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これまで見てきた戦争被害は死者や金額の多寡で表現出来ました。
戦争による兵士と民間人の傷病者の数は死者を遙かに凌ぐことになるが、不明瞭です。
しかしもっと恐ろしく、社会の更生を拒む根深いものがあります。
その他の被害
これまで扱っていない被害を列記します。
< 2. 結合双生児の分離手術後、家庭を持ったドクさん >
1. ベトナム戦争での枯れ葉剤散布: 現在も約30万人の奇形児がいる。
2. 戦場に埋設された地雷: 世界に1億個ある対人地雷で、和平後も死傷者が出ている。
3. 毒ガス、都市爆撃、火炎放射器、原子爆弾など: これら無差別殺戮手段は主に今次大戦で開発されたもので、大量の民間人が死亡した。
4. 精神を犯される兵士: 米国のイラク・アフガン戦争の結果、帰還兵の14%(10万人以上)が精神的な治療を受け、5万人以上が心的外傷後ストレス障害になった(資1)。日本でも太平洋戦争末期になると、還送戦病者の精神病患者比率は最大22%(学者により8%)になった(資2)。これは戦後の研究結果であり、当時、兵士が精神病に罹ることに気づいた医者は希だった。
5. 人権や自由が無くなる: 戦争が始まるとあらゆる国家は戒厳令や様々な統制令を敷くことになる。徴兵制や言論統制などにより、否応なく国民を戦争遂行に向かわせる。
< 3.映画「ディア・ハンター」、ベトナム戦争帰還兵の心の傷を描いた >
日本の場合
アジア・太平洋戦争時、戦時体制が何をもたらしたのかを見ます。
1.国民精神総動員法: 1937年、日中戦争開始共に施行。「国家の為に自己犠牲を尽くす国民」を育てる目的で大規模な宣伝広報が行われることになった。
2.国家総動員法: 1938年施行。政府はこれによって労務・資金・物資・物価・企業・運輸・貿易・言論などほとんどの国民生活と企業活動を勅令で統制可能になった。つまり議会を通さず天皇の命令により、政府は戦争遂行へと大きく舵を切ることが出来るようになった。
3.大政翼賛会: 1940年、太平洋戦争開始の1年前に結成。すべての政党を解体し、この会に一本化し、総裁である首相が、各都道府県から末端の町内会までを統括した。
4.治安維持法: 1941年、太平洋戦争開始の9ヶ月前に大幅強化。これによりあらゆる政府批判を最大死刑で弾圧し、有無を言わせぬ体制が完了した。
< 4.治安維持法 >
この軍部主導の全体主義的な計画経済がなければ苛酷な戦争を継続出来なかっただろう。
少ない食料と資源を国民で分かち、老若男女がすべての力を出し切り、資金・家財道具を供出し、お国のために身を捧げてこそ可能だった。
この過程で、地主制衰退や企業の利益抑制、技術学校設立などプラス面も無いではなかった、ほとんどは限定的だが。
このような一体化を成し得たのは一重に、国民の期待を担った貴公子近衛公と天皇制(統帥権干犯)のおかげだったろう。
いくつかのエピソード
1942年の翼賛選挙の無効票に書かれていた批判を見ます(以下、資4)。
「軍官専制世は真っ黒、資本家便乗搾取に踊る衆院萎えて色無し」(政治批判)
「翼賛会は国賊にして且つ憲法の大敵だ」
「南進して成果は挙がっても泣くは国民ばかりなり」(軍部批判)
「軍政をたおせ、戦争やめろ」
「債権の押し売りやめてくれ」(統制経済批判)
「米をあたえずんば死を与えよ馬鹿」
「産めよ増やせと言っても白米不足で生まれた子供は栄養不良だ。将来の日本民族を考えないか」
「官吏極楽商工地獄せめてなりたや守衛さん」(官吏、商工政策批判)
「あたらしい共産主義者岸(信介、商工大臣)を打ち殺せ」
「中小商工業者は犬猫にあらず、殺されてたまるか」
当時、軍需優先のため中小企業を強制的に改変・統合させ財閥系企業の系列に組み込んだ。これが現在の下請け制の原形となった。
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国民の発言が露見するとどうなったのか、1942年の事件から(以下、資4)
「面白い話をこもごも聞きます。今日本は負戦さばかりだそうですね。発表ばかり勝った様にしているが、本当は負けているとのことだ」(職工の発言、誣告罪で送検)
「天皇の奴は暑い目寒い目を知らずに・・・、国民を奴隷扱いにして、・・いつかは政体が変わる」(新聞記者の発言、刑法で送検)
「俺は招集されて天皇陛下のために死ぬのは嫌だ。日本は皇室を倒さんと本当の幸福は来ないのだ」(事務所員の発言、不敬罪で懲役1年)
当時、学者や思想家、活動家の国策に沿わない著作は次々に発禁となった。
新聞は、当局に逆らうと新聞紙の供給制限(配給制)で脅され、さらに徹底した検閲で真実報道や批判が出来なかった。
それを越えて訴える者は獄中死を覚悟しなければならなかった。
国民は虚偽広報の中で真実から閉ざされ、疑うことも批判も出来ず、当然、改革を望むことは出来なかった。
こうして戦争開始と共に、国民はズルズルと国家と無理心中を強いられた。
次回は、「戦争は何をもたらすのか」を締めくくり、これからのために最も注意すべきことを書きます。
参考資料
資1:「世界を不幸にするアメリカの戦争経済」スティグリッツ共著、徳間書店、2008年刊。
資2:「戦争と罪責」野田正彰著、岩波書店、1998年刊。
資3:「概論 日本歴史」佐々木潤之介編、吉川弘文館、2000年刊。
資4:「アジア・太平洋戦争 日本の歴史20」集英社、森武麿著、1993年刊。