*1
賃金低下と格差拡大が野放しにされている最大の理由を語ります。
放置すれば最悪の事態になる。
これで結びとします。
これまで著作の問題点を考察してきました。
A)
対策に実効性がない。
B)
真の原因を隠している。
C)
バブル崩壊を無視している。
これらは序の口に過ぎない、核心に迫ります。
D) 自然のままが最良と信じ、手を加えることに抵抗がある。
例え話で対策に「池の自然サイクルに干渉しない」ことを挙げた
著書にも同様のドグマ「健全な労働市場に規制を加えない」が貫かれている。
特に最低賃金は市場を歪め、効果が無いとまで言い切る。
これは自由放任主義経済への心酔が言わせたものです。
暗黙の前提「自由競争こそが最善」があり、これによりコスト低下などの効用の最大化が起こるとしている。
この前提が間違っていることを身近な実例で見ます。
*2
1.
最低賃金について
日本の最低賃金は先進国中ほぼ最低で、この規制が外されると間違いなく賃金相場は下がる(多くの外国人技能実習生の賃金はこれよりさらに低い)。
論者は最低賃金が失業率を上げると反論するだろうが、要は下位90%の国民の収入が下降し続ける現状から上昇させることの方が重要です(所得再分配で日本の酷い貧困率を改善出来る)。
逆に言えば低賃金だから求人が多いのであって、悪循環を繰り返すだけ(安い移民も)。
例えば、スウェーデンでは統一した最低賃金を設けていないが、職業毎の賃金相場がある。
ここでは移民労働者に対しても同一賃金を適用すると言う卓越した取り組みがなされている。
なぜなら産業側が移民を安く使おうとして賃金相場が下がり、また国内労働者の締め出しが起こるからです(多くの国でこうなっている)。
こうしてみると最低賃金(規制)は市場を歪めると言うより、明らかに社会の効用を高めている。
(規制緩和は必要です。多くは業界を守る規制が災いをもたらす。)
*3
2.
ゴーン会長の行為からわかること(法律違反とは別)
この事件は自由放任主義の欠点「優位者は自由市場を歪める」を示している。
自由放任主義者は「自由であれば人は創意に溢れて経済を活性化させ、その見返りに高給を得る。これが経済の好循環を生む」を信じる(富裕者に都合が良い)。
ところが経営トップが給与を自由勝手に決定出来てしまうと、この循環は断たれる。
彼は苦労して企業業績向上に努めるより、金額を書き換えれば済むのだから。
信奉者は「企業間競争や株主の圧力により、給与は妥当な水準になる」と反論する。
そうはならない、ほとんどの大企業の株は他のグループ会社によって持ち合いされており、結局同じ立場の経営者(数少ない超資産家)らによって運営されているから。
さらに労働組合が非力なので、彼らの身勝手な行動を牽制出来ない(組合組織率の高い北欧は可能)。
先導する米国はバブル崩壊時、救済された経営者すら平然と高給を掠め取った。
自由放任された市場は必ず機能不全に陥る。
これは日米欧で超富裕者の収入が急増する一方、90%の国民の賃金が延びないことと符合する。
悲しいことに日本だけは低下している。
*4
3.
自由競争の限界を知る
信奉者は、「広大な原野に狐と兎が共に生息していても均衡が保たれ、兎が絶滅することはない」をイメージし、この世は弱肉強食でうまく均衡していると納得する。
しかし間違いは簡単にわかる。
もし、この両者を球場の大きさで囲むとどうなるだろうか?
数か月の内に先ず兎が、最後に全滅するだろう。
残念ながら現在の経済学は現実社会のメカニズムを充分把握出来ていない(おそらく優位者に都合の良いように解釈する輩が多数なのだろう)。
ましてノーベル賞と縁のない日本の経済学では、まったくお手上げです。
ありもしない完全な自由競争にすがって成果のない経済政策を擁護する愚は止めるべきです。
*5
* 最後に
もっとも重要なことは、自由放任主義と金融重視の経済政策から早く脱却しないと、大多数の国民はさらに苦境に追い込まれると知るべきです。
1980年代以降の欧米、それを猛追する日本は正にこの呪縛に絡めとられ、抜き差しならない状況にあります。
一方、北欧は半世紀ほど前から新た道を模索し成功した。
しかし、グローバル化の波に呑まれつつある中で、北欧にも欧米の毒がまわり始めている。
北欧が健全な内に、新たな道に進むことが出来ることを願って終わります。
ご清聴ありがとうございました。
追記
今の世界経済の状況を示すグラフを載せます。
すべて借用です。
*6
上のグラフ: 1980年以降、世界の中央銀行が金融緩和の為に通貨発行(茶線)を加速せる度に、バブル崩壊を招いている。
特にここ10年は通貨発行量がGDP(青線)すら越えてしまった。
これは歴史的な未体験ゾーンに突入したことを示す(危険領域)。
下のグラフ: 世界は金融政策、主に通貨発行(青線)で景気の好転を目指して来た。
しかし、かつての経済成長や低失業率は起こらず、インフレ(赤と緑線)すら起こらない。
*7
「マーシャルのk」はマネーサプライ(M2)/GDPです。
日本のマネーサプライ(赤線)が目立つのは、二つの理由があります。
一つはアベノミクス以前、日銀は貨幣供給を抑えていたのだが、なにせGDP成長率が年を追うごとにゼロになっていたからです。
アベノミクス以後は、日銀黒田のバズーカ砲によるものです。
いつしか、インフレターゲット論の信奉者が望む、世界屈指の貨幣供給量を誇るようになった。
しかし、結果がまったく現れない(インフレ、経済成長)。
不思議なことに、あれほど成果を豪語していた学者先生らは悪びれることもない。
日本の経済学と経済学者はこの程度なのです。