続きます。
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