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日本は平和で、人々は豊かさを享受しているようです。
しかしこのまま突き進むと、いずれ経済も平和も失う事態が来るとすれば・・
今、懸念すべきことはないのだろうか?
*はじめに
現在、進められているアベノミクス(円安誘導、株価下支え、金融緩和、リフレ策、規制緩和)に不安はないのだろうか?
確かに、円安になり株価は上昇し失業率は低下した。
一方で、インフレは起こらず、経済成長は芳しくなく、賃金は低下し続けている。
ゼロ金利政策と日銀の莫大な国債買い上げが続き、そして累積赤字は減少するどころか増大している。
多くの人々は、いずれ経済が上向くとの希望を抱いてるのだろうか?
そうなれば賃金が上昇し、累積赤字が減り、年金や医療介護体制も維持できると考えているのだろうか?
この楽観はどこから来るのだろうか?
*楽観論の陰にあるもの
政府や取り巻きが唱える楽観論の根拠は正しいのだろうか?
この楽観論の前提は非常に単純明快で、日本経済は刺激さえすれば昔のように高い成長を維持できると言うものです。
そして概ねアベノミクスはヘリコプターマネー(通貨増発)によるインフレ誘導で投資や消費を拡大させ、長期の経済停滞から脱却すると言うものです。
当初の円安は輸出企業を刺激し、また株高によって一部には好転の兆しがありましたが、それ以外では実体経済への好影響はあまりなく、効果は持続していないと言えます(つまりトリクルダウンがない)。
なお失業率の低下は、主に団塊世代の退職による代替え雇用によるものです。
ここで、楽観論で見えなくなっている懸念や問題点について考えてみます。
(難しい理屈は不要です)
日本経済は刺激さえすればほんとうに成長を始めるのでしょうか?
または一時成長しても後に大きな歪や災いが生じないのでしょうか?
A インフレになりさえすれば消費が増え、ほんとうに経済は上昇し続けるのか?
B 日本の経済は本当に成長出来るのか?
C かつてない金融緩和が破滅的な金融危機を招くのではないか?
D 日銀や政府の政策が将来、国民の負担や財政破綻に繋がらないのか?
E 高い経済成長が起きても、米国のようにならないのか?
楽観論を唱える識者はすべて上記の問題点を無視するか否定している。
*上記問題点に共通すること
それぞれの問題について様々な経済学者が激論を戦わせており、素人にはその正否を判断することは困難です。
右派左派、保守革新、米国寄りかで見方は大きく対立している。
しかも多くの人はこれらを予想出来ない不安な事として無視しているようです。
しかし、上記5つの問題が現実に進行しているか、過去に起きていた事を知れば、皆さんは問題の大きさを識ることになるはずです。
つまり、これは現実の問題なのです。
*グラフから読み解きます
< 2. 日本と主要国の失業率、社会実情データ図録より >
失業率はリフレ策などの金融緩和によって繰り返されるバブル崩壊で増大している。
赤の縦線は米国のバブル崩壊の始まりを示し、米国の失業率(赤の折れ線)はバブル中に低下していても、崩壊後に急上昇を繰り返している。
黒の縦線は日本のバブル経済の崩壊の始まりを示す、その後の「失われた20年」の長期にわたる失業率の上昇が深刻です。
つまり、リフレ策を含む金融緩和は概ね経済の疲弊を繰り返すだけなのです。
A インフレになりさえすれば消費が増え、ほんとうに経済は上昇し続けるのか?
結論から言えば、アベノミクスのリフレ策は2013年から2017年の5年間の結果から見れば効果がなかった。
ただ円安と株高は当初効果があったが、これは2012年の欧州金融危機解消と海外投機筋の安倍政権誕生への期待によって起こったもので、いつまでも続くものではない(ファンダメンタルの改善ではなく海外の投機動向によるもの)。
物価上昇が起きない理由として原油安が足を引っ張っているとの指摘があるが、本来、原油安は進行している賃金低下を補うべきもので、むしろ円安による物価高が災いして消費全体が伸びなくなっている。
リフレ策の先輩である欧米の経済状況から、リフレ策は成功しているとは言えず、クルーグマンは財政出動が重要だと言っている(グラフ2はその一例)。
*グラフから読み解きます
< 3.日本の潜在成長率、 日本銀行より >
このグラフは低下し続ける日本の潜在成長率(黒線)を示し、設備投資(資本ストック)の減少と生産性(TFP=全要素生産性)の低下が顕著です。
この潜在成長率の低下は1990年代の急減によって始まっているが、これはバブル経済(1986年12月から1991年2月までの51ヵ月間)の反動がもたらしたものです。
これ以来、経営者は資金(内部留保など)を長期に固定し予測困難な設備投資に使うより、手早く高利を稼げる海外証券などに投資するようになった。
つまり、経済を牽引すべき人々は実体経済への意欲を完全になくし、あり余る資金は金融経済、それも海外に儲けを求めるようになってしまった。
この資金が逆流しない限り、幾ら通貨が増発されても設備投資に向かず、金融商品に向かいバブルを煽るだけなのです。
この国内の実体経済を軽視する風潮が日本の衰退の元凶であり、かつて英国が没落へと突き進んだ道でもありました。
いま日本は戦後3位のアベノミクス景気と浮かれているが、またバブルが弾けると、かつて言われた「失われた20年」よりさらに長い衰退が待ち受けることになる。
人々は、幾度繰り返せば悟るのでしょうか?
B 日本の経済は本当に成長出来るのか?
結論は、日本経済は衰退の道を進んでおり、抜本的な対策を講じないと手遅れになる。
大規模な経済刺激策が一時、功を奏しても、その後に大きな反動が来るか、手遅れを招く。
アベノミクス(特に金融緩和)は一時的な興奮剤か、むしろ常習性の麻薬であり、真の経済・社会問題から目を逸らしてしまうことになる。
日本経済の成長力については潜在成長率や需給ギャップなど専門的な理解が必要になる。
しかし、今の日本とまったく同じ状況が19世紀の英国であったことを知れば、衰退の恐ろしさを実感できるはずです。
豊かで世界をリードしていた経済大国が半世紀の間に没落したのです。
つまり、衰退の真因に手を付けず、一方で成長力以上に通貨増発することはバブル崩壊とデフォルトを招くことになる。
*グラフから読み解きます
< 4. 株価の推移 >
上のグラフ: 日経平均の推移。ウイキペディアより。
バブル経済で株価は高騰し繁栄したが、その後20年に及ぶ景気後退と手痛い後遺症を負ってしまった。
下のグラフ: 日経平均とNYダウの推移。YAHOO!ファイナンスより。
リーマンショック後、米国は直ぐに破綻の連鎖を食い止める為に大規模な救済(約200兆円)と金融緩和を行い、株価は上昇を始めた。
当時、日本は日銀のおかげで被害を抑えることが出来たが、現在アベノミクスにより株価は高騰している。
つまり、我々はいつか来た道を(バブル)をまた懲りずに進んでいる。
C かつてない金融緩和が破滅的な金融危機を招くのではないか?
金融危機はほぼ10年毎に繰り返されて来ており、ここ数年以内に確実に起きるでしょう。
バブルの発信源である米国を振り返ると、前回は2008年初頭のリーマンショック、前々回は2000年末のITバブル、さらに1987年のブラックマンデーと、その間隔は8~13年でした。
米英日中が行っている歴史上始まって以来のGDP成長率を上回る通貨増発は、莫大な資金が実体経済ではなくあらゆる高配当の投機(証券や為替)に注がれ、やがてバブル崩壊に至る。
このバブルを生む金融業界の体質は金融危機後、一時規制されることはあっても、後に景気刺激策として規制緩和され、元の木阿弥か一層酷いものとなる。
不思議な事に、日本政府寄りのエコノミストは当然としても、アベノミクスに異論を唱える民間シンクタンクのエコノミストでさえ、バブル崩壊をまともに取り上げていない。
政財界から距離を置いている少数の学者や識者は、これについて警鐘を鳴らしている。
米国も同様です。
このことは既に日本のエスタブリッシュメントが完全に一色に染め上げられ、国が衰退の道から抜け出せなくなっている証左でしょう。
*グラフから読み解きます
< 5. 日銀の保有国債残高、By Bloomberg >
単純に考えて、政府が赤字国債を毎年30兆円発行して、それを直ぐ日銀が買い取る、これを永遠に続けて弊害が無ければ、こんな楽な財政運営はありません。
2017年末、日銀の保有国債残高は既に400兆円になり、アベノミクスの2013年初頭以来5年間で300兆円が買い足されています。
これこそ打ち出の小槌の大発明ですが、世界で日本の中央銀行ほど大量に購入している国もなければ、これを続けている国もありません。
米のFRBは金融緩和を止めて出口戦略を取り、国債を市中に戻しています。
つまり、日銀は早晩出口戦略を取らざるを得ず、かつスムーズな実施が必要なのですが、なぜかまったく沈黙を守っているのが不気味です。
D 日銀や政府の政策が将来、国民の負担や財政破綻に繋がらないのか?
私は国民の負担増と財政破綻の可能性はより高まっていると考える。
残念ながら自信を持って、現在の日銀と政府の金融政策が上記問題を招くと断言できません。
しかし、この恐れはアベノミクスによってより高まると感じています。
この理由は大きく二つあります。
一つは政府が現状のように赤字国債を発行し財政を拡大し続けるなら、早晩、国債を国民の資金だけで消化できなくなるでしょう。
日銀が大量の国債を買い取ってくれる現状では財政規律が緩み、国債増発は続くでしょう。
さらに家計資産の伸びの減少に加え、団塊世代の老後資金の預金引き出しが今後現実のものになります。
法人資産は増加していますが、これは低金利の内国債ではなく益々海外の高利の証券投資に向かうことになります。
当然、真の衰退の問題にメスを入れない限り、持続的な景気上昇が起こらないと考えます。
もしインフレが起きた場合、リフレ派が仮定するように金利上昇が経済成長率よりも低ければ良いのですが、恐らくは逆に金利の方が高騰する可能性もあります。
このようなことになれば、金利1%の上昇で累積赤字1000兆円の利払いだけで年間10兆円増え、利払費は現在の2倍を越え、累積赤字を減らすどころではない。
(逆の場合、GDP成長率が金利より高ければ数十年かけて累積赤字は減って行きます。)
こうして破綻(デフォルト)は近づくでしょう。
もう一つは日銀の出口戦略に関するもので、莫大な保有国債を市中に吐き出す時に問題となります。
私はこの問題の金融メカニズムを完全に理解出来ないのですが、複数の元日銀理事が警鐘をならしています。
結論は、将来、日銀の負債(おそらくは十数兆円から数十兆円)を国民が負担しなければならないと言うものです。
E 高い経済成長が起きたとしても、米国のようにならないのか?
結論は、確実に米国の二の舞になります。
つまり経済成長が起きても所得格差が拡大し、30年以上国民の90%が所得を減らしている米国社会が将来の日本の姿になるでしょう。
(「何か変ですよ! 87: 何が問題か? 10: そこにある未来」に詳しい)
今までと同様の政策、アベノミクスだけでなく自由主義経済と金融重視の米国追従の政策を取り続ける限り、この道を突き進むことになる。
*グラフから読み解きます
< 6.主要国の経済推移、 日本経済復活の会より >
19世紀前半まで世界経済をリードしていた英国は半世紀(赤枠)ほどで衰退してしまった。
この衰退は今の日本の姿でもあるのです。
*次回は、かつての英国衰退から日本の現状を理解したいと思います。