< 1.経済図書ベストワン >
この本を読んで期待は裏切られ、益々日本の将来に不安を抱いた。
これだけの学者が集い論考しているが、まったく不毛です。
日本はガラパゴス化し、大勢や大国に迎合するだけに成り下がったかのようです。
< 2. この本が解明しようとした課題 >
*著書「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」について
2017年刊、玄田有史編、慶応義塾大学出版会。
22名の労働経済学者やエコノミストが多方面から表題の課題を現状分析している。
この本は、日本経済新聞にて「エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10」の第1位に選ばれている。
それだけに私は期待して読んだ。
しかし1/3ほど読むと、期待は失望に変わった。
我慢して読み進めば進むほど賃金問題どころではなく、日本の経済学の覇気のなさを知らされた。
これではお茶を濁す経済政策しか出ず、日本経済の将来に期待できないだろう。
この本は私のような経済の素人にも読める体裁をとっている。
しかし、使用されている労働経済用語から言って初心者に懇切丁寧な説明を目指したものではなく、啓蒙書の類ではない。
これはエコノミスト向けに書かれたもので安易な推測や断定を排除し、分析に重きを置いた本だろう。
それはそれで良いのだが、今の賃金問題に疑問を持つ国民からすると、すこぶる難がある。
それは、「労働需給」「行動」「制度」「規制」「正規雇用」「能力開発」「年齢」などの様々な論点から論者が個々に分析していることにある。
これが矛盾した分析結果を含め羅列するだけになり、全体としてまとまりのない方向性の乏しいものにしている。
よしんば理解が進んだ読者でさえ、多岐にわたる要因が今の賃金問題を招いていると納得するだけで、多くは現状を追認するだけに終わるだろう。
あわよくば賃金が今後上昇するだろうと期待する向きもあるかもしれない。
一方で、多方面からの問題提起は素人が見逃しがちな労働経済に関わる様々な要因を気づかせてくれる良さもある。
以下のものが目につきました。
A.
高齢者の定年退職後の再雇用は、彼らの大幅な賃金低下によって賃金全体を低下せ、労働需給を緩和させてしまう(数人の論者はむしろ高齢者の高賃金を問題にしている節がある)。
B.
繰り返されるバブル崩壊は、その都度に生じる就職氷河期に就労した者が生涯にわたり低賃金で苦しむことになり、また経営サイドもこの期に賃金カットを出来なかった反動として好景気になっても賃金アップに慎重で有り続けることになる。
C.
介護職の賃金が国の規制によって低く抑えられている為に、対人サービス全体の賃金を抑制することになる(一方、バス会社の規制緩和が賃金上昇を生じなかった事例もある)。
他にも様々な知識が挙げられているが、上記の3点だけの指摘にすら、論者が見落としている不都合な真実が隠れている(敢えて指摘しないのかもしれないが)。
この本には大きな弱点が潜んでおり、私にはそれが日本経済の将来を救いがたいものにするように思える。
どれだけの人がこの点に気づいているのだろうか?
多くの人が気づいてくれれば日本の将来は救われると思えるのだが。
次回に続きます。
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