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前回、若い皆さんの将来の生涯賃金を予測しました。
それは残念なものでしたが、さらに悲惨な状況が拍車をかけることになります。
それは退職金や年金の減額、医療介護費の高騰などのあらゆる付けが回って来ることです。
はじめに
前回、男性大卒の生涯賃金は40年後には30%低下し、現状の3億2千万円から2億3千万円になっていることを見ました。
この差額9600万円は2軒の新築が可能な金額ですが、この生涯賃金は非常に恵まれた正規雇用(年収800万の40年勤務)の人々のものです。
男性の正規と非正規の生涯賃金の現状の差43%を加味すれば、40年後の大卒男性の非正規の生涯賃金はついに60%も低下し、差額で1億9千万円低下、総額1億3千万円になる。
しかも、今後増え続ける非正規雇用は労働者の60~70%を占めるようになるでしょう。
労働者の大幅な収入低下は国の所得税と消費税収入の低下、社会保障(年金、医療・介護)の掛け金の減少を招きます。
これは将来、あなた方が受けるべき年金や医療介護費の不足に輪を掛けます。
しかし、最も大きな問題は労働者の可処分所得の減少が消費需要を長期に減少させ、貯蓄を不可能にさせることです。
これが景気や投資を後退させる悪循環を生むことになり、さらに累積財政赤字の償却を不可能にさせるでしょう。
つまり賃金低下だけが問題ではなく、経済や福祉に大きな災いをもたらすのです。
*2
声高な反論
こんな悲観的な未来は起こるはずがない、馬鹿げていると唱える人はいます。
例えば、現在60才定年を75才まで延ばせば、単純に39%(55年/40年)の生涯賃金の増加が見込めます。
おそらく高齢者の労働収入はかなり低下するので、この見込み通りにはいかない。
確かに増収するでしょうが、これが先進国のあるべきライフスタイルでしょうか?
北欧では異なる道を選んでいます。
< 図3.2014年度版家計金融資産、TV東京より >
現在、家計の貯蓄総額900兆円の70%は60才以上の世帯が保有しています。
しかし団塊世代(今の70才前後)が今後、この貯蓄を老後資金として使い果たしていくことになるので、20年後にはかなり貯蓄額は減ることになる。
ここでまた、たとえ家計の貯蓄率が今後マイナスになっても、伸び続けている法人貯蓄(現在800兆円)によって国債(累積赤字1050兆円)は国内で消化出来き、国債の金利高騰は起こらないとの楽観論もある。
これも一見可能だと思わせる。
しかし懸念は既に進行している。
それは以前紹介した国内から海外への資金逃避(現在990兆円)です。
主にこれは証券投資(高利回り)に向かっている。
これは加速しているので、いずれ多くは日本国債に見向きもしなくなり、金利を大幅に上げない限り、資金は国内に戻ってこないでしょう。
かつてヒトラーがやったように海外投資の禁止をやれば別ですが。
もし金利が2%上昇するだけで国債償却費は年間21兆円増え、現在(H28年度)の償却費24兆円の倍、45兆円になります。
こうなればさらに赤字国債を増発しなければならない。
< 図4. 平成28年度一般会計予算、財務省より >
しかし、まだ何とかネタを見つけ楽観論を煽る人々がいます。
それは、国には膨大な資産(H21年度で647兆円)があり、純債務はかなり小さいと言うものです。
つまり、いざとなればこれら資産を売却して、負債は1/3の372兆円に過ぎないと言うのです。
< 図5.平成21年度国の財務(貸借対照表の資産部分)の概要、財務省より>
この年度の負債合計は1019兆円でした。
例えば国道や堤防を誰が買ってくれるのでしょうか、これで先ず有形固定資産184.5兆円は諦めざるを得ません。
また私達の年金の蓄えを誰かに売っていいのでしょうか、これで運用寄託金121.4兆円もだめです。
91.7兆円の内、米国債購入の82兆円を売ってしまっていいのでしょうか?
実は、売ることは可能なのですが円高になってしまうことと、この購入資金は別の借金に頼っているので、資産とは言えないのです。
結局、こうして647兆円はすべて資産と呼べるものではないのです。
これは当然で、資産があるのなら初めから法律が禁止している赤字国債を発行しないはずです。
少し脱線したようです。
要は、定年延長策に期待できず、また賃金低下が招く景気後退と累積赤字の問題が未来に重くのしかかってくるのです。
ここで不思議なことに気づきます。
なぜ楽観論や諦めが蔓延るのでしょうか?
今後、悪化する少子高齢化、膨大な累積債務、賃金低下、福祉の低下、格差拡大に対して多くの国民はなぜ無関心なのでしょうか?
少なくとも危険だとか、許せないとの声はほとんど聞こえてこない。
一つは楽観論を煽るエコノミストやマスコミの存在が大きい。
なぜ彼らは上記の問題を真剣に捉え報道しないのでしょうか?
そのような立場を取る理由は三つほど考えられます。
1. アベノミクスの信奉者。
2. 米国主導の自由主義経済の信奉者。
3. 政権や経済界の主流に属することで益を得る者。
この三つは重なって作用しています。
1.と2.の論説には共通する前提があります。
善意に解釈すれば、固く主義を貫いているとも受け取れますが・・・
そこには必ず景気が上向くと言う大前提があり、一方でバブル崩壊などを想定しないかまったく触れていないことです。
この論は、まるで一昔前の原発の安全神話と同じと言えますが、これよりも格段にたちが悪い。
なぜなら原発事故よりも遥かに高い確率でバブル崩壊とその甚大な経済的被害(金融危機)は繰り返されているのですから。
現状の景気拡大は、少しはアベノミクスのおかげもあるが、一番はリーマンショック後から続く大国3ヶ国とユーロ圏主導の歴史的な金融緩和によるものです。
逆にこれが危険のですが。
3.の立場は、狭い意味で森友学園、加計学園、元TBSの山口記者などに見られるものと根は同じです。
これらにはまったく善意が感じられない。
おそらくは、1,2,3.の立場で楽観論を煽る人々は、原発問題と同様に国民に対して無責任で自らの栄達にきゅうきゅうとしているだけなのでしょう。
特に、本来信頼されてしかるべきエコノミストや金融界のリーダーが幾度もバブル崩壊を見過ごし、挙句は煽ることもしてきました(リーマンショックの半年前ですら)。
もう一つは、この手の問題は素人の国民に理解することが困難・・・
残念ながら、どの問題の一つを取り上げても、学者やコメンテーターの意見は分かれている。
これを素人が両者の論説を読み比べて虚実を判断することは難しい。
マスコミは両論に分かれて対立しており、自ら納得できる論を導き出すのは更に難しい。
このような場合、私がお勧めする手立てがあります。
1. 海外の書物を参考にする。
出来れば米英の学者でないか、米国の主流ではない学者の著書が良い。
米国は完全に自由主義経済で覆い尽くされており、これが現在の弊害の元凶 なので、この外部に居る学者の説を拝聴することが必要です。
< 図6. 2017年版、包括的成長指数(IGI)のランキング、エキサイト ニュースより >
IGIは世界109カ国・地域における不平等・貧困の解消への取り組み、総体的な生活水準の向上に対する努力を評価した指針です。
2. 優等生の国を参考にする。
米英の格差社会や低福祉の元凶とその対策を知る為には、戦後、異なる道(政策)を選んだ国々を知ることが必要です。
北欧やフランス、ドイツなどの政策とその成果を知ることで、現在の間違った政策に気付くことでしょう。
残念ながら、日本ではこの類の情報が故意に捻じ曲げられているか、避けられているように思う。
3. 歴史から学ぶ。
今の日本の現状は、19世紀後半の英国経済の衰退や20世紀前半の日本の大陸進出と似ているところがある。
英国の場合は、衰退が差し迫っているにもかかわらず、誰も動かずズルズルと深みにはまっていただけでした。
日本の場合は、様々なあがきを繰り返しながらも最悪の経済状況に至ると、あっさりと打開策は挙国一致で大陸への武力侵攻でまとまった。
そこには悲しいほどの甘い希望と他人任せの風潮があった。
4. 経済学は自然科学ではない。
私達が接するマスコミや経済学者の景気や経済指標の予測は当てにならないと思ってください。
一番重要な事は、経済学は自然科学のような計算によって正確に結果を予測できる学問ではないことです。
残念なことに、逆に信頼を得ようとして「私の説明や予測は確実です」と言う人ほど使用出来ず、科学者とは言えない。
著名なエコノミストの予測が如何に外れるかは、過去に予測している著書を見れば呆れるほどです。
外れる理由は、経済の諸条件の関わり合いが複雑なことと、予測する時は条件を限定せざるを得ないからです。
さらには、経済は論理的な動機よりもアニマルスプリット(動物的衝動)で大きく変動することがあるからです(バブル崩壊の切っ掛け)。
次回に続きます。